オートバックスがIoT新事業の「WEAR+i」で目指す「安心・安全」な未来とは? 日本IBMからクルマの世界に飛び込んだ八塚昌明氏

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株式会社オートバックスセブンは「クルマのことならオートバックス」のキャッチフレーズでも知られている企業だ。カー用品の販売や車検、整備など、日本全国で約600店舗を誇る専門店「オートバックス」を展開する業界大手である。

しかし、そんなオートバックスは、いま、一見、自動車とは関係ないIoT事業に取り組んでいるという。

1947年(昭和22年)の創業以来、カー用品一筋だったオートバックスが目指す「WEAR+i(ウェア アイ)」とは何か?


■IBMでのIT経験とスキルでクルマ業界の新事業に挑む

オートバックスセブン ICT商品部長 八塚昌明氏


この新規事情を牽引するのは、
オートバックスセブン ICT商品部長 八塚昌明氏(50歳)だ。

実は、八塚昌明氏は、自動車業界の出身ではない。

八塚昌明氏は、1993年日本IBMに入社する。
経理部門に2年間在席し、その間に関わったプロジェクトから、プロジェクトという仕事そのものに興味を持ったという。
その後、日本IBMの情報システム部門にてSE、プロジェクトマネージャーとなり、10年以上のキャリアを積む。最高情報責任者(CIO)のオフィスに移動してからは、日本IBMの社内IT投資管理を統括し、ニューヨーク赴任も経験。帰国後は、クラウド事業やスマートシティ事業の事業立ち上げと展開に参画する。

日本IBMを退職後は2つの企業を経て、2016年7月に、オートバックスセブンに入社した。

2016年当時のオートバックスセブンでは、新しいビジネスを検討していた。
八塚昌明氏は、ITとファイナンスに明るい経歴から新規事業の提案と実行を担う人材として迎えられたのだ。

八塚昌明氏
「入社してから半年は新しい事業に対する提案を整理しました。
それを担当執行役員に提案。
執行役員のサポートをいただいて、
2017年4月に、
『ICTカーエレクトロニクス商品部』
を新たに立ち上げ、そこの部長になりました。」


八塚昌明氏は、ICTカーエレクトロニクス商品部の部長として、
・IoTやAI等のデジタル技術を活用した新しい商品やサービスの企画・開発
・既存のカテゴリであるカーエレクトロニクス商品の開発・調達
この2つのミッションを遂行する部門を担当していた。

しかし、新規事業と既存事業とでは、時間軸も判断軸も異なる。
このため、両者を有機的に連携させ運営していくことは難しかった。

そして2018年4月、
「ICTカーエレクトロニクス商品部」を分離。

「ICT商品部」として独立し、新たなスタートを切った。


■「WEAR+i(ウェア アイ)」とはなにか? ブレないクルマ業界の『安心・安全』思想

「WEAR+i(ウェア アイ)」のブランドコンセプト


「WEAR+i(ウェア アイ)」は、
オートバックスセブン独自のIoTプラットフォームを活用して集められたデータをもとに、社会的な課題やニーズに対応する事業の新ブランドである。

「安心・安全」をテーマに、生活シーンを豊かにする商品やサービスの開発・展開し、クルマだけでなく、様々な生活シーンに対応したサービスを展開していくという。

「WEAR+i」の「i」には、
・見守りの意味での「eye」
・ゆるやかなつながりで実現する様々な「愛」
・ICT、IoT、AI
これらが含まれている。

さらに、
・統合的(Integrated)な基盤(Infrastructure)を活用し
・対話(Interactive)や気づき(Insight)によって
・革新的な商品やサービス(Innovation)のご提案を目指す
といった考えも入っているそう。


現在、検討しているIoTプラットフォームを活用した取り組みとしては、
・クルマ×IoTによる運転見守りサービス
・杖×IoTによる見守りサービス
・ZUKKU(AIロボット)×IoTによる見守りサービス
この3つがある。


運転見守りサービス用のデバイス(左)、杖に取り付け用のデバイス(右)


クルマ×IoTによる運転見守りサービス
車載型IoT機器による運転見守りサービス。
各種センサーを内蔵したIoT機器をクルマに取り付け、外出時の位置や移動情報を家族に提供できる。

万が一、事故が発生した場合、
・コールセンターから運転者に電話
・救急車の手配
・警察への連絡
などが行えるという。

地方では、都心と異なり、移動手段としてのクルマは必要不可欠だ。
そのため70代、80代、あるいは90代といった高齢者もクルマを運転している。
こうした地域での運転の安全をサポートするのだ。

高齢者を想定しているため、電源はクルマから直接とる仕様なのだそう。
理由は、シガーレットから電源をとる仕様では、誤って抜いてしまい、いざという際に使えないことを回避するだめだという。

八塚昌明氏
「しっかりと見守るサービスがあれば、ご家族も安心です。
そういう観点では、しっかりと訴求できるのではないかと考えています。」


杖×IoTによる見守りサービス
高齢者や視覚障がい者が使う杖や白杖に取り付けるIoT機器。
外出時の位置情報や移動情報を、家族や介護者に提供することができる。
緊急通知ボタンを押すと、コールセンターから緊急連絡先に連絡するサービスもあわせて提供する予定。
またジオフェンス機能も搭載しており、設定エリアからの出入りも確認できる。

八塚昌明氏
「現在の試作品は、まだ実証実験用なので大きいのですが、製品版では3分の1くらいの大きさになります。理想は500円玉くらいの大きさにしたいと思っています。

軽度の認知症の方は生活習慣を覚えていますので、外出時には靴を履いて外出します。
靴の甲の部分に、IoT機器をアタッチメントで取り付けておけば、外出時に何も持たずに見守りができる環境が作れます。
加速度センサーは転倒を検知できますので、将来的には転倒をお知らせする仕組みも提供したいと考えています。」


ZUKKU(AIロボット)×IoTによる見守りサービス

見守りサービスに対応するデバイス「ZUKKU」とタブレット端末


ミミズク型AIロボットが高齢者の日々の生活を見守ってくれるサービス。
対話機能や人感センサーを搭載しており、遠く離れた家族へ大切な人の状況を知らせてくれる。

八塚昌明氏
「BtoB向けにはハタプロさんという会社で製作し、提供されています。
こちらをBtoC向けとして使わせていただくということで、ご協力いただいています。
目立たせることによって、積極的に会話をしてもらうためのサービスです。」

タブレットと連携しており、会話の内容はテキストでタブレットに表示される。
聞き逃しても、テキストで表示されるので、見て確認することができるのだ。

八塚昌明氏
「AIに関してはドコモさんのAIを使わせていただこうと考えています。
ドコモさんは雑談ライブラリという、雑談に関する非常に強力なライブラリを持っています。
そのライブラリを活用させていただくことで、いわゆる一般の会話をすることができます。」
実は、ZUKKUには、カメラは搭載されていない。
理由について八塚昌明氏は、
「カメラを付けるソリューションもありますが、
カメラは、見られている心理的なストレスが大きくなりがちです。
(ZUKKU)は、会話で見守るという発想から生まれたのでカメラを搭載していません。

会話だけでも、たとえば、
・喉が痛い
・熱っぽい
・足が痛い
こうしたいうキーワードをAIで認識し、ご家族にお伝えすることができます。」


「WEAR+i」を実現するには、その根底となるオートバックスセブン独自のIoTプラットフォームが不可欠だ。


■「WEAR+i」を実現していくICT事業部の3つの柱とは
八塚昌明氏が率いるICT商品部には、このプラットフォーム実現のために、3つ柱となる事業を展開している。
・クラウドファンディング事業
・ドローン事業
・デジタルトランスフォーメーション事業

この3つの事業は並行して動いているが、接点は無い。
八塚昌明氏は、そんな3つをつなぎ合わせてオートバックスセブン独自のIoTプラットフォームに繋げているという。

●実店舗「オートバックス」が活かせる!クラウドファンディング「チェッカーフラッグ」
クラウドファンディング分野の事業では、
2018年の昨年4月に、クラウドファンディングサイト「チェッカーフラッグ」を立ち上げた。
(※2019年4月より商品戦略部に移管予定)

八塚昌明氏
「チェッカーフラッグでは、
クルマだけではなく、人々のライフスタイルに刺さる商品を発掘する手段として運営をしています。

当然、(チェッカーフラッグを通じて)世の中の支持を受けた商材に関しては、
・弊社の店舗で扱ったり
・ECサイトで販売したり
・他の販売チャネルで取り扱ったり
とか、しています。

チェッカーフラッグは、
従来のクラウドファンディングサイトになかった
・ファンクション
・小売り
・販売チャネル
これらを、一括でご提供できるのが強みかと思います。」

チェッカーフラッグは、クラウドファンディングサイトとしては後発だ。
しかし、実店舗「オートバックス」での販売というチャネルを活かせることが、既存のクラウドファンディングサイトには無い大きな魅力やメリットとなっているそう。

●ドローンサッカー、ドローン車検(管理)で、あらたなドローンビジネスを
ドローン事業でのオートバックスセブンは、
実は、グローバル市場の民生ドローン分野で約7割というシェアを誇る「DJI」の正規代理店なのだ。

ここでも日本全国に約600店舗ある実店舗「オートバックス」を活用し、120店舗でドローンを販売しているという。

八塚昌明氏
「ドローンには、機体が大きな製品もあります。
『クルマにドローンを乗せて、外出先でドローンを楽しみませんか』
まずはこうした、クルマを軸にしたドローンの楽しみ方の提案をしています。」

しかし、
八塚昌明氏が考えるドローンビジネスとは、
単にドローンを飛ばすだけではない。

八塚昌明氏
「ドローンは今後、いろいろと法整備がされていきます。
免許制度だとか、
機体の個体管理とか、
そういったもの(制度や管理の手間)が出てくるのではないかと思っています。

そうした分野は、
車検制度があるクルマと非常に親しいと言えます。

当然(オートバックスは)、そうしたドローンの機体の管理やメンテナンスができるスキルがあり、環境を作ることができると考えています。」

あとは、その先のサービス事業ですね。
我々はドローンをただ売るのではなくて、
ドローンを活用したサービス事業を検討しています。

たとえば、
空撮老朽化管理など世の中にはすでに多くのドローンサービスが存在していますが、
まずはエンターテインメント系にフォーカスしたサービスを
検討しています。

エンターテインメント系には、
韓国が発祥のエンターテインメントドローンスポーツ「ドローンサッカー」がある。

「ドローンサッカー」は、
球体のフレームで覆われたドローンが5対5で対戦する競技。
幅20m×奥行き10m×高さ5mのフィールドの両端には、リング状のゴールがある。

ドローン5機は2つのポジション(役割)に別れている。
・1機は、オフェンス
・4機は、ディフェンスとオフェンス支援
オフェンスの1機は「ストライカー」と呼ばれ、ゴールを奪えるドローンとなる。
「ドローンサッカー」は、ドローンレースとは異なり、複数のドローンによるチーム戦となるため、闘い方を考えないと勝てない、実際のサッカー同様に戦略が必要となるエキサイティングなゲームだ。

オートバックスセブンでは、
この「ドローンサッカー」を日本でも導入、展開していくことを考えているそう。


八塚昌明氏
「私どもは、ドローン機体の輸入販売とドローンサッカーのプロモーション活動もやっていきます。
ドローンサッカー大会や運営に関しては、日本ドローン協会さんと連携して進めていくことになります。」

●IoTやAIを活用したプラットフォームを作る デジタルトランスフォーメーション
デジタルトランスフォーメーションでは、
IoTやAIといった次世代のデジタル技術を活用した新しい商品やサービスを提供する。

八塚昌明氏
「IoTプラットフォームを構築していきます。
その上でいろいろな通信プロトコルを気にせずに繋がる環境を準備します。

そこに吸い上げたデータをサービスとしてどんどん活用する。
これがプラットフォーム構想の中の一部になります。」

このデジタルトランスフォーメーションでは、ドローンやクラウドファインディングで製品化された商品を「根」として情報を収集し、「幹」であるプラットフォームを成長させていく。
「幹」であるプラットフォームが成長すれば、新しい「枝葉」というサービスを生み出すことがきるという。

つまり情報の循環でビジネスを活性化し、大きく活用していくという。

八塚昌明氏
「3つ事業の根幹はプラットフォームです。

プラットフォームを軸としたビジネスを推進していきたいということなのです。」

オートバックスセブンがプラットフォームのAPIをオープンに展開する。
このプラットフォームで、新しいアイデアを持っている人たちに新しいサービスを作っていってもらいたいという。


ここまで八塚昌明氏突き動かす「WEAR+i」とは、なにか?




八塚昌明氏
「普段着です。
いろんな『i』を普段着として身にまとっていただきたいですし、そういうサービスを提供したいと考えています。

おしゃれな方は洋服を気にされますが、普段着は気にしないで着ていますよね。
そういう感覚で、普段の生活の中で何気ないかたちで身にまとっていただいて、『安心、安全』というサービスをしっかりとご提供したいと考えています。

クルマを活用する企業として『安心、安全』というのは、外すことができない大きなキーワードだと思っています。

そのあたりは、私たちの会社としても、ブレることのない、しっかりとした軸としてやっていきたいと考えています。」

現在のサービスは「WEAR+i」のまだ一部にすぎないという。
今後、様々なサービスの展開を予定しているそうだ。
1. 交通安全・地域交通
2. 介護福祉分野における移動支援・生活支援
3. 農業支援
4. 地域防災と防犯対策
5. 女性活躍推進・青少年の育成
6. 環境保全
7. スポーツ振興・部活動支援・健康増進

「クルマのことならオートバックス」株式会社オートバックスセブン


執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm