海賊版サイト「漫画村」は多くの問題を内包している(写真は同サイトのトップページ)

無料で人気コミックスが読み放題。しかも、閲覧できるのは”ネット上のどこか”に存在するデータであり、直接情報をサーバーに保管しているため著作権法上の問題はなし。サイト利用に罪悪感を持たずに、大好きな漫画をネットで読める。それが2017年10月25日に運営者・lichiro ebisu(本名非公開)が公開した海賊版コミックス閲覧サイト「漫画村」だ。

現実には多数の問題があるのだが、「違法ではない」という謳い文句に引き寄せられユーザーを集めていた漫画村に注目が集まるようになったのは、日本漫画家協会が2月になって利用しないよう呼びかける声明を出したことがきっかけだった。

漫画村運営者の主張は正しいのか?

仮想通貨のマイニング処理を閲覧者に行わせることで収入を得るスクリプトを仕込んでいたことが発覚するなど、このところサイバースペースでは連日のように漫画村というキーワードが登場している。


政府はプロバイダーに接続遮断を要請することで海賊版サイトの跋扈を抑えようとしている(写真:Graphs / PIXTA)

4月11日になって漫画村はグーグルの検索対象から外されている。これはカナダのハーレクインなど、複数の出版社からデジタルミレニアム法に基づく著作権侵害の申し立てが反映されたからだ。

さらに同じ11日、政府は海外にある海賊版サイトへの接続を遮断するよう国内のインターネットプロバイダーに要請する方針を固めた。菅義偉官房長官は11日の記者会見で早急に対策を打つことを明らかにしている。

激しい変化の渦中にある「漫画村問題」だが、ここでは漫画村運営者が主張する「法的な責任はない」という点について、法的な側面を整理した上で、漫画村問題を通して浮かび上がるネット社会の課題について書き進めてみたい。

「漫画村のサーバーはそもそも海外に置かれているほか、コミックスの原本は保存せず、別の場所にあるデータを参照、読みやすく整理しているだけに過ぎず、よって著作権者は第三者である漫画村ではなく、違法な公衆送信を行っているサイトに文句を言うべきだ」ーー。簡単に言えば、漫画村の運営者が主張しているのはそういうことだ。

この点について、ネットビジネスに関する法務に精通している中島・宮本・溝口法律事務所の中島章智弁護士に見解を求めた。

まずは海外で運営されているとされる漫画村に日本の著作権法が適用できるかだが、この点については「事例ごとの解釈となるが、海外のサーバーであったとしても、日本から閲覧されることを想定したサービスであれば、日本の著作権法が適用されるという考え方が採用される可能性が高い」(中島弁護士)という。

「著作権侵害の幇助」と判断される可能性

その上で”リンクを貼るだけ”ならば、著作権を侵害しないという主張に対しても「著作権侵害の幇助」と判断される可能性があると指摘する。

リンク先が著作権法上合法ではないコンテンツであっても、リンクそのものを罪に問われることがないのは漫画村の運営者が主張しているとおりだ。しかし、権利侵害が明らかになって以降もリンクを続けた場合はその限りではなく、著作権侵害の幇助と判断される可能性が出てくるわけだ。

もっとも、漫画村の運営者がどのようにしてコミックスのデータを見つけてくるのか(あるいは自ら何らかの方法でアップロードしている可能性もあるだろう)はわかっていない。ネットを自動的にクローリングし、運営者の意図を挟むことなく自動リンクしているだけだという主張をした場合はどうだろうか。

「クローリングだとしても、クロールによって見つけた膨大なデータのごく一部だけに著作権侵害のコンテンツがあったというわけではなく、その大多数が侵害している。すなわち著作権侵害が明らかなコンテンツを選別しているわけであり、善意の第三者との主張は難しい」(中島弁護士)

つまり、元となる著作権を侵害したデータをアップロードした者はもちろん、漫画村の運営者自身も著作権侵害を幇助した罪に問われる可能性がある。”漫画村は合法なので、皆さん好きに読んでも問題ないですよ”という主張は、極めて危ういと言える。

そんなヤバすぎる漫画村がなぜここまで放置されてきていたのか。

それは漫画村の手法が合法だからではない。漫画村のサーバーが海外にある場合、日本国の著作権を侵害していたからといって、ただちにそのサーバーを停止させるような措置を日本の警察や裁判所など実施できるわけではないからだ。つまり、違法ではあるが、直接的に漫画村のサイトが置かれたサーバーを規制することができなかったというだけに過ぎない。

漫画村の運営者が、あたかも合法であるかのような主張をしていた理由は、若年層も多いと予想される利用者に対して、罪の意識を和らげる意図があったものと推察される。実際、漫画村への批判を強める著作権者に対して、”なぜ無料で読者が楽しめるような努力をしないのか”と無邪気なコメントも(わずかではあるが)ネット上ではあったようだ。

ビデオリサーチインタラクティブによると、こうした海賊版漫画閲覧サイトの利用者は30万人にのぼり、漫画村以外にも同様のサイトは存在する。たとえ既存の海賊版サイトを閉鎖に追い込んだとしても、今後も類似の海賊版サイトが誕生するだろうことは想像に難くない。

背景には価値観の変化がある

一方でコミック業界の主な収益源であるコミックス(漫画単行本)の売り上げが低下すれば、漫画家を目指すクリエイターも減り、文化としての漫画が衰退するのも自然の摂理だ。出版科学研究所が2月に発表した数字によると、漫画業界全体の売り上げは1995年の5864億円をピークに下落に転じ、2017年には4330億円まで落ち込んだ。

しかし、コミックスに限っては電子版の普及によって購入しやすくなったこともあり、1995年の売り上げ2507億円から3377億円へと成長。デジタル版コミックスの売り上げが、紙のコミックス売り上げを上回った。

音楽や映像作品も”物理パッケージのコンテンツを所有する”という価値観が失われてきているが、漫画の世界でも”単行本を所有する”ことに対する価値観が変化しているといえるだろう。

このように価値観が変化する中で漫画村のような海賊版サイトが蔓延すれば、物理的な”単行本”が存在しないこともあって、コンテンツを無料で閲覧することへの罪悪感がますます薄れていくのではないだろうか。無料コンテンツが世にあふれる中、使える小遣いが少ない若年層が、漫画村のようなサイトで読むことにブレーキを掛けることは簡単なことではない。

では為す術もなく、海賊版サイトが蔓延した状態を受け入れるしかないのだろうか。

そこは、かつて音楽業界が辿った道が参考になるのかもしれない。

1990年代後半にナップスターが使われるようになると、CDからリッピングされた音楽がネットで幅広く出回るようになった。当初のナップスターは、音楽の趣味があう者同士が語り合うチャットソフトに音楽データの転送機能を融合したもので、音楽を非合法に取引するのではなく、好きな音楽を共有し、新しいアーティストや楽曲への気付きを与えるものだと主張されていた。

このナップスターを音楽業界は全力で潰しに行き、同時にリッピングした楽曲データに厳しい複製管理を求めるようになる。当時はSDMIというナンセンスなルールや、CDの変造品とも言えるコピーコントロールCDなども登場したが、いずれも消費者側に不利益をもたらすものだったこともあり、その後、iTunes Music Storeをアップルがサービスインすると一気にダウンロード販売へと傾いていった。

ビジネスモデルが変わった理由とは?

むろん、ここまで単純なストーリーではないが、現在、ダウンロード販売の売り上げが落ち込む一方で月額固定制の音楽配信サービスへと主流が移り変わっている。これはビジネスモデルの変遷だが、ビジネスモデルが変わったのには理由がある。

コンテンツを生み出すクリエイターと、それを楽しみたい消費者。その間を適切に結びつけ、市場として成立させる方法論、最適なビジネスモデルが時代ごとに変化しているからこそ、こうしたパラダイムシフトが起きている。消費者は”もっとも心地よい方法”でコンテンツを楽しむ。

たとえば海賊版が蔓延していた音楽コンテンツ業界にあって、なぜ消費者は有料ダウンロードを始めたのか。それはiTunesが定めたFairplayというコンテンツ管理が消費者に”フェアな取引”と感じさせる緩い規制だった上(現在はそれも撤廃されている)、1曲あたり約1ドルという安価な設定になっていたからだ。

使いにくい海賊版サイトで違法とわかっている楽曲を探し、ダウンロードするよりも、快適で対価に見合うサービスを提供するサイトの方が、さまざまな手間を考えれば安い上、気兼ねなく愉しめる。心理的なハードルも含め、”無料の海賊版”と”有料の正規版”を比べたときに後者の方が安いと感じさせたことが、iTunesのポイントだった。

つまり、”海賊版サイトを利用するコスト”と”有料正規版のコスト”を比較した場合、後者の方が安い、簡単、快適と感じてもらえれば、自然と正規版に顧客は流れる。ここで言うコストとは、前述したように罪悪感なども含んだものだ。サイトアクセスのパフォーマンスや閲覧しやすさなど、”コミックスを読むためにかかる労力”と言い換えてもいいかもしれない。

そのためには、海賊版サイトをひとつひとつ叩いていくことが第一歩だろう。もっとも容易な手段は、デジタルミレニアム法にもとづいて検索対象から外し、インターネットユーザーからの発見を困難にすることだ。政府が進めようとするインターネットプロバイダーによる接続遮断措置も有効だろう。

しかし、それだけではイタチごっこになるため、正規に配信するサービス事業者側も、現在のネット環境、利用者がコミックスを愉しむ手法、デバイスの変化など見直しながら、最適なビジネスモデルを業界全体で見直していくことが必要だろう。利用者にとってのわかりやすさや、読むための手続きの簡略化、手軽な決済手段に快適に使えるビューアの提供など、コミックスを楽しむためのハードルを下げなければならない。

非合法の閲覧手法を探す労力よりも、お金を払ってでも読みたいと思うファンの気持ちが上回るようにすることが、現状に対する最良の薬ではないだろうか。消費者は法を犯すことを望んでいるのではなく、なるべくシンプルな手法で望みのコンテンツを楽しみたいだけなのだ。