@AUTOCAR

写真拡大 (全7枚)

text:Hilton Holloway(ヒルトン・ホロウェイ)

もくじ

ー 厳格なEU規制 諸メーカーは3年後に窮地へ
ー NEDC→世界統一のWLTPへ 小型車さえ困難
ー ふたつの追い打ち 生き残るのは4グループ?
ー 各社の異なる見解 ただ現実は「地獄絵図」

厳格なEU規制 諸メーカーは3年後に窮地へ

自動車メーカーは2021年導入予定の厳格なEU規制に適合できなかった場合、巨額の罰金を科されることになる。

今後3年のうちに、欧州市場の自動車メーカーはEUが新たに導入する非常に厳しい排出ガス規制という、ここ数十年で最大の試練に直面することになるだろう。

しかも、業界コンサルタント2社によれば、新測定基準とディーゼル問題の余波、さらには顧客のSUVシフトによって、この新しい規制に適合するのはほとんど不可能だと言う。

しかし、この規制へ対応できなければ自動車メーカーは数100万ユーロ単位で罰金を科されることになるのだ。

この新規制のもと、各メーカーにはそれぞれCO2排出量の目標値が設定されるが、この値は各メーカーが域内で販売する全モデルの排出量平均値に対して適用される。

自動車業界全体におけるCO2排出量目標が95g/kmであるいっぽう、メーカーごとの個別の目標値は、車両の重量とサイズ、更には年間生産量をもとに、複雑な計算を経て算出されることになる。

たとえば、ジャガー・ランドローバーは毎年のEU域内での販売台数が30万台以下であり、平均よりも大型の車両を生産しているため、CO2排出量目標値は132g/kmに留まるいっぽうで、フィアット・クライスラーの目標値は91.1g/kmとされている。

実際のところ、業界目標の95g/kmというのは全ての自動車の道路上での平均実燃費が27.6km/ℓになることと同じような意味なのだ。

そんな目標だけでも達成は技術的に非常に難しいが、さらにEUがより厳格な測定基準の導入を決定したと知れば、その困難さをより理解することができるだろう。

NEDC→世界統一のWLTPへ 小型車さえ困難

2012年に最初の規制が導入された当時はNEDC(New European Driving Cycle)と呼ばれる測定基準であったが、その後この基準は撤廃され、代わりに世界統一のWLTP(Worldwide Harmonised Light Vehicle Test Procedure)が導入されることになった。

WLTPはより実際の走行条件に近い燃費と排出ガスの測定基準であり、業界コンサルタントの「JATO Dynamics」社は、WLTPの導入だけでも2021年の目標値である95g/kmの達成を非常に困難にさせると話す。

最近JATOが発表したレポートによれば、新WLTP基準のもとで再試験を受けたサンプル車両は、NEDC基準で測定したときに比べ、CO2排出量の公式測定値が9%から17%増加したとの事である。

現行量産モデルで最初にWLTPテストを受けた1台は116psのフォルクスワーゲンUp! GTIだったが、ドイツからの報告によれば、NEDC基準の測定ではCO2排出量が110g/kmのところ、WLTPでは127〜129g/kmと16%も増加していた。

もし、このようにほどほどのパワーを持つ小型車でさえ、目標とする95g/kmに全く届かないとすれば、より大型でパワーのあるモデルの結果は火を見るよりも明らかだ。

さらに自動車メーカーに追い打ちをかけるようなニュースが過去12カ月の間にもたらされている。

ふたつの追い打ち 生き残るのは4グループ?

さらに自動車メーカーに追い打ちをかけるようなニュースが過去12カ月の間にもたらされている。

ディーゼル・モデルの販売が激減しているというのだ。

2015年10月、ディーゼルゲートが発覚したころ欧州の新車市場におけるディーゼルの割合は約52%だったが、2017年11月、ディーゼル・モデルのシェアは西ヨーロッパでは42%にまで落ち込んでいると報告されている。

さらにEU基準への適合を困難にさせる第3の問題があるとJATOは警告する。つまりSUVへの市場のシフトである。

JATOによれば、2016年、欧州におけるSUVモデルの販売台数は380万台であり、市場の26%を占めていたが、この数字は2020年までに600万台、33%に達するだろうと予測されている。

背が高く、力強い見た目のSUVモデルへと市場がシフトすることで、CO2排出量を押し上げることになるのは間違いない。

昨年秋に発表されたレポートで、PAコンサルティング・グループは主要な11の自動車メーカーのうち、個別のCO2排出量基準を達成できるのはボルボ、ジャガー・ランドローバー、トヨタとルノー-日産の4グループだけだと述べている。

つまり、フォルクスワーゲン、フィアット・クライスラー、PSAグループ、フォード、BMW、ヒュンダイ-キアとダイムラーは目標値を達成できないということだ。

そして目標値を達成できないことで科される巨額の罰金(95ユーロ/排出量超過g-台)の額は、フォルクスワーゲンの13億6000万ユーロから、フォードの3億700万ユーロ、ダイムラーに対する1億2600万ユーロに渡ると見込まれている。

しかし、各自動車メーカーは全く異なる見解を公式に述べている。

各社の異なる見解 ただ現実は「地獄絵図」

Evercoreのアナリストによれば、フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーとPSAの重役たちは2021年のCO2排出量目標達成に自信を持っているという事だが、いっぽうでディーゼル・モデルの販売が著しく減少していることは認めており、BMW会長のハラルド・クルーガーは、Evercoreに対して今後3年間で彼らのEV専門ブランドである「i」の売り上げを伸ばしたいと語っている。

フォルクスワーゲン・グループの販売部門責任者であるフレッド・カプラーは、ダイムラーCFOのボド・ユッバー同様、巨額の罰金支払いリスクが48Vマイルド・ハイブリッド・モデルを大量に生み出すことになるかもしれないと話す。

Evercoreのアナリストによれば、48Vシステムによって小型ターボエンジンのCO2排出量を最大20%改善させることが可能であり、最新のディーゼル・ユニット開発よりも安上がりになるとの事だ。

大型モデルに対する内燃機関の使用を制限することで、ディーゼルにまつわる困難な課題がそのまま放置されることになるかもしれないいっぽう、Evercoreでは2021年までに販売される48Vシステム搭載車両が新車市場に占める割合は10%と予測しており、2022年までに販売されるEVモデルが占める割合も4%に留まるだろうというのが多くのアナリスト共通の見解である。

欧州市場の自動車メーカー各社の表向きの自信とは裏腹に、EUが2021年までに導入する新規制への対応は明らかな窮地へと彼らを追い込んでいる。