直立浮上式防波堤のメカニズム(港湾空港技術研究所提供)

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四方を海に囲まれた地震列島、日本。ひとたび地震が起これば即座に津波の恐怖にさらされる。津波対策が急がれる中、大林組など民間4社と独立行政法人の港湾空港技術研究所は、津波来襲時だけ海面上にせり上がって津波から港と街を守る「直立浮上式防波堤」の開発に取り組んでいる。この“未来都市”のような防波堤は、従来の防波堤と違って、港湾を完全に囲うことができ、環境、経済面でも優れているという。共同研究締結期限が切れる2008年3月までをめどに早期実用化を目指す。

 この防波堤は、直径約1メートルから2メートルの二重管構造の鋼鉄管を垂直に並べて「壁」を作るもの。普段は海底地盤中に格納されているが、津波や高潮が近づいてきた場合、内側の管が海面上にせり上がり、波から港を守る。管内に空気を送り込み、浮力を利用して内側の管を浮上させる仕組みで、管の高さは空気の量で調節する。シンプルで大掛かりなモーターがいらないので故障が少なく、維持管理が容易。管を並べる構造のために波を100%カットすることはできないが、「シュミレーションでは波の力を7、8割軽減できる」(開発担当者)という。

 元来、港湾には船が通行するため、航路上に防波堤を設置できず、港を完全に塞ぐことはできなかった。だが「浮上式」なら航路上にも建設できるため、港をより安全に守ることができる。普段は海底に沈設されているため海流を妨害せず港内の水質を確保でき、景観面でも有効。鋼管は特別に生産するものでなく規格品を使うので、コストも圧縮できる。

 共同研究しているのは、大林組<1802>のほか、新日本製鐵<5401>、東亜建設工業<1885>、三菱重工業<7011>の4社と、港湾空港技術研究所。昨年12月のインドネシア・スマトラ地震の2日前に共同研究協定を締結した。二重鋼管が上下動するかなどの基本動作はすでにチェック済みで、最大約2.5メートルの人工津波を起こせる同研究所の実験用水路で効果などを解析した後、来年度にも実際の海域で実証実験を始める予定。

 同研究所では、スマトラ地震を受け、今年2月に「津波防災研究センター」を発足。東海地震では10メートル以上の津波が予測されているが、スマトラ地震を現地視察したという同研究所の有川太郎さん(32)は「一度街が破壊されてしまうと復興には大変な時間がかかる。浮上式防波堤の開発は、スマトラ地震以降、急ピッチになってきた。防波堤によって津波被害を軽減して、国民の財産を守ることができれば」と話している。【了】

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