「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」というまったく異なる立場から、ウートピ編集部というチームを運営している鈴木円香(33歳)と海野優子(32歳)。

脱サラした自営業者とマジメ一筋の会社員が、「心から納得できる働きかた」を見つけるため時にはケンカも辞さず、真剣に繰り広げる日本一ちっちゃな働きかた改革が現在進行中です。

今回からしばらくは「有識者会議」ということで、今、ぜひ話を聞いてみたいゲストの方々を招いて、とことんホンネでインタビューしていくことにしました。

初回は、リクルートジョブズ執行役員を経て、現在、「女性×はたらく」をテーマに事業を展開するWill Lab代表の小安美和(こやす・みわ)さん。

「女性のリーダーを増やす」
「でも、女性は管理職になりたがらない」

そんな話を最近よく耳にしますが、実は女性が管理職やリーダーをやる/ならないより、ずっと大事な問題があるのでは?

左から、鈴木編集長、海野P、小安さん

32歳OL、仕事でドツボにはまる

鈴木:小安さん、本日は突然の取材依頼にもかかわらず、快くお引き受けいただき、ありがとうございます。一応、インタビュー取材という形態をとってはいますが、実は今日は、こちらにおります海野Pの相談を受けていただきたくて。

海野P:えっ……そうなんですか!? 私、何も聞かされてないんですけど(笑)。

鈴木:うん、内緒にしてたから(笑)。小安さんが来ることさえ、知らなかったはず。

海野P:知らなかった……。

鈴木:海野Pは今年で社会人11年目で今年33歳になるんですが、実は今キャリアでドツボにはまっているんです。で、一緒に働く仲間として、なんとか脱出してもらいたいんですが、私では力不足で。そこで、働く女性の先輩である小安さんに、ドツボから引っ張りあげてもらおうと思いまして。

小安美和さん(以下、小安):あ、そうなの? 落ち込んでるのね。聞きましょう、聞きましょう。

海野:あ、はい……最近いろいろありまして。ありがとうございます。まさか、小安さんに話を聞いてもらえるなんて……。

鈴木:はい、絶対に小安さんが適任だと思ったんです。というのも、私たち30代にとって、「出世したい!」「エラくなりたい!」という願望がDNAレベルで埋め込まれているようなバリキャリは、あまりに遠い感じがして参考になりえないから。

対して、失礼な言いかたになりますが、小安さんは2度もキャリアの中断を経験し、30代後半は「そろそろ子供も産みたいし」「2度目の結婚で家庭を大事にしたいし」という理由もあって管理職を担いたくないと考えた時期もあったそうで。なんというか、全体的にとっても人間らしい感じがして、親近感が持てたんです。

小安:なるほど(笑)。それで私が呼ばれたんですね。ちょっと見えてきました。

リーダーをやる自信が砕け散る

小安:海野さんは社会人11年目にしてドツボにはまっているということだけど、何につまずいているの?

海野P:いや、もう、なんか、いろいろありすぎて、うまく整理できてないんですけど……。

小安:大丈夫ですよ、話してみて。

海野P:はい。新卒で入社したIT 企業から転職、3年ちょっと前にアラサー女性のためのニュースメディア「ウートピ」を立ち上げて、プロジェクトリーダーとして、こうして社畜と嗤(わら)われようが、気にせず本当にがんばってきたんです。

でも、最近自分がリーダーとか、マネジャーとか、そういう人の上に立つような仕事に向いていないんじゃないかな、と悩むことばかりで。

鈴木:ひと言でまとめると、海野Pの体育会系のノリに他のチームメンバーがついてこられないんです。

小安:ああ(笑)。今、私、本当にここに来てよかったって思いました。実はね、私も33歳の時、海野さんと同じような仕事をしていたんです。

私は新卒で日本経済新聞社に入り広告営業を担当、シンガポールでの“駐妻期間”を経て33歳で帰国、リクルートに中途入社したんです。今の海野さんの仕事は、ちょうどその頃にやっていた仕事と一緒ですね。

メディアプロデューサーとして、住宅情報サイトを作ったり、ネットや情報誌の編集企画や商品企画もやったり。5年くらいずっとメディアを作っていましたから、海野さんがどんな壁にぶち当たってるか、なんとなくわかるかも。

海野P:そうだったんですか!? なんと……。

小安:だけどね、リーダーをやっていく自信がないと口では言うけれど、内心では「体育会系の何が悪いの?」って思ってるでしょ?(笑)

海野P:ううう(図星です……)。

小安:わかりますよ、私もそうだったから。「目標とは必達のものである」「目標と書いて“やりきる”と読む」みたいな(笑)。まあ、私たちの時代はまだそれが機能していたところもあるんだけど、今はもう無理なんですよね。

一つの揺るぎない目標に向けてみんなで走りきるっていう時代じゃないから。環境変化が速すぎて、そのやりかたじゃ、やっていけないこともあるかも。

鈴木:海野P、残念ながら時代遅れだってさ。

海野P:そっかあ……(ため息)。

マジメな女性にありがちな思考のクセ

海野P:なんか、結局、いつも自分に自信がないんです。「この道で本当にあってるのかな?」って。だから、ガンガン数値目標を立てたり、とにかく行動してみたりして、前進していると信じたい。

きっと、みんなから「体育会系の海野さんがまたがんばってるよ、プププ」って嗤われてるんだろうなあ……。はあ……(また、ため息)。

鈴木:本当に涙なしには聞けないくらい苦しんでます。

小安:あら、そう。呑みながら聞いたほうがよかったかな(笑)。

追い打ちをかけるようだけど、今、「この道で本当にあってるのかな?」って言ったでしょ? それが思考のクセになっちゃってるじゃないかな。マジメな女性ほど、「あってるかな?」と考えちゃうクセがあるんです。というのも、子供の頃からずっと、がんばって正解を出すことで褒められて、その経験を自信にしてきたから。

鈴木:確かに、海野Pからは「これであってますか?」って、よく聞かれる気がする(笑)。知らねーよ、やってみないとわからねーよ、って返しますけど。

小安:でもね、もうここから先は、時代的にも、海野さん個人のライフステージとしても「正解はない」から。あるのは、「これが正解なんじゃないかな」という仮説だけ。とりあえず置いた仮説をやってみて、間違っていたら、「ごめんなさい」でまた別の仮説を立てる。

海野P:「これが正解!」って確信が持てないと、みんなに「これやろう!」って言えないんです、怖くて。

小安:それだと、誰も動かないかな。だって、リーダーが「これ、正解かどうかわからないんで……」ってもじもじしてる期間は、他に人にとって動く理由がないから。

海野P:(耳が痛すぎて言葉が出ない)

小安:「自信を持って!」って言われても持てるものじゃないもんね、自信は。一度大きな失敗をしたほうがいいんじゃない? 死なないから。

海野P:え……。

鈴木:え……ウートピなくなっちゃうの?

小安:ダメな自分を見られたくないのでは? でも、大きな失敗をしたら、そこから進化できることもあるから。

海野P:……ビビりなんですよね、結局、私。

リーダーをやるかどうかより大事な問題

小安:このままリーダーをやるにしろ、やらないにしろ、「自分がまずどうありたいか」か大事だと思いますよ。あなたは何のためにここにいるの?と。そういう問い、考えたことありますか?

海野P:……ふと考えることはあるけど、深く考えたことはないかも。

小安:もちろん、社会全体の中で女性リーダーは増えたほうがいいけれど、それと海野さん自身がこれからもずっとリーダーを続けていくかは別問題。マネジメントをやるかどうかを決めるよりも先に、どう生きていきたいかを決めたほうがいいんじゃないかな。

鈴木:「2020年までに指導的立場になる女性を30%にする」という政府の目標もあって、女性管理職という存在がフォーカスされるようになってきているけれど、問題はもっと手前にあるんじゃないか、と。

小安:そうそう、管理職になるならない、リーダーになるならないの問題ではなくて、「あなたがどう生きていきたいの?」という問題なのでは?と。

「管理職になりたいですか、なりたくないですか?」という質問に答えるのって、すごく難しいと思うんです。たいてい「え……まだ、わかんないです」ってなっちゃう。でも、「どう生きたいか」は一人ひとりの中に必ずあるから。私はそれをwill(ウィル)って呼んでるんですけど、それに気づいてもらうだけでいい。

鈴木:どう?海野P? willある? 

海野P:どう生きていきたいか……かあ(またまた、ため息)。

それ、自分の中でずっとテーマなんですよね。私、これまで何でも「やりたい」じゃなくて「やるべき」で生きてきちゃったんです、たぶん。「好きなことをやる=自分勝手でよくないこと」みたいな感覚もどこかにあるし……。

33歳にして今さら「どうしたいの?」って言われても困っちゃうなあ(ふたたび、ため息)。

小安:海野さんみたいになっちゃうのは、仕方ないかも。だって、日本は、規則を守る人が褒められる社会だから。「やるべき」で生きたほうがラクだったりするし。「やりたい」で生きて規則を作り替えてでも新しいことをやろうとする人は生まれにくいよね。

鈴木:インタビュー取材なのに、なんか、上司と部下の面談みたいになってきちゃっいましたね(笑)。後編では、「どう生きたいんだろう?」という問題を掘り下げて考えていきましょう。

小安:仕事でリーダーをやるかやらないかより、そっちの方がずっと大事な問題かもしれませんね。

海野P:よろしくお願いします。

(構成:ウートピ編集長・鈴木円香)