LINE公式「パン田一郎」ができるまで:(前編)
「人なのか?ソフトなのか?」と巷で話題の、LINE公式「パン田一郎」。その生みの親である開発メンバーの方々にいろいろとお話をうかがった。
2014年7月、株式会社リクルートジョブズと株式会社リクルートテクノロジーズは自然言語処理技術を用いたLINE公式アカウント「パン田一郎」をリリースした。
「パン田一郎」はLINEスタンプが配信から2週間で1,250万ダウンロードを突破したり、YouTuber(ユーチューバー)とのコラボレーション動画がWeb上で話題を呼んだりと、アルバイト・仕事探しの総合サイト『fromA navi』で人気のキャラクターだが、今回のLINE公式「パン田一郎」の特徴はなんといっても、ユーザーがこの「パン田一郎」と自然な言葉を使って会話が出来る点だ。
単に会話をするだけでなく、バイトのエリアや職種を話しかければ、条件にあったバイト情報をうけとることもできる。企業がLINEビジネスコネクト(※)をつかって公式アカウントをはじめる事例は最近多く見かけるが、双方向でキャラクターと会話ができ、ユーザーごとに異なる情報が提供されるようなサービスは非常に斬新で新しい取組みであるといえる。今回はこのLINE公式「パン田一郎」の生みの親、株式会社リクルートジョブズと株式会社リクルートテクノロジーズの開発メンバーの方々にいろいろとお話を伺った。
※LINE公式アカウントの各種機能を企業向けにAPIとして提供する仕組み
LINE公式「パン田一郎」の誕生
――本日は、お忙しいところありがとうございます。まず最初に、LINE公式アカウント「パン田一郎」の開発を始められたきっかけについてですが、「こういう事をやりたい」ということありきで技術は後から作られたのか、あるいはもともとベースとなる技術があって(それを使えば)「こんな事が出来る」というところからスタートしたのでしょうか。
リクルートジョブズ(以下RJ):LINEは今、日本で5,000万人程が利用していて、これはスマホユーザーのほぼ9割近くが使っているような状態になっていて、私たちは『フロム・エー』等のメディアを持っているのですがそのカスタマーさんはほぼ全員がLINEを使っている状況なんですね。今回LINEさんが2月にLINEビジネスコネクトを始めるという話がありまして、今まで一方通行のコミュニケーションしか出来なかったのが、一人一人のカスタマーさんにサービスを提供出来るという状況になったので、これを活用しようということで今回のプロジェクトが始まりました。
リクルートジョブズ(以下RJ):元々LINEさんにはこういう事がやりたいということを前々からお伝えしていて、LINEさんはグローバル企業ということで、色々な戦略の中でビジネスコネクトがあるという風に伺いました。アイディアとしては昔からあったので、やっと、という感じでした。元々「パン田一郎」を2回、「ジョブーブ」という『タウンワーク』のキャラクターを2回、と計4回の公式アカウント非連動型のスタンプを配信していて、いつか公式アカウントをやりたいと思っていました。バイト検索って凄くパーソナルなメディアなので一発で注目が集まるような商材が基本的に無いんです。基本的にやるのであれば1to1が前提だった中でビジネスコネクトが丁度出てきたというイメージです。
――あらためてLINE公式「パン田一郎」アカウントの目的としてはどういったものでしょうか。
RJ:LINEを使ってバイト情報やバイトの際に役立つ情報を提供することでバイト生活をサポートして、多くの人の「働く」をサポートしていく、というのが目的です。
――リクルートの中でもリクルートジョブズさんとリクルートテクノロジーズさんが携わっていらっしゃいますが、この両社の組み合わせは、これまでも比較的よくあるパターンなんでしょうか。
RJ:今回のチームでいうと今回の為に作ったんですが、両社のコラボレーションというのはこれまでにもありまして、リクルートテクノロジーズが自然言語解析というのをやっているというのも知っていました。そこで案件を進めるに当たってそのような技術を活用しない手はないと思い、声をかけてチームを作ったという感じです。この企画自体をカスタマーにどのように提供するかという設計と、技術部分をどういう風に作っていくのかという部分は近くでやっていかないと良いものは出来ないという考えだったので、今回はリクルートグループ内で共同プロジェクトにできたことが成功要因の一つだと考えています。
RT:補足しますと、リクルートテクノロジーズは外販を一切していません。リクルートグループの為に技術提供をしている会社なので今回このように(リクルートジョブズと)協働できて良かったなと思います。
RT:我々、リクルートテクノロジーズのアドバンスドテクノロジーラボ(ATL)が何を目指して日々取り組んでいるかというと最先端の技術を他社であったり、他の世界に先駆けて研究・開発して、それをリクルートグループに対して提供すると。全般的な技術からコアな技術まで我々からグループ会社に提供するのが使命となっています。
「パン田一郎」を支える技術
――今回の「パン田一郎」の公式アカウントの中では、自然言語処理や非構造データ分析という非常に先進的な技術が使われていますが、これはもともと開発していて今まで温めていた技術なのか、今回の為に新たに開発した技術なのかどちらなんでしょうか。
RT:我々はこれまでも自然言語処理に関しましてはジョブズと一緒に組んでいくつかサービスは手掛けてきました。それをさらに今回のLINEに向けて特化させてより最先端を行くというような取り組みをやらせて頂きました。今までも自然言語に関しては他社も含めていくつかのサービスはあったと思うんですね。今回非常に魅力に感じてやらせていただいたのは、他よりも秀でている部分、どういった所かと言いますと、一般的なサービスでは提供されたルールに基づきユーザーがリクエストする。これは単語ベースでシステムに命令をして情報を引き出すのですが、今回はもっと自然な形で人に話しかけるような、文章を「パン田一郎」に話かけると情報を得られるという形です。これはまだ他には無いサービスだと思います。
――自然言語処理の技術はどのくらいから取り組まれているんでしょうか。
RT:既に公開されているもので言いますと、「ジョブーブ」のスマートフォン用のアプリ「こえ手帳」や「こえ家計簿」は音声を認識して処理してくれる技術をつかっていて、今回もそれを応用しているので、そういった意味で言いますと公開されているアプリで考えると2,3年前くらいからですかね。
――特に工夫された点などはありますか。
RJ:まずは会話が出来るようにするブラッシュアップが必要でした。カスタマーからすると「言葉が通じない」というのが残念なので、それを減らしていく為に日々増やし続けています。
RJ:時事問題等その時々に投げかけられる言葉が違ってきますので、コメントも出来ないものもありますが、カスタマーからすれば「分かってくれる」というのが嬉しいと思いますので、その感覚を出すためにリアルタイムで増やしています。
――どのくらいのスピードで反映できるんですか。
RJ:作っているのは人なので、数百単位で日々日々増えていっています。
――サービスの実現に当たって、一番苦労した所やこだわった所などポイントがあれば教えてください。
RJ:これまであった多くの公式アカウントはカスタマーが何かを投げかけると、すぐに固定のメッセージが返ってきますよね。今回は「パン田一郎」が本当に会話してくれるような実在感を感じてもらえるかを重要視しました。具体的に言うと人はメッセージを打つ時間や考える時間があるので、そこはしっかり「パン田一郎」が返信するテキストの文字量によって返すタイミングをあえて遅らせています。また一応設定としては「パン田一郎」にも生活がありまして、夜は寝て、朝はしっかり起きて週末は遊びにでかけています。その設定を背景に踏まえたレスポンスをするのも重要視しています。リリース当初はTwitterで5分に1回くらいのペースで「パン田一郎」関連のつぶやきがあったのですが、「これ本物?ロボットどっち?」というつぶやきも見られました。私たちとしてはまさに期待通りの反応です。(笑)
RJ:技術的にはbotですが、実在するものとして感じてほしいと思っています。Twitterでもbotという言葉はおそらく一回も出てきていないんじゃないでしょうか。そういう意味では実在感の演出はこだわりました。
RT:より柔軟にヒットさせるという点で検索エンジンの活用だったり、オープンソースを研究しているので、オープンソースを取り入れてより当たり方をしっかり詰めていきました。雑談以外にも地名も割とヒットするんですが、地名は割と認識しづらかったりするので、リリースまでに地名の認識に関するチューニングに力を入れて詰めていきました。
RJ:フロムエー等の求人の条件設定で、「土日のみ」だったり「服装自由」とかありますが、カスタマーが求人として希望を言う時にそんな言い方はしないですよね。「服装は自由がいい」とか「週末だけ働きたい」とか。私たち持っている条件設定を口語体に直していくという作業が結構大変でした。
RJ:求人検索機能をかなり自然に検索できるというのにすごくこだわっていて、他社の検索だと「終了」を押さなければいけないんですが、「終了」は機械に対する命令なのでそういった概念は不自然なので、最初から削除しようだとか、自然に出来るというのは色んな部分にこだわりました。
RT:インフラ面でいうとLINEの想定される負荷にたいする取り組みとして、負荷が上がっていけば自動的にサーバー側の台数が増えていく仕組みだったり、既読の後のレスポンスを溜めておくQueueサービスを使っているのが特徴的かなと思います。
RJ:LINEはとてもスパイクするメディアで、今まで4回スタンプを配信しているんですが、一回配信すると1,400万件ほどダウンロードされて、そのうち約6割は初日にダウンロードされています。そのような仕組みのサービスなので、サーバーを管理する側としてはあまりよろしくない状況です。昔であれば最初からたくさん買って借りてという作業が必要だったと思うんですが、今はクラウドがあるので時間単位で抑えられるというメリットがあります。LINEみたいなサービスはクラウドが無いと支えきれないと思うのでクラウドが有ってよかったなと思います。
RJ:「パン田一郎」は基本的に弱気で自信が無くって謙遜するキャラでTwitterでも敬語を使っています。ですがそれと同じキャラで一対一で会話をすると凄く冷たく感じるんですね。そこに距離を感じて違和感があったため今は敬語と口語を混在させています。一対一ならではのコミュニケーションはFacebookやTwitterなどとは全く違うので語尾だったり口調も細かく調整して行きました。
(後編につづく)
ReadWrite Japan編集部
[原文]