『背すじは伸ばすな! 姿勢・健康・美容の常識を覆す』(山下久明/光文社新書)
帯の文「腰痛、肩こり、イビキにメタボ……。姿勢を“科学”して初めて分かった意外な原因と対策とは?」

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あなたの舌は、いまどの位置にあるだろうか?
上あごにくっついているだろうか?

『背すじは伸ばすな! 姿勢・健康・美容の常識を覆す』(山下久明/光文社新書)(Kindle版もあり)は、よくある姿勢ハウツー本かと思いきや、違った。
気宇壮大な本だった。姿勢の思想を大転換させる本だった!

なにしろ、まず“人類史を振り返り、人類だけの特徴である直立二足歩行を解読するための基礎知識をおさらい”するのだ。
第1章で「サルからヒトへ」の人類史までさかのぼり、第2章で、「直立二足歩行とはいったいどういいうことか」が検証される。

本書の特徴は、根源へさかのぼって、さまざまな角度から理屈で解説していくその方法だ。
たとえば、呼吸を扱った第10章は、こうはじまる。
“地球での生命の誕生は40億年ほどさかのぼりますが、そのころの地球には、ほとんど酸素がなく、二酸化炭素が大気の大部分を占めていました”。
40億年ほどさかのぼっちゃうのだ。

姿勢を良くするには、背すじを伸ばせというのは、“思想に基づくフィクション”だ、と本書は解く。
背すじを伸ばせば、見栄えはよくなり、気持ちもシャッキリする。だが、それは、座禅を組んだり、正座しているときでいい。
立っているときまで、背すじを伸ばすようになったのは、“富国強兵策を遂行する上での精神教育の産物”だと言う。

では、どうすれば姿勢が良くなるのか?
歴史をさかのぼり、身体の構造を検証し、そして出る結論。
それは、舌の位置である、と!
おまえの舌の位置は、どこにあるか? と問うてくるのである。

著者の山下久明は歯科医。従来の歯科矯正方法に疑問をいだき、それをきっかけに姿勢の研究をはじめる。その成果をまとめた『背筋を伸ばすな』を自費出版し、好評を博す。その第三改訂版として書かれたのが本書『背すじは伸ばすな! 姿勢・健康・美容の常識を覆す』だ。

さて、舌のあるべき位置だ。
まず自分の舌の位置がふだんどうなのか確認してみてほしい。

本書によると、それは「舌は上あごにくっついている」べきなのだそうだ。
どうだろう?
舌の位置など、ふだんあまり気にしていないので、自分の舌の位置がどうだったか分からない人もいるだろう。ぼくも、よく分からなかった。
一度、気にすると、上あごにつけるのだが、ふだんからつけているかと考えると、つけてないような気がする。
舌が上あごにいつもくっついていて、押している。そして頭を「やや上向き」にしているのが良いのだそうだ。
前頭葉が大きくなり、頭の重心が前に移動してしまった。ずれた頭の重心が柔軟な背骨を曲げて、姿勢が悪くなってしまう。
そこで、顔を上げて、首を後ろへ少し曲げて、背骨の上に頭をバランスよくのせる必要がある。
そして、もうひとつ重要な点は、頭は揺れに弱いということだ。揺れると酔う。だから、揺れないようにする。
真正面に顔を突き出しているタイプのヒトは、頭の揺れをおさえるために首の骨を固め、肩をすぼめてしまう。そのせいで肩が凝ってしまうのだ。
だから、頭の揺れを抑えるためには他の方法であるべきで、それが「舌を上あごにくっつける」なのである。
振動をやわらげるダンパーという装置がある。揺れを吸収するために、ビルと地面の間にゴムを挟むのが免震ダンパーだ。
そして、舌を上あごにくっつけて、舌をダンパーのようにして、頭の揺れを抑えるのが良い姿勢への第一歩だというのが本書の主張である。

目次を紹介する。

第1章 サルからヒトへ
第2章 直立二足歩行
第3章 頭の重さと背骨
第4章 首
第5章 舌ダンパー
第6章 「上向き」の誤解を解く
第7章 腹筋
第8章 背すじは伸ばすな
第9章 脚
第10章 呼吸と鼻
第11章 舌と飲みこみ
第12章 歯
第13章 姿勢の治し方
第14章 ゼツ・ダイエット

「舌を上あごにくっつける」ことで良くなるのは姿勢だけじゃない。
笑顔にも影響する。
「舌が上あごにくっついていない」タイプの人は、くちびるの力も弱い。だから、上あごの歯ぐきがまくれ、丸見えになりやすい。口元もたるみがち。
肩こりやイビキ、首筋のたるみ、小顔、疲労などにも影響すると解説する。
どのように影響するのはかは、本書をじっくり読んでもらいたい。
舌を上あごにつけたまま食事をするゼツ・ダイエットの方法も紹介される(やってみようと思うが、けっこう難しくてできない)。
歴史と構造を軸にガッツリ書かれた本なので、読むだけで、なんとなく自分の身体の保ち方が分かった気になる。
読み物としてもおもしろい。オススメです。
(米光一成)