美術館でゲーム作り! ゲームジャム自体がアートとなった「福島ゲームジャム in 文化庁メディア芸術祭」

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「すごいゲームが生まれちゃったなあ」

ゲーム作家で「アクアノートの休日」「巨人のドシン」など、さまざまな作品を世に送り出してきた飯田和敏氏をして、こう言わしめたイベントが実施されました。2月8日・9日に開催された「福島ゲームジャム in 文化庁メディア芸術祭」です。国立新美術館で2月5日から開催中の、第17回文化庁メディア芸術祭関連イベントとして実施されました。

すでにエキレビで何度も紹介しているとおり、ゲームジャムとはプロ・アマ混在の即席チームが一定のルールのもと、数十時間でゲーム開発に挑むゲーム開発イベント。ギネスブックにも認定されたGlobalGameJam(GGJ)が有名です。

なお、GGJでは48時間でゲームを作りますが、今回はなんと22時間! それでも25名4チームが参加し、「共通テーマは『和』」「ゲームをしたことがない人でも遊べる」「東北地方の文化・地理・特産品などについて学べる」「日本語がわからなくても楽しめる」というルールのもとに取り組み、見事ゲームを完成させました。

中でもイベントのオブザーバを務めた飯田氏をもっとも驚かせたのが、アクションパズルの「Catch the 47」。開発チームは「和」というテーマから「日本」「足し算」「和み」などにイメージを膨らませていき、最終的に福島県のピースを回転させながら、飛んでくる他の都道府県ピースをうまくキャッチして、制限時間内に日本地図を完成させていくという内容にまとめ上げました。

都道府県ピースは東北地方から順に、関東、北信越・中部・関西・中国・四国・九州と広がっていき、最後に北海道をキャッチすれば完成。ただし隣接する都道府県でなければキャッチできない点がミソです。都道府県ピースが画面に乱れ飛ぶゲームは空前絶後。しかもそれが福島県を中心に広がっていき、最後に日本地図が完成するという、ただ楽しいだけじゃない、ちょっと意味深なゲームになりました。

そうなんです。本イベントは東日本大震災の復興支援などを目的に2011年から毎夏開催されている、「東北ITコンセプト 福島GameJam」が審査委員会推薦作品に選出されたことで開催されたもの。しかも当日は記録的な豪雪にみまわれ、遅刻者が続出。夜間作業のため特設会場に移動するのにも、タクシーは動かず地下鉄も遅延。夜間の買い出しにも決死の覚悟が必要という状況に。参加者の中には3.11を思いだした人もいたようです。

これに対して、メディア芸術祭でエンタテインメント部門の審査員を務め、本イベントでもオブザーバとして参加した飯田氏は「福島県を中心に日本地図ができあがっていく内容は福島GameJam自体を体現している。福島以外に住んでいる自分たちが、ずっと考えていかなくてはいけないこと」とコメント。幾重にもメッセージ性が織り込まれた、すばらしいゲームになったと賞賛しました。

また単一の作品ではなく、ゲーム開発イベントという「モノ作りの仕組み」に顕彰されたことに対して、飯田氏は「近年メディア芸術祭で『古典的なゲーム』の受賞が停滞していたことが背景にあった」と明かしました。これに対して本作のようなユニークなゲームが飛び出してきたことは、あらためてゲームジャムという仕組みの優秀性を証明したと言えるかもしれません。ちなみにチームリーダーは専門学校生で、プロの開発者もまじって企画をサポート。22時間を通して、みな様々な気づきがあったようです。

一方、同じくオブザーバとして参加し、「パックマン」の生みの親として有名な岩谷徹氏は、かつて作ったアーケードゲームの「フォゾン」を思い出したとコメントしました。幾何学的なパーツを組み合わせて、分子構造のような構造体を作るアクションゲームでしたが、題材が地味だったこともあり、「幻の名作」という扱いに・・・。「日本地図のように、もっとわかりやすい題材にすれば良かった」という岩谷氏のコメントは、最大限の賞賛だったと言えるでしょう。

これ以外にも▽鬼を退治するシューティングゲーム「東北喰鬼退魔伝」▽合唱がテーマの音楽ゲーム「福島のMaestro」▽熊に荒らされた特産品を回収するパズルアクション「PicKUMA!」--の三本が完成しました。いずれも公式サイトでダウンロード配信されていますので、ぜひ遊んでみてください。

ちなみに「福島のMaestro」では民謡「会津磐梯山」を大胆にアレンジし、ボーカロイドに演奏させた楽曲を使用し、「東北のウィーン」を標榜する福島県郡山市をアピール。「東北喰鬼退魔伝」は節分で福豆のかわりに落花生をまく東北の文化を盛り込みました。「PicKUMA!」では開発が迷走し、「明日世界が終わるとすれば、これが遺作で良いのか!」というリーダーの檄を契機に、ラストの8時間でゲーム内容が大きく変化したほどです。

「東北ITコンセプト 福島GameJam」運営事務局の代表で、本イベントも旗振り役をつとめたNPO法人IGDA日本副理事長の中林寿文氏は、成果発表会で「ゲーム開発者が(東北被災地に対して)出来ることは、まだまだいっぱい」と投げかけました。豪雪にも負けず盛り上がったゲーム作りへの情熱に、今後も期待したいところです。
(小野憲史)