『鉄道乗務員の暴露話』中沢佑史/彩図社
特急列車の元・車内販売員である著者による裏話がもりだくさんの本書。妙に軽快な文体で描かれる驚きのエピソードの数々は、恐ろしい話あり笑える話ありで楽しめる。独特の装丁の力だろうか、本屋でも一目で分かる彩図社の本。疲れているとき、辛いことがあったとき、無性に読みたくなるのは私だけだろうか?

写真拡大

本屋に行くと必ず立ち寄る本棚がある。宝島SUGOI文庫、文庫ぎんが堂、そして彩図社の文庫本シリーズだ。

『悪徳商法 わざと引っかかってみました』、『ソープランドでボーイをしていました』、『海外ブラックグルメ』、etc...
いかにもアブナい感じのタイトル。アヤシく光るあの独特の装丁。なぜか漂うスラムの臭い。ヤバい、手に取らずにはいられない。

彩図社の新刊『鉄道乗務員の暴露話』には車内販売業界の裏話が満載。著者の中沢佑史は「車内販売を行う某社に入社し、乗務員として特急列車に乗務。勤続年数を重ねるうちに、車内で行われている不正等様々な裏事情を知る」人物である(巻末の著者紹介より)。

本書の構成は以下の通り。
第1章:列車の中はトラブルだらけ
第2章:鉄道につどうヘンな人々
第3章:知られざる車内販売という仕事
第4章:食べ物に関する恐ろしい話
第5章:表に出せない不正の話
第6章:貨物列車のヤバイ話

暴露話と銘打たれているだけあって後半は告発が続く。売れ残り弁当の店頭販売リサイクル。日付シールの張り替え。さらには自販機の売上を着服して「自販機御殿」を構えたり、運転士に代わり列車を無資格で運転した車内販売員がいたという。現在では改善されたと書いてあるものの、ゾッとする話ではある。

だが一番の読みどころは、著者が業務中に出くわしたハプニングの数々にある。いくつか紹介しよう。

架線が切れ、運転見合わせ中の車内。乗客の男性が「一目で尋常ではないと分かる表情を浮かべながら」著者に詰め寄ってきた。
そこで一言。
「兄ちゃん、包丁貸してくれ!」
確認だが、著者はコックではない。車内販売員である。
「運転士脅して運転させる! それが無理っていうなら刺したる!」
マ、マジか〜。このセリフ、ヤバすぎるだろ。結末は、是非本書を読んで確かめてもらいたい。

避けられない人身事故。なぜか集中して遭遇する運転士がいるという。もちろんわざとではないのだが、そういう運転士には「キラー山田」などという渾名がつくらしい。反対に、事故や災害知らずの運転手は「定通(定時通過)の佐藤」なんて呼ばれるんだとか。
人体は思いのほか脆いので、衝撃で「首や肩や股関節がちぎれてバラバラ」になってしまう。当然、列車は停止。消防や警察が駆けつける。そして車内から丸見えのところで「立体ジグゾーパズル」が始まる。ときには鉄道職員総出で遺体の捜索を行うことになる。全てのパーツがそろわないと、遺体損壊容疑で刑事罪に問われる可能性があるとのこと。
何が起こっているのかほとんど放送しない車掌もいるみたいだが、実直にも実況アナウンスを行う車掌が乗っていたりもするので大変だ。
「現在、遺体の回収作業を行っております。運転再開まで、今しばらくお待ちください」
「まだ遺体の一部が見つかっておりません。そのため、もう少々時間がかかるみこみです」
弁当類はひとつも売れなかったという。当たり前である。

過酷な車内販売員のお仕事。単線区間の分岐で車内が大きく揺れ肩を脱臼した者や、酒の飲み過ぎで寝坊して加速する列車に飛び乗った者。
一方で、鹿をさばいて紅葉鍋にしたという話や、大雪で車内の乗客ともども難民化し地元消防団から炊き出しを振る舞われたというような、妙にほっこりとする逸話もある。

著者は「まえがき」でこう述べている。
「本書は、『不正を告発しよう』などという高い志のもとに書かれたものではなく、あくまでも娯楽の類いだ。そのため、『こんなことけしからん』とか、『どこの会社だ?』なんて無粋なことは考えずに、楽しんで読んでいただければ幸いだ」

気負わず読めば笑顔になること請け合いの一冊。通勤時の鞄に忍ばせておくことをオススメしたい。不意に電車が止まったときに取り出せば、イライラも大分軽減されることだろう。

※『鉄道乗務員の暴露話』(中沢佑史・著/彩図社)

(HK 吉岡命・遠藤譲)