巻末に17年間の歩みも収録。メディア芸術の最先端がわかる「第17回文化庁メディア芸術祭受賞作品集」

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今年も2月5日から16日まで受賞作品展が開催中の第17回文化庁メディア芸術祭。アート・エンターテインメント・アニメーション・マンガの4部門で、大賞(各1作品)、優秀賞(各4作品)、新人賞(各3作品)の合計32作品に顕彰。あわせて業界に多大な功績を残した功労賞4名が選出されました。展示会場の国立新美術館では、これらの作品や功績が、全130作の審査委員会推薦作品と共に展示され、メディア芸術の今を一望できます。

なお、会場に足を運んだら、ぜひチェックして欲しいものがあります。それが作品紹介や顕彰理由などを記した受賞作品集。いわゆる「図録」です。館内で1500円で購入できるほか、ウェブで通販もされています。通常の展覧会と異なり、一般展示は無料ですので、そんなに懐も痛まないはず。というのも、かなり力が入った内容なんですよ。これなくしては、価値も半減といってしまいましょう。

そもそも、なぜ受賞作品展が無料なのか。答えは国の文化事業で、税金で行われているからです。文化庁のホームページに掲載された資料によると、平成25年度は「メディア芸術祭等事業」で3億7800万円の予算が計上されています。関連予算を全部あわせると、「メディア芸術の振興費」名目で、なんと11億200万円も使われているんですね。いやー結構な額じゃないですか。僕も改めてビックリしました。

ただ、メディア芸術ってなんでしょう? 国立メディア芸術総合センターの設立構想が「国営マンガ喫茶」と社会的批判を浴びて頓挫したのも記憶に新しいところです。そんなモノに11億円も使うなら、もっと他に使い道があるはずだ。メディア芸術には、常にそういった社会的批判がついて回ります。おそらく運営している本人達が、そのことに一番自覚的ではないでしょうか。行間からそうした思いが感じられました。

作品集は二部構成で、前半は受賞作品の一覧と顕彰理由がずらり。公式サイトに掲示された文章の再録ですが、図版などが追加され、新しい価値が出ています。サイトでは写真の羅列だった審査委員会推薦作品にも、簡単な説明書きが添えられました。後半は審査員による審査講評と鼎談・対談で、本書のキモの部分。その道の専門家が語る作品傾向や解説などが奥深く、新たな気づきをもたらしてくれます。

そもそも、展覧会なんて好き勝手に見れば良いんです。でもメディア芸術祭は単なる展覧会ではなく、公募展です。国が世界中で広く作品を公募して顕彰し、展覧する。それも大ヒット作と、個人の制作物などが同じ土俵で審査されています。だからこそ、丁寧な顕彰理由が必要になる。そこがメディア芸術祭のおもしろく、難しいところでしょう。これだけ毎年丁寧に顕彰理由が提示される公募展も、珍しいんじゃないでしょうか。

またメディア芸術という枠組み自体が非常に若いものです。そのため審査員に漫画家やアニメ監督といった、クリエイターが数多く入っているのが特徴です。そうした外部の視線が審査講評や対談・鼎談を立体的なものにしています。中でもマンガ部門では、「ゲームセンターあらし」のすがやみつるさんと、「風雲児たち」シリーズのみなもと太郎さんが、マンガ評論家の伊藤剛さんと鼎談しており、おもしろく読みました。

すがやさんは京都精華大学教授、みなもとさんはマンガ研究家と、共に近年では学術的な活動も行われていますが、やはりそこは現役のマンガ家。「ドラえもん」のような少年少女が主人公のマンガがほとんど姿を消してしまった(みなもとさん)、「バカボンド」のように圧倒的な画力を持つマンガが増える一方で、コマわりが単純になり、ページをめくる速度が短くなっている(すがやさん)という指摘には、なるほどと頷かされます。

一方で、娯楽に飢えた戦後の混乱期に大量のアメコミが入ってきたが、定着しなかったのは戦前から日本人のマンガ・リテラシーが高かったから(みなもとさん)、マンガは視聴するものではなく読むもので、今後iPadやパソコンの画面に適した形式とは何か(すがやさん)といったように、歴史観をふまえた議論も展開されています。おそらく文章にした段階で端折られた内容がたくさんあるはずで、もっと読んでみたかったですね。

他に数は限られていますが、審査委員会推薦作品も触れられています。もっとも、それなしでは意味が通りにくいものも数多くありました。推薦作品で公募のもれを補填し、次年度以降に繋げたいという意図かと思いますが、さすがに130作品は多すぎるのではないかと……。いっそ審査員につき一人一作でもいいかもしれません。ま、そんなふうに「自分ならこうする」といった思いが広がるのも、本書の魅力ではあります。

キュレーターが一定の尺度で作品を編纂する展覧会と異なり、公募展には一見すると脈絡がないように見えて、よく観察するとその年々の傾向が浮かび上がってきます。その手助けをしてくれるのが作品集。一般図書と異なり、人気があっても増版されませんので、ぜひチェックしてみてください。すでにバックナンバーは入手困難。10年後、20年後に価値が出る一冊かと思います。
(小野憲史)