公開句会ライブ東京マッハvol.9「さっきから好意の『う』の字なくて恋」に投句された30句。あなたはどれを選びますか?

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公開句会ライブ「東京マッハ」が1月27日渋谷アツコバルーで行われた。東京マッハは今回で9回目。東京だけでなく京都や北海道でも開催されているが、どれもソールドアウトしている人気イベントだ。
登壇したのは東京マッハのレギュラーメンバー・千野帽子(文筆家)米光一成(ゲームクリエイター)長嶋有(小説家)堀本裕樹(俳人)、そしてゲストの名久井直子(装丁家)。(壇上の5人)

レポに入る前に、「句会」の説明をしておこう。句会は「俳句」を使った遊びだ。ルールはさまざまだが、東京マッハではこのように行われる。

1.東京マッハとゲストの5人がつくってきた俳句を、無記名の状態で「この句がいい!」と選ぶ(選句)。
2.良いと思った句(並選)を6つ、特にいいと思った句(特選)を1つ、文句をつけたい句(逆選)を1つ、それぞれ選ぶ(選句)。登壇者も選句する(このとき自分の句は選ばない)。
3.登壇者が1人ずつ選句を発表。得点を集計し、感想を言い合う。

句の作者がわからないのがポイント。「俳句のプロが作ってるから、これはきっと良い句なんだろう……」と選ぶことはできない。どの句を選んだかで自分のセンスや知識が丸裸にされてしまうドキドキ感。「これ、○○さんの句っぽい!」と予想しながら選ぶのも楽しい。俳句でやる人狼ゲームだ。

今回は今までにないくらい点がばらけた。名久井が「みんな気が合わない……?」と呟く。いやいや、どれもいい句ってことですよね? みなさんも作者を予想しながら読み進めてみてください(自分も選句してみたい!という人は当日の選句用紙で実際にやってみてください)。

冬蜂の事切れてすぐ吹かれけり(千野・米光・名久井・長嶋選)

千野「作者わかっちゃった!」
(5人中4人がこの句を選んだ。「自分の句は選んではいけない」というルールがあるため、作者は消去法で……)
堀本「はい。堀本です」
米光「ハズせない感があった!」
長嶋「あまりにも俳句っぽすぎて、特選はつまんないかなーと思ったんだけど、まあいいかって選んじゃった」
名久井「ピクミンって死ぬと魂が出てくじゃないですか。そんなふうに魂の分軽くなった感じがする」
堀本「村上鬼城の『冬蜂の死にどころなく歩きけり』のトリビュート句です」
長嶋「鬼城ってすごいよね、名前が中二で」

アイロンのいらない服が好きな服(千野・米光選)

米光「『サバサバ女子』っていうか、私気にしないよアピールっていうか、最近そういう女子多くない!?」
長嶋「ぶりっこじゃないアピールに見えるっていうこと?」
米光「そういうの自己申告する最近の風潮はどうよ? 雑誌の『Ku:nel(クウネル)』っぽいというか」
名久井「えー。『Ku:nel』の人、めっちゃアイロンかけますよ?」
千野「どっちかっていうとイトーヨーカドー句だよ! 『通販生活』とか、キャッチコピー的な安定感がある」

風花や大事なことだから黙る(千野、米光、堀本選)

米光「コイツ、結局大事なこと喋っちゃってそう」
名久井「長嶋さんの句に『外灯や氷ふむときだけ黙る』があって。それと比べちゃうと……うーん」
千野「作者は?」
(千野がにやにやしながら聞く。千野・米光・堀本の3人が選句しているため、作者は名久井か長嶋の二択。その名久井がこういう評をしているということは……)
長嶋「はーい、長嶋有です。自分で自分の句を越えられなかった……」
千野「アニメの主題歌の二番ってことで。実はあるんだ!という」
長嶋「それ『でもやっぱり一番の歌詞のほうがいいね…』ってなるよね?」

定宿の障子に虎の影うつる(米光、名久井、堀本選)

米光「かっこいいことばが揃ってて、いい」
長嶋「麻雀だったら満貫ですよ」
名久井「何かが始まる兆しのような、いつもの景色に出てきた異物感というか」
堀本「『虎』がいろいろ解釈できて楽しい。たぶん虎は比喩なんだろうけど、屏風に描いた虎とか、酔っぱらい(大トラ)をかっこよく言ったのかな、とか」
米光「えー、本物の虎でしょ!?」
名久井「私もそう思いました!」

声冴ゆるふらんす堂のパラフィン紙(長嶋、堀本選。会場トップ)

長嶋「ふらんす堂っていうのは、詩歌の本をよく出している出版社。表紙の上にパラフィン紙が巻かれている本が多い。渋い句ですよね……」
千野「この句は48点を集めて会場トップですね」
長嶋「え、これが会場トップ? ふーん。『そんなのわかってるよ』ってアピールで選びましたね?」
米光「いま会場を敵に回したよ?」
長嶋「さすがみなさん。お目が高い!」
名久井「パラフィン紙はガラスの粉が入っているので、響く感じがします。でも、パラフィン紙はふらんす堂のでなくても素晴らしいですよ!」

マフラーを渡しそびれて次号かな(千野特選)

千野「今回の裏テーマ(※毎回変わる)は、「木」という語が入った句と、少女漫画をテーマにした句をひとつずつ作ってくること。この句は少女漫画句だと思うんだけど、テーマに真っ正面から向き合ってる!」
長嶋「これね、マフラーを渡しそびれたのは『君に届け』の爽子だと思う。実際そういうシーンがあるんだよ」
名久井「作者、名久井直子です。これは、はい、爽子です!」
(おお〜!と声の上がる客席)

冬空に負けないようにシアン下げ(堀本選、千野逆選)
直向きに進む売れつ子冬灯(名久井選、長嶋逆選)

名久井「『冬空に〜』、私への挨拶句だと思うんですよ。以前テレビに出た時に『シアン下げて』って使ったことがあって」
(挨拶句というのは、参加者に対して「挨拶の気持ちをもって」作られた句。名前を入れてみたり、その人に関する語を入れてみたりする)
堀本「シアンは印刷用語で、CMYK(シアン・マゼンダ・イエロー・クロ)のシアンですよね。紫がかった青」
名久井「シアン下げちゃうと、逆に冬空に負けちゃうんですよ」
米光「作者、米光一成です……しまったー、よくわかんないで作ったのがばれたー」
名久井「『直向きに〜』も挨拶句だと思って。『直子』って入ってますよね。挨拶は嬉しいなー、一番どーんと挨拶してくれた人に応えようって選びました。………あっ、米光さんの句も嬉しかったです!」
米光「フォローされた! オレ、フラれた人じゃん!」

ちなみに、青柳美帆子の特選は「出世景清関節可動域に雪」。うおお〜超カッコイイ!文学的!と選んだのだが、作者の長嶋有は……
長嶋「1986年にナムコが出した『源平討魔伝』が元ネタ。あの当時のゲームにしては関節の表現が画期的で!」
げ、ゲームかー。
(青柳美帆子)

作者答え合わせ:
冬蜂の事切れてすぐ吹かれけり 堀本裕樹
アイロンのいらない服が好きな服 名久井直子
風花や大事なことだから黙る 長嶋有
定宿の障子に虎の影うつる 千野帽子
声冴ゆるふらんす堂のパラフィン紙 米光一成
マフラーを渡しそびれて次号かな 名久井直子
冬空に負けないようにシアン下げ 米光一成
直向きに進む売れつ子冬灯 堀本裕樹