『なぞの転校生』眉村卓/講談社文庫

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高視聴率の「緊急取調室」(木21時テレビ朝日)や「S─最後の警官─」(日21時TBS)、問題作「明日、ママがいない」(水22時日本テレビ)がある一方、ほとんど警察ものと医療ものばっかり!という閉塞的状況の2014年1〜3月のドラマの中で、おすすめしたい作品がドラマ24「なぞの転校生」(金曜24時テレビ東京)です。

犯人逮捕も手術シーンも、問題になりそうな描写もありません。謎はありますが、ひたすらキュンキュン、ハートが波打つ学園SFドラマです。

「なぞの転校生」(原作・眉村卓)は、過去に何度も映像化されてきたジュブナイルSF小説の傑作のひとつ。
主人公・岩田広一(中村蒼)の通う高校に突然、文字通り謎の少年・山沢典夫(本郷奏多)が転校してきます。
転校生の言動は広一たちとはなんだか違っていて、皆を戸惑わせるのでした。

1月10日から放送開始され、24日に放送された第3話で、どうやら典夫は、広一たちとは別の世界からやってきた人物らしいことがわかります。
典夫の来た世界は「ショパンの名曲『雨だれ』のない世界」だという描写にドキ。
この曲、このドラマの第1話の冒頭をロマンチィックに彩っていたというのに。

そう、第1話で、流れ星が上にのぼっていくという奇妙な空を、主人公の広一とヒロインみどり(桜井美南)が河原で見ている場面で「雨だれ」がかかっていたことに、キュン!でしたが、その後、高校、制服、教室、体育館、音楽室、野球グラウンド・・・といった、テッパンの甘酸っぱいシチュエーションが続々と登場します(これでもかとショパンの「雨だれ」をかぶせてきます)。

さらに、中村蒼演じる主人公のダッフルコート。ヒロインみどりのさらさらな黒髪。花を愛でるなぞの転校生・本郷奏多と、フェチズムをくすぐる要素がこれでもかと出てきます。

とくに第2話。野球のルールを知らない転校生(その時点では転校してきてない)の手をとって共にグラウンドを走る中村蒼。
現代に生きる、夢見がちな少年と、どこかほかの世界から来て、この世界にないシビアな現実を体験してきた少年。異なる世界に生きるふたりが、心を通わせていく。その描き方には、SFという言葉の中には、サイエンス・フィクションだけではなく「少年フェチ」も含まれているんじゃないか!と震えた次第です。みどりと広一と転校生の三角関係もあり?と予測しますが、みどりには悪いのですが、広一と転校生の間には入れない気がします。
中村蒼の素朴さと、本郷奏多のシャープさとの対比がいい。

なにしろ、これは、かつて「リリイ・シュシュのすべて」(2001年)で、市原隼人と忍成修吾を善も悪もひっくるめて瑞々しく生々しく撮った岩井俊二プロデュース&脚本作品です。
監督は、「ココニイルコト」「夜のピクニック」などの長澤雅彦。
リビングでソファにもたれてキッチンに立つ母を見る広一の体の動きや、野球チームのエキストラ的な人たちのひとりひとりの細かい動き、転校生のおじいちゃんになってしまった広一の隣人の老人(ミッキー・カーチス)が、よぼよぼだったのに、転校生に操られたときに妙にかっこよくなるギャップなど、ちょっとしたところに目が行き届いています。

自然光の繊細さを生かした淡い画面もいいです。

全体的にゆったりした調子で、どこかノスタルジックなところが魅力的ですが、意図的に演技トーンを作り込んでいることがわかるのが、次回予告。
メイン俳優達が、本編とまったく存在の仕方、言葉の発し方、表情が違うんです。いまどきなのです。そのギャップに、ドラマの世界は、
今とは違う世界なのだ、と思わされます。

少年フェチだけでなく、サイエンス部分のSF的要素の部分もセンスがさりげなくいいのです。

転校生が、広一たちと違うへんてこりんな動きやしゃべり方をするところの顔の向きやセリフの話し方などにアイデアがあります。
目がキラ!キラ!と光るというCGの使い方もうまい。

転校生のもっているモノリスと呼ばれる道具が薄くて黒いバー状のものでかっこいいです。
これ、なんとなくですが、SONYテレオICレコーダー 4GB TX50 ICD-TX50がそんな感じで、ちょっと欲しくなってしまいました。
ドラマを見て、物欲そそられるという体験を久々にしてしまうというところも、このドラマの魅力ですね。

それから、岩井俊二がSF好きを公言しているだけあって、SF愛を感じます。

広一は「科学はロマンだ」という信念をもち、SF研究会に入ってSF映画を作っている(ミニチュアを作って)。
あだ名は不思議系雑誌からとられた「ムーくん」。
お父さん(高野浩幸)はサイエンスライターで、息子の夢みがちなところを、自身の知識でたしなめます。
徹底したブレのない設定です。
お父さんが「なぞの転校生」が70年代、はじめて映像化されたNHK少年ドラマシリーズ版の広一役です。

中村蒼と高野浩幸は、寺山修司の「田園に死す」の少年役を経験していて、中村は舞台、高野は映画に出演しているという奇遇が。

ここではないどこかを彷徨う「少年」というキーワードがよく似合う俳優たちが集うドラマ24版「なぞの転校生」は、原作の根底にあるものは忠実に、時代を現代に変え、さらにオリジナル部分を盛り込んでいるのですが(広一の設定もドラマオリジナル)そこに、アーサー・C ・クラーク、H・G・ウエルズなど古典的SFの知識が、知らないヒトにもわかるように入っています。
さすが、ジュブナイル。

自習の時間に、「宇宙そのものが波である」という話から、「並行世界の話」をしだす転校生。
おっと。昨年公開の映画で完結した「SPEC」シリーズで、よくわかんなかったSF概念が、「なぞの転校生」でようやくわかったような気がしないでもありません。
なんと「世界はひとつではない」という、SPECファンは、お。と思うセリフもございました。

違う世界から来たらしき転校生は第2話で、野球を見て「自分さえ勝てれば相手はどうなってもいいのか?」と疑問を抱き、「負けたらがんばって勝てばいい」と応える広一に、「そんなことしてたらどんどんエスカレートして最後は戦争だ」と極論ですが正論を語ります。
第3話では、東日本大震災の話や、核兵器の話なども物理やSF小説の話題を使って語られていきます。
そういえば、「雨だれ」って、原作にある、放射能の雨をおそれる転校生と関連づけているのかなあ。

深夜ではなく、少年少女が見る時間に放送してほしいドラマです。金曜深夜だから少年少女も見ているのでしょうか。
「なぞの転校生」はすべての、少年少女、元少年少女のためのフィクション(SF)
なのです。
(木俣冬)