先月米国で発売されたビヨンセのニューアルバム『Beyonce』が大ヒットしている。しかしこのアルバムの収録曲をめぐって、一部の有識者やネットユーザーの間で論争が勃発しているのをご存じだろうか。それは、「この楽曲の宣伝にフェミニズムが悪用されているのでは?」という内容だ。

    大手海外メディアは大絶賛 大ヒットの理由とは

昨年末の12月13日午前12時(アメリカ時間)、iTunesストア上で発売前に一切告知がない状態でリリースされた『Beyonce』は、わずか発売3日目にしてiTunes史上最速でダウンロード数80万回を超え、2014年1月5日時点では合計約143万枚を売り上げるという驚異的なセールスを達成している。

これまでも、女性を勇気づける楽曲を発表してきたビヨンセだが、今回のアルバムでは、女性のエンパワメント(=女性が力を持ち、連帯し行動することによって自分たちの置かれた不利な状況を変えていこうとする考え方)により踏み込んだ楽曲をアルバムに収録した。収録曲『フローレス』では、ナイジェリアの女性作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェのTEDTalkでのスピーチ『すべての人はフェミニストになるべきだ』のスピーチ中に語られた言葉を歌詞に引用。収録曲『プリティー・ハーツ』では、社会が女性への容姿にかける圧力を問題視する内容の歌詞を盛り込んだ。

今回のアルバムのメッセージ性に対し、大手海外メディア各紙は大絶賛。「ビヨンセは次世代のフェミニスト・アイコンだ」「ビヨンセはフェミニストのマニフェスト(公約)を発表した」と報じている。

一方、今回のアルバムの内容を否定的に評するジェンダー学の有識者からは、「ビヨンセが形作ろうとしているフェミニスト・イメージは、マーケティング戦略の一環に過ぎないのではないか」と批判の声があげられている。

ハフィントン・ポスト・ライブが放映したジェンダー学有識者による討論番組によれば、特に争点となっているのは、今回のアルバムの収録曲歌詞と、ミュージック・ビデオ等のビジュアルコンテンツとのギャップである。同アルバムの否定派は、アルバムと同時リリースされたビジュアルコンテンツは、今まで以上にビヨンセのセクシーなイメージを前面に押し出すことによって、米商業界で慣習となっている「女性の体の商品化」を促進している、と批判している。つまり、歌詞ではフェミニズムを推進している一方で、ジャケットやビデオでは女性の身体のセクシーさを武器にしているという矛盾点を批判しているのだ。

映画監督であり、文化評論家であるタニヤ・スティールさんは、ウェブマガジン『シャドー・アンド・アクト』にて、女性にとってポジティブな歌詞とセクシーなビジュアルの組み合わせは、「10代のファン層の支持を継続的に得つつ、フェミニストからの批判を避ける」マーケティング策だったのではないかと分析。非営利女性向けメディア『ルナ・ルナ』は、2013年はロイド、リリー・アレン、マイリーサイラス等の多数の女性アーティストが「フェミニスト」なイメージを打ち出したとし、「フェミニズムが広告戦略になる日も近いのでは」と懸念を示している。

「女性のエンパワメント」が広告戦略になることに対し、日本の読者の皆さんはどう思うだろうか? 筆者個人としては、その目的や方法がなんであったにしても、「女性が元気づけられるメッセージ」が世に出ることはうれしいのだが。洋楽が好きな読者の皆さんは、ビヨンセの『フローレス』や『プリティー・ハーツ』を聴いて、一考されてみては?

(文=ケイヒル エミ)

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