ネットにおけるプライバシーを崩壊させたのは我々消費者だ
本来お金で支払うべきものを、我々消費者は個人情報で支払っている。いずれ後悔することになるのではなかろうか?
米国政府のスパイ行為が波紋を呼ぶ中で、重要な事実が忘れ去られようとしている。それは、個人情報というものが21世紀における新たな通貨となっており、我々消費者が無駄遣いをやめない限り他人のスパイ行為を止める事はできないという事実である。
個人情報での決済
特に新しい考え方ではないが、イヴジェニ・モロゾフは個人情報とその使われ方について次のように述べている。「サービスの対価としてお金ではなく個人情報を使おうとする不快なトレンドが存在する。そのうちサービスだけでなく日用品まで個人情報で手に入るようになるかもしれない」電子メールやネットバンキング等の便利なサービスを無料で使おうとすることで、我々は否応なしにプライバシーが存在し得ない世界に引き込まれているのである。
The Guardianのジョン・ノートンは、我々は個人データを(GoogleやFacebook等のサービスに)だまし取られていると指摘しており、解決には政治的な手法しかないと述べている。ただこれは都合のいい解釈であり、この問題の本質を理解していないように思える。我々がプライバシーを保てない原因は、我々自身の行動にあるのだ。
モロゾフは次のように考えている。
どんな法律もツールも市民を守ることはできない。なぜならシリコンバレーの夢物語に乗せられた市民たちは、自ら進んでデータを提供するからである。彼らは買い物の履歴から遺伝子情報にいたるまで、より早くより有利な方法で自身のデータをマネタイズしようと必死だ。こうした市民たちが欲しているのは個人情報を守るためのツールではなく、むしろ公開するためのツールなのだ。今ではどんな些細なデータも一種の資産であり、後は適切な買い手を見つけるだけで良い。そして、無料の便利なサービスと引き換えにこうしたデータを買い取る業者はたくさんいるのだ。例えばGoogleのGmailが良い例である。
問題なのは、無料で電子メールやオンライン・ストレージを使えることのメリットは明らかであるものの、それに対するリスクは決して消費者に明かされないということだ。それに、例え自分自身は無料の電子メールを使うことと引き換えに個人情報を提供することに納得していたとしても、やり取りしている相手はどうだろうか?相手も自分と同じようにプライバシーを切り売りしたいと考えているとは限らないのだ。
プライバシーの漏えいは止まらない
シリコンバレーがバブル絶頂期だった1999年、当時のSun CEOだったスコット・マクニーリはアナリストや記者達に向かって、プライバシー問題などはまやかしに過ぎないと断言した。「そもそもプライバシーなどというものは存在しないのです。それを受け入れましょう。」ほとんどの者はただの無神経な発言と捉えただけだったが、一部の人間はこれを真に受けた。
今になってようやく理解されつつあるのは、プライバシー問題というのは決して他人によって引き起こされるものではないということだ。全ては我々自身の責任なのである。
オンライン世界に対する代償として広告を受け入れたとき、我々は同時にプライバシーを失った。これはしぶしぶ諦めたとは言えない。喜んで売り渡したというべきである。我々が自ら望んで嵌まった罠を政府が利用しようとしたくらいで、今更騒ぎ立てる筋合いはないのだ。
もちろんウェブ企業にも責任はあるだろう。魅力的なサービスを無料で使えるこの世界を作り上げたのはGoogleやFacebook等のウェブ企業に他ならない。米国政府が市民の情報が収集して利用されていたことに対しこれらの企業が抗議の声をあげるのは、極めて偽善的と言わざるを得ない。
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しかし、数ギガバイトのクラウド・ストレージや友達とのコミュニケーション手段を得るため、こうした企業に個人情報を売り渡しているのは我々自身なのだということを忘れてはならない。本来であればこういったサービスはお金で買っていたはずなのに、今では自分たちのプライベートな情報と引き換えるのが当たり前になってしまった。
各国政府が法規制などの対応を行うことは可能だろうが(無論これも偽善の誹りを避けられない。なにしろ政府は保護するはずのデータを自ら傍受しているのだから)、消費者自身が情報を垂れ流すことにメリットを感じているうちは何の効果も見込めないだろう。我々の人生を紡ぐのは我々自身だ。そうして紡いだ自分の物語を企業や政府が自由に閲覧できるようにしているのもまた我々自身なのである。
そろそろ自らに問いかけなければならない。本当にこれでいいのか?利便性のためなら自分の人生を切り売りしても本当にかまわないのだろうか?
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Matt Asay
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