エレベーター死亡事故を再び起こしたシンドラー社の悪評
あのシンドラーエレベータ社製のエレベーターが、またもや死亡事故を起こしてしまった。
10月31日、石川県金沢市内のホテルで、女性従業員(63歳)がドアの開いたエレベーターに乗り込もうとしたところ、上昇したかごにつまずいて転倒。かごはそのまま上昇し、女性は上半身をかごの床と乗降口の枠に挟まれてしまったのだ。エレベーターのブレーキに不具合があったのは明らかだ。
シンドラー社といえば、思い出すのが2006年、東京都港区の公営住宅で男子高校生(当時16歳)が、やはりドアが開いたまま上昇するエレベーターのかごと乗降口の枠に挟まれて死亡した事故。そして、このエレベーターと今回事故を起こしたものは同型だった。
当時、週プレもこの事件を取材し、シンドラー社製エレベーターが設置されている東京都内のあるマンション住民から恐怖体験を聞かされていた。次のようなものだ。
「以前から『夜中にエレベーターが暴走する』と、ほかのマンション住民から苦情が出ていたんです。港区での死亡事故を聞いて不安になり、深夜3時過ぎに自治会の役員と調べに行ったら、本当に暴走していました。操作もしていないのに、ドアが開いたままかごが上階へ行ったかと思うと、再び降りてくる。怖かったです」
あれから6年、再び同じような死亡事故を起こすとは。いったいシンドラー社は何をしてきたのか? というわけで、シンドラー社の評判をあらためて取材してみると、これが悪評フンプンなのだ。
シンドラー社はスイスに本社を置く世界シェア第2位のエレベーターメーカー。しかし、日本では06年の事故後、すっかり信用を落とし、新規の販売をあきらめてしまったらしい。シンドラー社の内情を知る独立系エレベーターメンテナンス会社の社長がこう話す。
「06年以降、シンドラー社さんの新規エレベーター販売実績はゼロです。高校生が亡くなった事故がたたり、公共事業の入札に参加するのが難しくなってしまったんです。そのため、今ではメンテナンス事業に力を入れている。全国に約5500台ある自社製エレベーターの保守点検業務を協力会社と一緒に手がけているんです。ただ、全国には約40万台ものエレベーターがあり、そのシェアは1%ちょっと。さすがにそれだけではやっていけないので、マーキュリーアシェンソーレという独立系のメンテナンス会社を買収し、他社のエレベーター保守も受注しています」
どうやらシンドラー社は、メンテナンス会社として糊口(ここう)をしのいでいたようだ。
だが、その仕事ぶりは疑問だらけ。なんとも危なっかしいのだ。別のメンテナンス会社の関係者が証言する。
「今回事故を起こしたホテルのエレベーター整備をしていた協力会社に、シンドラー社は『点検のときにエレベーターには触るな。目視だけでいい。目視で異常を見つけたら報告しろ』と指示していたそうなんです。でも、触らない点検なんておかしすぎます。ネジがしっかり締まっているか、叩いたり触ったりして確かめ、場合によっては分解して不具合を見つける。それが本来の点検ですから」
なぜ、シンドラー社はそんなおかしな指示を出していたのか? 前出のメンテナンス会社社長はこう語る。
「シンドラー社製エレベーターのブレーキ構造は独特で、へたに触ると本当にブレーキが利かなくなる恐れがあるんです。06年の事故を受けて、シンドラー社は静岡県袋井(ふくろい)市の自社工場で独立系メンテナンス会社向けにブレーキ調整の講習会をやっています。そこにウチの社員も参加したんですが、マニュアルどおりに調整しても思ったようにブレーキがかからない、本当に調整の難しい構造だとこぼしていました」
驚くことに、講師役のシンドラー社員もまた自社製品のブレーキメンテナンスをマスターしていなかったフシがある。
「ブレーキ構造を質問するウチの社員に、そのシンドラー社の講師はただマニュアルを読み上げるだけ。技術的な質問にちゃんと答えることができなかったと聞いています」(メンテナンス会社社長)
自社の社員ですらメンテナンスに手こずるブレーキって、どんなシロモノ? これじゃ、シンドラー社製エレベーターは物騒すぎて、とても乗れない。金沢での死亡事故は起きるべくして起きた?
ふたりの犠牲者を出したエレベーターと同型のものは全国に80台あるとされる。事故後、国交省はシンドラー社に一斉点検を命令したというが、甘すぎる。今すぐその80台はリコールすべきだ!
(取材/ボールルーム)