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ライフジャケットのような服が ぎゅっと体を締め付けると、まるで誰かに抱きしめられているような気分になる。これは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科のエイドリアン・チェオク(Adrian Cheok)教授が開発した、遠く離れた者同士でハグする「ハギー・パジャマ」という装置だ。チェオク教授は、触覚を始めとする五感を使ってコミュニケーションを行う「タッチ・インターネット」の研究を進めている。ネットで感覚や体験を共有できるようになった時、はたして社会はどう変化するのだろう。

──初対面の人同士の交流にタッチ・インターネットを使うことも可能でしょうか?
大勢の人にハギー・パジャマの実験に参加してもらい、さまざまな質問をしました。
幼い子供たちは、見知らぬ他人も含めてさまざまな人と触れ合いたがります。これは年齢による違いでしょう。子どもは、世界を探検することで社会の一部になっていくのです。

人間は本質的に他人とコミュニケーションしたいという強い欲求を持っています。例えば、携帯電話はあっという間に普及して、私たちの生活の一部になりました。タッチ・インターネットでも、ユーザーは見知らぬ人と触れ合ってコミュニケーションしたがるのではないかと思います。

面白いことに、親といっしょに家にいる時にもハギー・パジャマを使いたいという子どもが何人かいました。家族や文化によってはあまりハグをする習慣がなくて、直接ハグするのは気恥ずかしいということでした。

また、イギリスの男性から送られてきたメールには、病院の集中治療室に入っている娘とハグするために、ぜひハギー・パジャマを使いたいと書かれていました。アメリカの少女から送られてきたメールには驚かされました。

刑務所に入っている父親とハグするために、ハギー・パジャマが欲しいというのです。彼女には、まだ研究中で売ることはできないと謝罪の返事を書きましたが……。
あるメディアが登場すると、人々は開発者が思いも付かなかった使い方を見つけるものです。

──ハギー・パジャマを市販化する上での課題は何でしょう?
私はこれまで行ってきた研究を元に商品を作りたいと考えており、ハギー・パジャマも候補の1つです。しかし、そのまま商品化したのでは非常に高価になってしまいます。

産業分野の人たちといろいろ話し合っていますが、その中によいアイデアがありました。腕時計やリストバンド、指輪などすでに我々が身につけているモノを、端末にするのです。例えば、あなたが指輪をぐっと握りしめると、パートナーの指輪が少し締まるという具合です。触れ合いというのはロジックではなく、記憶と深く結びついていますから、指輪がぎゅっと締まるというシンプルな動きにもたくさんの意味を持たせることができるでしょう。携帯電話にその機能が組み込まれることもありえます。

他の応用としては、ゲームなどのエンターテインメント分野が挙げられます。ゲームでの臨場感を高めるために、デバイスを買うユーザーは多いでしょう。

パートナーと一緒にステップを踏んでいる感覚を得られるダンスシューズもできるのではないかと考えています。



[図表3] タッチ・インターネットのアイデア例。ブレスレット型端末を握りしめたりなでたりすると、同じ端末を身につけているパートナーにそれが伝わる。

(つづく)

記事提供:テレスコープマガジン

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