空気なしタイヤ


すでに完成したモノを改良するのは難しい。まったく新しい仕組みの傘を思いつける人はそう多くないだろう。自動車や自転車に使われるタイヤもそうしたモノの1つ。

タイヤといえばゴムでできていて空気入りと相場が決まっているが、車輪にゴムを付けるようになったのは19世紀も後半に入ってからで、それまでは金属や木製の車輪をそのまま使っていた。実用的な空気入りタイヤは、自転車用をダンロップが1888年に、そして自動車用をミシュランが1895年に開発している。タイヤのありようはこの時点で完全に決定された。乗り心地とグリップ力に優れた空気入りタイヤだが、その最大の欠点はパンクである。アポロ計画の月面探査車には金属ワイヤーで作られたパンクしないタイヤが採用されたが、これはあくまで月面という特殊な環境用だ。

自転車用にウレタンゴムを成形したタイヤは昔からあり、最近では特殊なゲルをタイヤに注入した商品も登場しているが、自動車には使えない。

自動車用では、パンクした後もしばらく走れる、ランフラットタイヤやセルフシールタイヤがある。前者はタイヤのショルダー部分を強化したもの、後者はタイヤ内の密封剤がパンクの穴を塞ぐ仕組みだが、パンク自体は避けられない。

空気入りでない、自動車用の実用的なタイヤとしては、米Resilient Technologies社のノンニューマティック・タイヤがある。これはハニカム(蜂の巣状)構造をしたタイヤで、2008年頃から軍用に開発されているが、実用化はまだされていない。

こうした状況の中、2011年11月にブリヂストンが発表したのがエアーフリーコンセプト技術に基づいた「非空気入りタイヤ」。タイヤ側面には波形をした合成樹脂のスポーク(車輪の軸と輪をつなぐ部材)が片面に60本ずつ、合計120本張り巡らされており、これがクッションとなって自動車の重量を支える。スポークの形状は、コンピューターによるシミュレーションを繰り返して設計された。

2011年のモーターショーでは、電動カート用の小型タイヤとしてデモンストレーションが行われ、空気入りタイヤと同程度の乗り心地をアピールした。タイヤ自体の重量も空気入りと変わらない。

このタイヤは接地面のゴムと合成樹脂のスポークで構成されているが、材料はすべてリサイクル可能で、新しいタイヤ材料として使われるという。

写真:開発された非空気入りタイヤ(エアフリーコンセプト) Photo Credit: ブリヂストン

(文/山路達也)


記事提供:TELESCOPE Magazine