世界を変えたソーシャルメディア革命の落とし穴


私たちにソーシャルメディアの波が押し寄せたことは、周知のことでしょう。しかしなぜこのような波がきて、現在どのようになっており、その先にあるものはなにかをブロガーとして著名な著者が名言・格言を引用しながら縦横無尽に語ります。

ソーシャルメディアに限らず、多くのビジネスは「拡散させて囲い込む、ファンにしてまた拡散させる」の繰り返しです。古くはブランド企業が行ってきたものですし、新しくはインターネットのビジネスがそうです。

多くのビジネスは、この手法を体系化させ成功をさせてきました。

しかし、インターネット上ではこの「囲い込み」を巡る競争が激化。初期投資がかからないビジネスなので、大量の事業とサービスが投下され、淘汰され、統治されていきました。これまで長い時間とかけて成長してきた工業化と異なり、情報化は加速度的に私たちの前で成長していったのです。そして、私たちは人類史上はじめて「情報が相互的に発信されるということと、リアルタイムのコミュニケーション」を手に入れたのです。

“君が僕の存在を認めてくれるなら、僕も君の存在を認めるとしよう。”
(「鏡の国のアリス」ルイス・キャロル)

私も著者にならって名言を引用してみました。「いいね!」や「リツイート」はキャロルの言葉にあるように相互的に「承認」していくことです。そこから派生する様々な問題・課題を「落とし穴」という概念で「利用の代償」「格差」「人間関係」「敵としての自分」というテーマで展開していきます。意図したわけではありませんが、アリスも穴に落ちていきますね(不思議の国のアリス)。

具体的な内容としては、例えば、SNSによる可視化される人間関係で、離婚が急増する話であることなどが挙げられています。また中東を揺るがした「アラブの春」や、ニューヨークのウォール街で巻き起こって世界に飛び火した「オキュパイムーブメント」などは、ソーシャルメディアへのシフトが顕著に示される例としてあげられています。

著者はこれを「持たざる者」が「持たざる者」を支援する時代ととらえます。「注意喚起」と「共感」で慈善活動なども盛んになってきました。これはインターネット、ソーシャルメディアの良い点でもありますが、先日、地球サミットで伝説のスピーチをしたセヴァン=カリス・スズキや元東大総長の小宮山宏さんらと話した際に、「直接対話」の大切さも実感した私としては、「壊すことはできても、その先ができない」(小宮山さん)というインターネットの難しさも考えざる得ません。

環境学を学んだという著者は、環境の3大テーマ「持続可能な発展」「多様性」「グローカル」で考える癖がついたと話します。実際、本書にも私が出向いたリオ+20などについても記されており、日本のソーシャルメディア本とは一線を画す内容となっています。

本書でフェイスブックでお金を稼いだり、ツイッターでフォロワーを増やしたりすることはできないかもしれません。しかし、長年ソーシャルメディアと親しんだ著者なりのものの考え方やとらえ方、そして、距離の取り方について知ることができ、それを自分自身と照らし合わせて深く考えるきっかけになる一冊と言えるでしょう。

インターネットの持つ可能性と課題について日本ではまだ先進的な議論「熟議」がされていない、と著者は書いています。ぜひ彼とは環境と社会とテクノロジーについて話をしてみたいと思いました。

(編集長 中村祐介)



世界を変えたソーシャルメディア革命の落とし穴