なお、チキソトロピー性とは、ゲルに撹拌やせん断などを加えると流動性のゾルに変わり、撹拌などをやめて放置しておくと再びゲルに戻る性質のこと。

揺変性ともいう。

小さなせん断ひずみ(■、0.1%)では、貯蔵弾性率(●)は損失弾性率(▲)よりも大きく、材料はゲル状態(●>▲)にある。

ここに大きなせん断ひずみ(300%)を加えると、損失弾性率が貯蔵弾性率よりも大きくなり、ゾル状態となる(▲>●)。

しかし、せん断ひずみを再び小さくすると(0.1%)、ゲル状態が直ちに回復した(●>▲)。

この材料では、微粒子は液晶のネマチック相ドメイン間に強く凝集して三次元網目構造を形成。

そのため、大きなひずみを加えた際も三次元網目構造は完全には破壊されず、ひずみを取り除くと直ちに元の三次元網目構造が再構築され、ゲル状態が回復することが考えられるという。

同様の現象は、水を溶媒とするヒドロゲル材料で発現することが知られているが、液晶のような有機溶媒を用いたゲル材料ではまれであり、今回開発された材料に特徴的な物性だ。

今回開発したゲル材料は、ゲル中にある光応答性材料の光異性化反応によるゾル-ゲル状態の転移を光制御する技術を利用して、微小な損傷であれば、短時間で修復できるというものだ。

さらにそれだけでなく、高速なチキソトロピー性も示す。

さらに、大きなせん断ひずみによってゾル状態へ転移しても、ひずみを除くと高速でゲル状態へと回復する。

このゲル材料を基にしてさらに開発を進めることによって、さまざまな製品の耐久性の向上や長寿命化が可能となる自己修復性コーティング塗料の開発が期待されると、研究グループは述べている。

今回開発されたゲル材料は、紫外光に応答するアゾベンゼン誘導体を用いているが、研究グループは現在、種々の波長の光による損傷修復機能を目指し、アゾベンゼン以外の官能基を有する光応答性材料も用いた可視光や赤外光によるゾル-ゲル状態の光制御技術の研究を進めているという。

また、アゾベンゼン誘導体の添加量や液晶の相構造・相転移温度、微粒子の粒径・素材などの影響を検討し、より低温で光修復が可能なゲルやさらに高強度のゲル材料の開発も予定しているとした。

将来的には、コーティング塗料を始めとするさまざまな産業分野での応用を目指し、今回の成果に対して興味を持った企業と実用化を目指した共同研究を推進するとしている。