■広島県に見るユースと高校のあり方 
 もちろん、全体的に見ればJユースの方が力があるのは分かるが、選手の集まる現状や環境面というバックボーンを無視してはいけない。高校サッカーとJユースの環境面では、雲泥の差がある。中には流通経済大柏や前橋育英のように、Jユース顔負けの設備を有するところもあるが、それはほんの一部に過ぎない。 
 その意味で、広島皆実の優勝は大きな意味を持つ。Jユースと高校の共栄が具現化したものだからだ。広島皆実の主軸の多くは地元のJクラブであるサンフレッチェ広島の下部組織出身者だ。 
 
「広島にはサンフレッチェがある。サンフレッチェの功績は大きいですね。サンフレッチェを中心にジュニア、ジュニアユースチームの指導組織がうまく浸透して、いい選手が育つようになった。サンフレッチェは地元のクラブチームや高校とも交流があって、共に育成強化ができている。地元の選手たちは広島ユースに上がれなくても、ウチや広島観音、瀬戸内、広島県工などたくさんの高校でサッカーができるし、みんな切磋琢磨できている」(広島皆実・藤井潔監督)
 
 かつて埼玉、静岡と共にサッカー御三家と言われた広島県だったが、九州勢の台頭、関東勢の盛り返しなどで全国で結果を出せない低迷のときを迎えた。しかし、広島ユースが台頭すると、一気に広島県全体の底上げに繋がった。
 広島ユースが全国大会で多くの結果を残し、多くの有能な人材が輩出。下部組織も充実の一途を辿る一方で、柏木陽介など他県からも優秀な選手が入ってくるようになったことで、ユースに昇格できる選手が限られてきた。
 ユースに昇格できなかった選手の多くは広島皆実や広島観音などに進学。そこで力をつけた選手たちが、広島の高校サッカー復活の土壌を作った。
  
 平成18年には広島観音がインターハイ初出場初優勝を達成。このときもメンバーの多くが広島の下部組織出身だった。そしてそれに触発されるように、広島皆実も広島の下部組織出身者を中心としたチームで、一昨年、昨年と選手権ベスト8、昨年の高円宮杯ベスト8に進出。そして今大会の優勝に繋がった。
「ウチはサンフレッチェの選手を預かっている気持ちでやっている。だからこそ、しっかりとした育成をしなければという意識が高い」と藤井監督が語ったように、Jクラブと高校が見事に一体となり、地域のサッカーの質の向上に繋がっていた。その中で優秀な人材も世に羽ばたいていった。
 大分の森重真人は、広島ジュニアユースからユースに昇格できず、広島皆実に進学。高校3年間でメキメキと頭角を現し、卒業後に大分へ入団。昨年大ブレイクし、大分の主軸に成長、U−20W杯、北京五輪と2つの世界大会を経験し、今ではA代表にも選出されている。
 この広島の現状こそ、Jユースと高校が共存する理想的な形となっており、今後、より両者共存共栄していくためのモデルケースとなっている。
 
「ユース」と「高校」どちらがいい、どちらが上というのではなくて、「どちらも必要」なのだ。そして視点の置き方も、「ユース」と「高校」とで分けるのではなくて、もっと細分化して見なければならない。今年の関東地区はどうなのか、九州地区はどうなのか。各地域内で、育成という観点から、双方が一体となって取り組めているのか。
 こうした観点で交わされる議論こそ、今後のユース年代の発展に繋がっていると筆者は信じている。(了)

  
著者プロフィール
安藤隆人(あんどう たかひと)
元銀行員という異色の経歴を持つサッカージャーナリスト。小学校2年生からサッカーを始め、以来サッカーの魅力にどっぷりとはまる。特に高校世代のサッカーは小学生のころから興味を抱き続け、今もこの世代を中心に全国を飛び回り、ユース年代の取材を精力的に行っている。