住宅ローンの金利上昇が続いている。返済計画はどうするべきか。ファイナンシャルプランナーの井上ヨウスケさんは「実質金利を考えるべきだ。借金と言うだけで思考停止になってはいけない」という--。

※本稿は、ポッドキャスト「井上ヨウスケのお金の話で自分がわかるラジオ」の配信回「住宅ローンを利用する人は、ローンの実質金利という概念を知らないともったいない」の内容を再構成したものです。また、原稿内の数値等は2026年1月時点のものです。

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■多くの人が知らない「実質金利」の意味

実質金利という言葉があります。投資の世界ではおなじみの概念ですね。

銀行預金の金利が0.2%、インフレ率が3%だとします。名目では増えていますが、物価の上がり方には追いついていません。実質では目減りしています。預けているだけで、お金の価値は減っていく。この考え方は、いまや多くの方がご存じです。

ところが、同じ計算をお金を借りる側で考える機会は、まだ多くないように思います。「実質」を、運用する側の視点で使うことが多いんですね。住宅業界で働いている方でも意外とご存じない、という話を聞くことがあります。

では、住宅ローンの金利を見てみましょう。全期間固定のフラット35は、2026年1月時点でおおむね2%を超える水準になりました。2016年や2019年には0.9%前後でしたから、名目で見れば確かに高くなっています。金利が上がったこと自体は、事実です。

ただ、その隣にインフレ率を置いてみてください。仮に足元の物価上昇率が3%程度なら、2%で借りるお金の実質金利は、差し引きでマイナス1%ということになります。

金利ゼロでお金を貸してあげます、と言われたらどうでしょうか。直感的に「得だ」と思うはずです。実質金利がマイナスというのは、それよりさらに有利な条件で借りている、ということになります。

日本の金融政策について「まだ緩和的だ」と言われるとき、根拠にされているのもこの実質金利です。インフレ率がこれだけ上がっているのに、金利が追いついていない。だから引き締めの効果が出ていない、という話ですね。

■インフレ10%の中で金利10%は得か損か

数字を極端にしたほうが分かりやすいと思います。いま100万円のものを買いたいとします。生活に必要なものです。でも手元に100万円はありません。コツコツ貯めれば、1年後には用意できそうだ、という状況です。

この社会のインフレ率は10%とします。ということは、いま100万円のものが、来年には110万円になっています。デフレの頃はずっと4万円ほどで買えていた50型のテレビが、いまは5万円も6万円もします。あの感覚です。

そこに、金利10%でお金を貸そうという人が現れます。借りるべきか、借りないべきか。合理的に考えて、どちらが有利でしょうか。

計算してみます。いま100万円を借りて、来年110万円を返す。一方、借りずに1年待ってから買えば、支払いは110万円。どちらも110万円です。

支払う金額は同じ。違いは1つだけです。借りたほうは、1年早くそれを手にしています。

この差は、いったいどこから生まれているのでしょうか。

■住宅ローンは待つべきか否か

借金は消費の前借りだ、と言われます。いまは手にできないものを、借りることで先に手にする。その代わりに利息を払います。つまり金利とは、時間の値段だと考えることができます。

先ほどの例では、インフレ率も金利も10%でした。このとき、時間の値段はゼロになっていました。1年早く手に入れるための追加コストが、実質的に消えているわけです。これが実質金利ゼロの状態ですね。

では、実質金利がマイナスならどうなるでしょうか。インフレ率10%の社会で、5%で貸してくれる人がいたとします。100万円を借りて、返すのは105万円。来年買えば110万円かかるものが、105万円で手に入ったことになります。差額の5万円は、待たなかったことへの見返りです。

時間の値段がマイナスになると、待つほうが損をします。いま住宅ローンをめぐって起きているのは、構造としては、これと同じことだと思うんです。

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■家は高い、でも金利は…

誤解のないように書いておきます。家そのものは、高いです。資材価格の上昇もあって、価格は明らかに上がりました。私自身、買うときに高いと思いました。家を買うのが大変な要素は、いくらでもあります。

ただ、金利が高いかと言われれば、そうは思わないんです。実質金利ベースで見れば、高くはないと思っています。

私たちは、どうしても名目のほうを見てしまいます。0.9%が2%になれば、倍以上に増えたと感じますよね。その気持ちはよく分かります。でも、物価が3%づつ上昇する社会で2%を払うことと、物価がほとんど動かない社会で0.9%を払うことは、意味がまったく違います。

もっとも、これはインフレが続くという前提の上に立った話です。そうならなかった場合は、どうなるのでしょうか。

■インフレが今後も続くなら…

将来インフレが続くかどうかは、誰にも分かりません。ですからシナリオを2つに分けて考えます。物価上昇が止まらないシナリオと、デフレに逆戻りするシナリオです。

まず後者から見ていきます。高い金利で借りた直後にデフレへ戻れば、不利になる可能性があります。ただ、デフレになれば住宅ローン金利も下がる可能性があります。そのときに借り換えができるなら、ある程度は備えられるのではないかと私は考えています。

なお、いまの3%程度というインフレ率がそのまま続くと見ている人は、多くありません。経済見通しでは、1.5%から2%程度に落ち着くシナリオを置くケースが多いようです。肌感覚と、専門家による予測との間には、けっこうな開きがあります。

インフレが続くシナリオは、さらに2つに分かれます。賃金が物価と同じかそれ以上に上がる良いインフレと、賃金が物価上昇に追いつかない悪いインフレですね。ここ数年の日本は、後者に近い状況でした。

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では、悪いインフレなら借りないほうがいいのでしょうか。実は、逆の見方もできます。

実質賃金が物価に負け続けるということは、購買力が年々落ちていくということです。そうなれば、借りられる金額も減っていく可能性があります。住宅ローンは、年収に対する割合で上限が決まるからです。家の値段は上がるのに、年収がついていかなければ、「その年収では、ここまでしか貸せません」と言われる可能性があります。

インフレが続き、しかも実質賃金は上向かないと予想するのなら、理屈のうえでは、今が一番信用力の高いタイミングだということになります。ご自身が本気でそう予想しているなら、待つことは有利に働きません。

■物価が上がる局面での住宅ローン

固定金利で借りると何が起きるのか。具体的な数字で追ってみます。手取りの月収が30万円、生活費が20万円、住宅ローンの返済が元利均等で月10万円としましょう。支出の合計はちょうど30万円。貯金はできない、ぎりぎりの家計です。返済が支出に占める割合は約33%になります。

ここでインフレ率2%が続いたとします。生活費は毎年2%ずつ増えていきます。20万円は翌年20万4000円になり、その翌年は20万8080円になります。同じ生活をするための金額が、毎年膨らんでいくわけです。

ところが、住宅ローンは違います。固定金利なら、10年たっても10万円のままです。返済額はインフレしません。10年後を計算すると、生活費は約24万4000円。2割増しです。支出合計は約34万4000円ですが、返済額は10万円のまま動きません。返済が支出に占める割合は約33%から約29%に下がります。

20年後はもっとはっきりします。生活費は約29万7000円、およそ1.5倍です。でも住宅ローンは1.5倍になりません。返済が支出に占める割合は、約25%まで下がります。

借金が、インフレによって実質的に圧縮されているんですね。国が金利を低く抑えたがるという、いわゆるインフレ税の話が出てくるのも、ここに理由があります。物価が上がる局面では、債務を持っている側が有利になります。これはインフレの特性です。

賃金の側が動けば、効果はもう一段はっきり出ます。

■「私が賛同できない使い方」

賃金も物価と同じくらい上がるケースを、さきほどの家計で見ておきます。

手取り30万円が2%増えれば、6000円のプラスです。一方、増える支出は生活費20万円の2%分ですから4000円。ローンの10万円には、インフレ率がかかりません。差し引き、月に2000円が浮く計算になります。

支出の一部を固定してしまうと、賃金の上昇がそのぶんだけ家計の余裕として残ります。ローンをインフレに連動させない、という選び方の意味は、ここにあると思っています。

そのうえで、変動と固定の比較です。変動金利の適用金利は、固定金利より明らかに低い。ですから当初10年ほどの間に劇的な金利上昇が起きなければ、総返済額で固定に追い抜かれることは考えにくいと思います。

住宅ローンは、最初のうちに利息を多く払う構造になっています。序盤に大きな上昇がなければ、後半で金利が上がっても返済額はそれほど増えません。最初が肝心、という言い方ができます。

ただ、「どうせすぐには上げられないだろう」と高を括るのは危ないと思っています。固定金利でも十分にメリットが出る局面ですから、安心を取りにいく判断は悪くありません。これは私の考え方です。

もう一つ、賛同できない使い方についても書いておきます。「固定で目いっぱい借りて、その資金を投資に回す」という考え方です。理屈としては成立しますが、それは単にレバレッジをかけているだけだと思うんです。借りようと思った分だけ借りればいい。

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■繰り上げ返済をする必要はないワケ

繰り上げ返済についても、同じ話になります。有利な条件でローンを組めているなら、無理をして繰り上げ返済をする必要はない、というのが私の考えです。手元の資金を減らしてまで急いで返すより、長く借りたまま、その資金を運用に回すほうが合理的な場合があります。もちろん、家計の状況によって答えは変わります。

たとえ話をひとつ。5キロ2000円で米が買える権利を持っているとします。店頭では4000円を超えています。この権利を、わざわざ早く使い切ってしまう人がいるでしょうか。期限が来るまで、絶対に手放さないはずです。

いわゆるお宝保険を、みんな手放しません。ではなぜ、お宝ローンだけは手放そうとするのでしょうか。

もらえるもの、受け取るものが有利なら、人は手放しません。ところが「借金」という言葉がつくだけで、判断がまるごと変わってしまいます。この領域依存は、なかなか興味深いなと思います。

もっとも、理屈がすべてではありません。長すぎるローンは、精神的に重いです。何歳まで続くのかという事実が、思っている以上に人の気持ちを重くします。この仕事をしていると、そう感じる場面が何度もあります。ですから「必要以上に長く借りましょう」とも、私は言いません。

名目金利だけを見て「高いから買わない」「高いから急いで返す」と決めるのではなく、物価の上がり方との関係も合わせて考えてみてください。払っている金利が物価の上がり方に対して高いのか安いのかを考えることが大切です。同じ金額のローンでも、上手に使えるかどうかで、人生で使えるお金の量は変わってきます。

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井上 ヨウスケ(いのうえ・ようすけ)
ファイナンシャルプランナー
1986年3月15日大阪生まれ、高知県在住。元役者のファイナンシャルプランナー。現在はYouTubeを中心に金融リテラシー向上のための情報発信を行っている。運営しているYouTubeチャンネルの登録者数は14万人を超える。ほかにも過去300本ほどの講演活動、一部上場企業にて従業員向けの個別相談を400件以上行っている。主な書籍に『図解 会社員のためのお金のキホン』がある。
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(ファイナンシャルプランナー 井上 ヨウスケ)