現金はあるのになぜ…?経営者が“あえて借金”をして「中古不動産」を買うワケ【税理士が解説】
十分な手元資金があるにもかかわらず、あえて銀行から融資を受けて不動産を購入する社長は少なくありません。一見すると無駄な借金を抱えているように見えますが、法人ならではの合理的な税務戦略と資産拡大の仕組みが存在します。本記事では、税理士法人グランサーズ共同代表の黒瀧泰介氏が、経営者が知るべき「法人税の圧縮」と、手元資金を増大させる「融資のレバレッジ効果」について解説します。
本業の黒字を圧縮…“キャッシュアウトを伴わない”会計上の赤字
十分な手元資金を持ちながら、“あえて借金”をして不動産を購入する経営者は、単に資産を増やしているわけではありません。
最大の目的は、本業の黒字を打ち消して法人税を圧縮する「会計上の赤字」を作り出すことにあります。
不動産を法人名義で購入して賃貸事業を行うと、家賃収入や更新料が収益として入る一方、固定資産税、不動産取得税、管理費、ローンの金利、不動産経営に関わる交通費、飲食費、そして「減価償却費」を会社の経費として計上できます。
減価償却費は、10万円以上の長期にわたって使用する資産について、購入した年に全額を経費にするのではなく、法定耐用年数に分けて少しずつ費用化していく税務上の仕組みです。不動産の場合、経年変化で価値が減少しない土地部分には適用されず、建物部分のみに減価償却が行われます。
減価償却費の最大の特徴は、実際の現金の流出(キャッシュアウト)を一切伴わずに、帳簿上の経費だけを計上できる点にあります。
手元には毎月の家賃収入がキャッシュとして蓄積されていく一方、帳簿上は多額の減価償却費を発生させられるため、実際には資金が増えているにもかかわらず「会計上の赤字」を作り出すことができます。
この不動産事業における帳簿上の赤字を本業の利益とぶつけることで、法人全体の所得を大きく減らし、支払うべき法人税を抑えることが可能になります。
新築よりも中古…経費を数年間に集中させて税金を先送りに
この会計上の赤字による節税効果は、購入する建物の構造や築年数によって変化します。
新築物件の場合、法律で定められた法定耐用年数が長く設定されています。木造であれば22年、鉄筋コンクリート(RC)造であれば47年です。期間が長いということは、1年あたりに経費化できる減価償却費の額が少額に留まり、単年度の節税効果は小さくなります。
一方で、すでに法定耐用年数を経過している「中古物件」を法人名義で購入した場合、この償却期間を大幅に短縮できます。法定耐用年数を超えた中古物件の償却期間は、木造物件であれば「4年」、RC造物件であっても「9年」にまで短縮されます。
償却期間が短いということは、数年間という短期間に毎年何百万円、あるいは1,000万円を超える多額の減価償却費を集中して計上できることを意味します。これにより、本業で発生した大きな利益を強力に相殺し、法人税を大幅に引き下げる効果が得られます。
ただし、この手法は税金を消滅させるものではなく、あくまで「利益の繰り延べ(税金の先送り)」であるという注意点があります。
減価償却が進むと、帳簿上の建物の価値(簿価)は最終的に1円まで減少します。しかし、実際の物件の資産価値は好立地の建物であれば十分に維持されています。
そのため、数年後に償却が終わった物件を売却した際、売却額のほぼ全額が法人の譲渡益(利益)となり、その期に大きな課税が課されます。
この支払いを回避するためには、物件の売却タイミングに合わせ、大きな経費が発生する予定を組んでおく「出口戦略」が不可欠です。大規模な建物の修繕、新規事業への投資、あるいは「経営者の退職金」の支給といった、まとまった損金が発生するイベントを売却の期にぶつけることで、譲渡益を相殺し、初めて完全な節税が達成されます。
物件の家賃収入が返済負担…元現金を10年で1.75倍にする融資効果
手元に現金があるにもかかわらず、あえて借入金(融資)を利用して不動産を購入するもう1つの目的は、レバレッジ(てこの原理)を用いた自己資金の増大効果にあります。
仮に、社長の手元に4,000万円の自己資金があると想定します。この4,000万円を定期預金として銀行に寝かせておいても、超低金利の環境下ではほとんどお金を増やすことはできません。
そこで、この4,000万円を自己資金(頭金)として用意し、残りの6,000万円を銀行からの融資で賄うことで、合計1億円の賃貸用物件を購入する手法を考えます。
融資の返済期間を20年とし、年間300万円の返済が必要であると仮定します。これに対し、物件から得られる毎年のネット家賃収入(管理費、支払金利、固定資産税を差し引いたあとの手残り資金)もちょうど年間300万円であるとします。
この場合、物件が生み出す家賃収入がそのまま毎年の借入返済金に充てられるため、社長自身は追加の資金を1円も負担することなく返済を進められます。
この状態を10年間継続した際の会社のバランスシート(貸借対照表)の推移を追うと、驚くべき変化が現れます。
物件が稼ぐ家賃収入によって毎年の返済が進むにつれ、負債(借入金)の残高は毎年300万円ずつ減少します。その減少した負債の分だけ、会社が所有する不動産の純資産(持ち分価値)が自動的に毎年300万円ずつ増加していきます。
10年が経過した時点では、負債は3,000万円まで減少しており、純資産部分は「7,000万円」にまで膨らんでいます。
もともとは手元の4,000万円を頭金として差し出し、10年間そのまま寝かせていただけです。しかし、家賃収入が勝手に借入金を返済してくれた結果、自己資金の価値は4,000万円から7,000万円へと、実に「1.75倍」に増大したことになります。
不動産価格の下落を懸念する声もありますが、株式やリートといった金融商品と比較すると、現物不動産の価格変動は緩やかです。世界的な株価大暴落を引き起こしたリーマンショックの際、株価は半値近くまで激しく下落した一方、東京都内のマンション価格の下落は20%程度に留まりました。
今回の例では、10年後に物件の市場価値が30%下落して7,000万円になっていたとしても、負債が3,000万円まで減っているため、売却して手元に残る資金は4,000万円となり、頭金として支払った元本をそのまま回収できます。それ以上の下落が起きない限り、投資としては確実に手残りがプラスとなる安全性の高い設計です。
経営難の際のリスクヘッジにも…会社を物理的に保護する「2段構えの保険機能」
あえて借金をして不動産を所有しておくことは、本業の業績が悪化した際の会社を守る強力な防衛手段、すなわち「2段構えの保険」としても機能します。
1段目の保険機能は、本業で巨額の赤字が発生した際の「売却によるキャッシュ確保」です。本業の売上が急減し、会社が深刻な資金難に陥った際、償却が終わった1億円の所有物件を売却します。
帳簿上は建物の価値が1円まで償却されているため、売却額の1億円は全額が法人の売却益(利益)として計上されます。通常であれば多額の法人税が課されますが、この売却益を本業の赤字とぶつけて相殺することにより、税負担をほぼ0円に抑えることができます。結果として、1億円という巨額のキャッシュがそのまま無税で会社の手元に残り、本業を立て直すための運転資金として活用できます。
2段目の保険機能は、物件を売却せずに保有し続けることで得られる「安定した家賃収入」です。不動産市場は景気変動の波を受けるスピードが遅いという特性があります。
突発的な不景気によって本業の売上が激減し、株式市場が暴落するような事態が起きても、すでに入居しているテナントや入居者の家賃が翌月から急激に下がることはありません。本業の資金繰りが苦しい局面において、毎月入金される安定した家賃収入は、会社の存続を支える命綱となります。
本業が好調な時期には「会計上の赤字」を生み出して法人税を抑え、本業が危機に瀕した際には「家賃収入」と「売却益の無税回収」によって会社を物理的に保護します。この完璧な防衛体制を構築できることこそが、手元にキャッシュがある優秀な社長が、あえて借金をして不動産を買い求める真の理由です。
黒瀧 泰介
税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

