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東京・渋谷区の明治通りで12日夜、自転車に乗っていた男性が、前方に駐車していた車のドアが開いたところに衝突して転倒し、後続のタクシーにひかれて死亡したと報じられました。

報道によると、自転車の前方に止まっていた乗用車から、58歳の男性がハザードランプを点けて降りようとし、運転席側のドアを開けたところ、自転車はそのドアに衝突して転倒し、後続のタクシーにはねられたとされています。

現場は駐車が禁止されている区域でした。警視庁原宿署は、自動車を降りようとした男性の後方確認が不十分だったとみて調べています。

ネットでは「自動車のドアを開けた人は何の罪が問われるのでしょうか?殺人未遂罪を適用して欲しい」といった声もあがっています。

男性が死亡したことについての法的責任は、駐車していた車のドアを開けた男性が負うのでしょうか、それとも男性をひいたタクシーの運転手が負うのでしょうか。簡単に解説します。

●ドアを開けただけなら、反則金6000円で終わり?

ドアを開けただけで事故にならなければ、反則金を納めることで刑事手続は終わります。普通車で6000円、違反点数は1点です(道路交通法71条4号の3)。

しかし、交通事故になってしまった場合は、反則金で終わりにすることはできず(同法125条2項3号)、通常の刑事事件として捜査されることになります。

●直接ひいたのは後続のタクシーだが、それでも責任を問われる?

ドアをぶつけはしたものの、死亡させたのは後続車ではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、過失により人を車道に転倒させた場合、被害者が後続車にひかれて死亡した結果についても責任を負わされることがあります。

過去の判例では、以下のようなケースがあります(最決昭和47年(1972年)4月21日)。

運転者が不注意で歩行者をはねて対向車線に転倒させ、そのまま立ち去りました。

転倒した女性は、間もなく対向車線を走ってきた車にひかれて死亡しました。

最高裁は、最初にはねた運転者の過失と死亡との因果関係を認め、業務上過失致死罪の成立を認めました。

交通量のある道路に人を倒せば、後続車にひかれることは十分ありうるため、倒した人は責任を負うべきである、という考え方です。

●どんな罪になる?

ネット上には「殺人未遂罪では」という声もありました。今回の事件では被害者が亡くなられているため、殺人既遂罪として検討します。

気持ちとしては分かるのですが、殺人罪(刑法199条)は故意犯であり、殺意(人の死亡結果などについての認識・認容)がない場合には成立しません。

本件のようなケースで、ドアを開けるときには、自転車が近づいてきているかどうか認識せずに、うっかり開けてしまったと考えられるため、殺人罪は成立しません。

車の事故で人が死亡したときによく出てくる罪は、「過失運転致死罪」(自動車運転処罰法5条、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)です。

ただ、この罪は「自動車の運転上必要な注意」を怠った場合にしか適用されません。これにあたらない場合には、刑法の業務上過失致死罪(211条前段。5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)にあたるかが問題となります。

両罪の区別は、簡単にいえば、車を走らせている一連の動きの中での過失か、走り終えたあとの過失か、です。たとえば、信号待ちや渋滞で止まっている間にドアを開けたのなら、運転は続いているので過失運転致死傷罪が適用されます。

何のために止めたか、止めてからどれくらい経ったか、などの事情が総合的に考慮されます。

今回の事件では、58歳の男性が何のために車を止め、どれくらい経ってからドアを開けたのかが報じられていません。今後の捜査で明らかになるでしょう。

●なぜ、刑はそれほど重くならないのか

ネット上には、「ドアを開けた方の罪が軽いのが1番解せません」「この運転手は相応の罰則を受けて欲しい」といったコメントもみられます。

飲酒や無免許運転ではない過失の死亡事故では、有罪となっても執行猶予がつくことが多く、実刑になる例は多くありません。

犯罪白書(令和7年度版)によれば、過失運転致死で判決を受けた者のうち、実刑の割合は4.7%とのことです。

刑が重くならないのはドアを開けた事故に限らず、過失で人を死亡させた事件全体の傾向です。

ドアを開ける動作は何の気なしにやってしまいそうなものですが、失われたのは人の生命です。行為の軽さと結果の重さが釣り合っていないように感じられます。

こうした過失の事件は、故意に人を殺した場合(死刑または無期もしくは5年以上の拘禁刑)と比べて、法定刑の上限がずっと低く定められています。罰金で済ませる選択肢も用意されています。

その理由は、犯罪が原則として故意犯(あえてその行為を行った場合)を処罰するもので、過失犯の処罰は例外とされていることにあるように思います。

●法改正の議論は今も続いている

この点はこれまでも繰り返し議論され、そのたびに刑は重くなってきました。

2001年には危険運転致死傷罪が作られ、2007年には自動車事故の過失犯が業務上過失致死傷罪から独立して、上限が7年に引き上げられています。

2013年にはこれらをまとめた自動車運転処罰法ができ、2020年にはあおり運転の類型が加わりました。

ただし、重くすればよいというものでもありません。もともと過失として処罰していた行為に故意犯の規定を作ることには、慎重であるべきだという議論もあります。

重大な結果を招いた過失をどこまで重く罰するべきか。その議論はいまも続いています。

小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)