shela「もう一生歌うことはないと思っていた」デビュー25周年も、その大半は“空白”…十数年ぶりに歌うきっかけとなった「5ちゃんねるの書き込み」
平成のJ-POPシーンを鮮やかに駆け抜けた歌姫・shela。デビュー25周年を記念して、今年の10月に初のアコースティックライブに挑戦する。2日間のチケットは発売すると即日完売。今も根強いファンがいる彼女だが、その歩みの大半は、歌の世界から完全に離れた「空白」の期間だ。(前後編の後編)
【画像】人気は健在!ライブハウスを埋め尽くすshelaのファン
完璧主義という名の呪縛
shelaは結婚・出産を機に第一線から身を引き、札幌からも遠く離れた北海道の静かな田舎町へと移り住んだ。一人の母親として、家事と子育てに専念する日常には、かつてファンを熱狂させた「shela」の名前を呼ばれる機会など、どこにも存在しなかった。
「もう一生歌うことはないだろうと、自分の気持ちを押し殺して、気持ちに蓋をしていました」
そんな日常が2022年、突如動き出す。
きっかけは5ちゃんねる上の「なりすまし投稿」だった。《プロデューサーとよく揉めた》《shelaって名前で昔歌手やってた》など自分ではない誰かが、事実無根の話をする――その事態に戸惑うshelaの姿を見た25年来の友人・河村さんが「本物の歌を届けようよ」と、YouTube動画の制作を持ちかけたのだ。
その動画で十数年ぶりに歌ったのは、まずは3曲。それは「復活」に向けた壮大な計画ではなく、「かつて応援してくれた人に届きさえすればいい」という、純粋なメッセージだった。
公開後、ファンから「また歌ってほしい」「ライブがあったら絶対に行きたい」と反響が寄せられる。しかし、彼女の心は揺れた。
「私はまだ歌手として通用するのかな? ファンの方が想像しているshelaって…? 不完全な姿を見せて幻滅されたくない。その完璧主義が、自分の中で邪魔をしていました」
歌を届けたいという願いの裏で、shelaは「再始動できない理由」を心のどこかで探していた。十数年という空白がもたらした心の壁は、それほどまでに厚く高かった。
「謎の金髪少女」の仮面を剥がした、夕張メロンチョコの温もり
1999年のデビュー当時、彼女のプロモーションはミステリアスなベールに包まれていた。容姿や肩書きの設定はあったものの、具体的なストーリーはなく、メディアの取材を受けても、彼女自身が「その成り立ち」を語ることはなかった。
「当時はプロフィールが非公開ということもあり、聞かれても答えられないことが多くて……。それが、周りから『しゃべりづらい子』と誤解されてしまう原因になっていたんだと思います」
これまで多くのアーティストのライブやイベントに携わってきた河村さんは、そんな当時の彼女との出会いを温かい眼差しで証言する。
「周りから『めちゃくちゃ取材しにくい子』と聞いて会いに行ったんですよ。そうしたらshelaは、『札幌の空港で買ったんだけど、これ大好きで――』って、夕張メロンのチョコレートをお土産にくれたんです。しゃべりづらい子なんかじゃなくて、とにかく素直で温かい、内面は北海道生まれの道産子(素朴)な女の子だったですよね」
作られた仮面の裏側には、周囲を惹きつけてやまない、等身大で飾り気のない彼女がいた。だからこそ、四半世紀が経った今も、かつての仲間たちが彼女の周りに自然と集まり、ノーギャラ同然でも彼女のステージを支えようと駆けつけてくれるのだ。
「私の25周年じゃない。これはファンの25周年」
再び人前に立つ道を探りながらも、shelaは葛藤を拭えずにいた。
「ずっと第一線で歌い続けてきたわけではない自分が、25周年という言葉を掲げていいのかなって、ずっと申し訳ない感覚もあって。
でも私を支えてくれている友人たちが、『shelaの25周年じゃなくて、ファンの25周年だよ』と言ってくれて。今の時代になっても当時の思い出を大切に抱きしめてくれているファンがいる。その人たちのために感謝の気持ちを伝えたいなって思ったんです」
その真意はYouTubeのコメント欄に詰まっている。公開から4年が経った今も増え続け、コメントは1500件を超えている。そこには、「あの頃救われた」「変わらない歌声を聞いて涙が止まらない」という、ファンの愛が溢れていた。
「こんなにも待っていてくれる人がいる。その現実を知った時、もうやれない言い訳を探している場合じゃない、この人たちの声に全力で応えたいと思えました。本当に幸せなことだと思えました」
取材中、河村さんはYouTube動画の制作について涙ぐみながらこう語った。
「……本当にファンの人たちのためにやって良かった。こんなにもshelaの歌声を待ってくれてる人がいる。歌うことをやめてしまった彼女が、もう一回歌ってくれて、ファンが喜んでくれて、もうそれだけで本当にやって良かったって」
新しい挑戦とこれからに意欲
shelaを囲む多くの人に背中を押されて、shelaは再び新しい歌の道を歩み始めている。
10月に控える初のアコースティックライブは、これまでにない初の試み。緊張はしているものの、表情に迷いはない。
「こうしてもう一度歌える機会をいただけて、今は嬉しくてしょうがない。名古屋公演の後に予定されていた大阪と東京公演は中止になってしまって、楽しみにしていたファンの皆さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだったので。
それでも待っていてくれたファンの皆さんのために、今の私ができる精一杯の歌を届けたい。楽しみにしていてください」
かつて歌ったあの名曲『月と太陽』のように、十数年という暗い闇の夜空に沈んでいた彼女を照らし出し、再び輝かせてくれたのは、温かい太陽のようなファンの声、そして仲間たちの存在だった。照らされた月は今、満ちていく光をその胸に抱きながら、再びステージという夜空を優しく、美しく照らし始める。
取材・文/佐々木一城
(写真/本人提供)
