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福岡県議会の金銭授受疑惑を巡り、福岡県議会の議長だった蔵内勇夫氏が議員を辞職しました。

疑惑を告発した吉松源昭県議は、2020年の議長就任前に自民党県議団の幹部から繰り返し現金を求められ、ゴルフや料亭の費用など約2000万円を支払ったと主張。「カツアゲのようなもの」と訴えています。

蔵内氏は疑惑を否定していますが、「カツアゲ」疑惑について、今後刑事事件として立件される可能性はあるのでしょうか。簡単に解説します。

●「カツアゲ」なら恐喝罪、ポストの見返りなら賄賂

報道によると、吉松氏は「『議長になりたいからよろしく』と言ったわけでなく、『出世コースから外れたくなかったら払え』という雰囲気」「カツアゲされたようなもの」などと述べています。

幹部が「払わなければ出世コースから外す」と脅して現金を出させたのなら、恐喝罪(刑法249条、行為当時は10年以下の懲役)にあたります。

ただ、恐喝罪には、相手を怖がらせる害悪の告知が必要です。吉松氏自身が「雰囲気」と言うとおり、「外す」と告げられたという証言はありません。

断れば議長に推してもらえないという不利益は、幹部がどの候補を推すかという自由の裏返しでもあり、恐喝の害悪と評価するのは簡単ではありません。

もう一つの見方が賄賂です。議長は、議会が議員の中から選挙で決めます(地方自治法103条1項)。誰に投票するかは議員の職務です。

その見返りに金銭を受け取れば収賄罪(刑法197条1項、行為当時は5年以下の懲役)です。

金銭を渡した側は贈賄罪(刑法198条、行為当時は3年以下の懲役または250万円以下の罰金)になります。

最高裁も、会派の中で議長候補を選ぶ行為を議員の職務に密接な行為だと判断し、賄賂に関する罪の成立を認めています(最決昭和60年(1985年)6月11日)。

幹部5人が会派の議長候補を事実上決め、投票を取りまとめる立場だったのなら、この判例の射程に含まれ、収賄罪が成立する可能性があります。

恐喝と賄賂は、両方成立する可能性があります。幹部に実際に投票する意思があったのなら、脅して出させた場合でも収賄罪は成立し、恐喝罪と両方が成立すると解されています。

この場合は「観念的競合」といって、重い恐喝罪で処断されることになります(刑法54条1項前段)。

払った側も、断る余地が少しでも残っていれば贈賄罪になるというのが判例の立場です。「カツアゲ」と言っても、吉松氏が法律上の被害者と扱われるとは限りません。

もっとも、幹部側は金銭の受け取りを否定しています。金銭が渡ったかどうかの認定は、これから始まる第三者委員会の調査に委ねられています。

●なぜ誰も逮捕されないのか

今回問題となっている金銭の受け取りは、2020年ころのものであるため、公訴時効にかかっている可能性が高いといえます。

公訴時効は、収賄罪が5年、贈賄罪が3年、恐喝罪が7年です(刑事訴訟法250条2項)。2020年4月の料亭での「お車代」を基準にしても、収賄罪は2025年4月、贈賄罪は2023年4月に時効が完成しています。

恐喝罪だけは2027年4月まで残ります。ただ、先に述べたとおり成立のハードルが高い罪です。

なお、収賄に「不正な行為」が加わった加重収賄罪(刑法197条の3)なら時効は10年です。ただ、議長選挙で誰かに投票することを不正な行為と認めた裁判例は見当たらず、ハードルは非常に高いといえます。

つまり、成立しやすい罪は時効となってしまっており、時効となっていない罪については成立を認めるのが難しいのです。現時点で誰も逮捕されていないのは、このような事情からと思われます。

もちろん、時効だからといっても、刑事裁判にかけられなくなるだけであって、金銭の授受があったかどうかという事実や、政治家としての責任が消えるわけではありません。

●辞めれば終わり? 第三者委員会と百条委員会の違い

県議会は8月17日、第三者委員会を設けて調べることを決めました。地方自治法100条の2に基づく調査で、外部の専門家が事実関係を調べます。

ただし、出頭や証言を強制する権限はなく、嘘をついても罰則はありません。県議を辞めた蔵内氏や中尾氏が協力するかどうかは、本人次第です。

強い調査権限を持つのは、いわゆる百条委員会です。地方自治法100条に基づく調査では、議会は「選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる」と定められています。

正当な理由なく拒めば6カ月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金、宣誓したうえで嘘をつけば3カ月以上5年以下の拘禁刑です。

「関係人」には元議員も含まれますから、辞職しても逃げ切れません。

百条委員会を設けるには議会の議決が必要です。最大会派は、名指しされた5人のうち3人が今も所属する自民党県議団です。

「司法はとことんいってほしい」という声はもっともだと思います。

ただ、時効の壁がある以上、警察検察が真相を明らかにする場面は、もう来ないかもしれません。

残る手段は、政治的な責任追及です。たとえば、第三者委員会の調査で明らかにならない部分が出てきた場合には、百条委員会などによってきちんと検証することが望まれるでしょう。

任意の第三者委員会で済ませるのか、証言義務と偽証の罰則がある百条委員会まで踏み込むのか。

9月9日に選ばれた大島道人新議長のもとでどのような判断が下されるのか注目されます。

小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士