OpenAIが「ナビエ・ストークス方程式」に関する難問の解決策を発見したことを2026年9月8日に発表しました。一方で、Anthropicやニューヨーク大学に所属する数学者らの成果を流用した疑いも生じています。

On the Navier-Stokes Millennium Prize Problem | OpenAI

https://openai.com/index/navier-stokes-solution/

ナビエ・ストークス方程式は流体力学で用いられる方程式で、気圧や風の挙動を予測する気象予報システムなどで役立てられています。しかし、3次元の非圧縮性ナビエ・ストークス方程式について、滑らかな初期条件から出発した解が常に滑らかなまま存在し続けるのか、それとも有限時間で特異点が生じるのかが未解決で、数学の難問に100万ドル(約1億5000万円)の懸賞金をかけるミレニアム懸賞問題の1つとなっています。

OpenAIの発表によると、「GPT-6 Astraよりはるかに高性能な内部モデルを用いたマルチAIエージェントシステム」を用いてナビエ・ストークス問題の解決につながる証明を得たとのこと。すでにLeanを用いた形式化も完了しているそうです。



今回の証明過程では、AIエージェントが270万件のメッセージを送信し、約1300億個のトークンが出力されました。OpenAIの研究者であるノーム・ブラウン氏は証明に費やしたコストが数百万ドル(数億円)に達したことを認めつつ「OpenAI o3の発表当時、ARC-AGI-1で87.5%のスコアを出すのに約50万ドル(約7500万円)を費やしたが、現在では約20ドル(約3000円)でそれ以上のスコアを出せる。2025年の国際数学オリンピックで金メダルを獲得する際にも膨大な計算リソースを費やしたが、2026年の国際数学オリンピックでは月額20ドルのサブスク加入者なら誰でも金メダルを取れるだろう。テスト時の計算リソースを大幅にスケールアップすることで私たちは未来の一端を垣間見た。私は1年後にはナビエ・ストークス方程式と同等の問題を解決できるAIに誰もがアクセスできるようになると信じている」と述べています。





上述の通り、OpenAIはAIエージェントシステムによってナビエ・ストークス方程式の問題を解決したと主張しています。しかし、OpenAIが発表より前に「Anthropicに所属するレベント・アルポゲ氏とニューヨーク大学に所属するトリスタン・バックマスター氏がナビエ・ストークス方程式の解決に近づいている」という情報を得ていたことが判明しました。

バックマスター氏が公開した声明文によると、両氏はClaudeやCodexを用いてナビエ・ストークス方程式を含む複数の難問の解決に取り組んでいたとのこと。2026年9月3日にバックマスター氏は「Anthropicが数学の未解決問題を解決したというウワサが広まっている」「両氏の研究進行状況がOpenAIに知られた」という情報を得たことを受けて、OpenAIの数学研究者に対して連絡を取りました。その結果、競合を避けるための話し合いの場が設けられたとのこと。話し合いの中で「OpenAIがナビエ・ストークス方程式に関するプロンプトを送信したのは、両氏の研究に関する情報を得た後だった」ということが判明したそうです。また、バックマスター氏は自身が使用していたCodexのセッション情報が学習に使われたのかを問いましたが、「モデルはユーザーデータを参照しない」という回答は得られたものの学習の有無については回答を得られなかったそうです。

statement.pdf

(PDFファイル)https://cims.nyu.edu/~tristanb/statement.pdf



バックマスター氏の声明を受けてOpenAIは「OpenAIの研究員とAIエージェントは、両氏の研究成果を参照しておらず、ナビエ・ストークス方程式の問題を解決するために特定のユーザーデータにアクセスしたこともない」と述べて両氏の成果の流用を否定しつつ、「可能性は低いものの、両氏がOpenAI製品を使用したことに由来する匿名データがモデルの改善に寄与した可能性を完全に排除することはできない」とも述べました。





アルポゲ氏は「可能性を完全に排除することはできない」ということをOpenAIが認めたことに敬意を表するとコメントしつつ、「廊下で『アルポゲ氏が論文の著者から外れればミレニアム賞は我々のもの』という会話を聞いたとき、運命が決まったのが明確となった」と述べ、AnthropicとOpenAIの協力が実現しなかったことに失意を表しています。





一方でOpenAIのセバスチャン・ブーベック氏はアルポゲ氏とのメッセージのスクリーンショットを投稿して「アルポゲ氏に論文の著者から外れるように求めたことはない」「アルポゲ氏にミーティングへの出席を何度も求めたが、アルポゲ氏は拒否した」と主張しています。