言語化力を鍛えるには何をすればいいか。起業家の川岸宏司さんは「日常会話の中にこそ、言語化力を鍛える最良の素材が転がっているのに、発しっぱなしで終わっていてはいけない。そのため私は言語化力を鍛えるために、寝る前の3分間、スマホのメモ帳1つを使ってやっていることがある」という--。

※本稿は、川岸宏司『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

■退屈な見出しを「別の生き物」に変える

「読書のすすめ」

もしnoteやブログにこんなタイトルの記事があったら、あなたは読みますか?

おそらく読まないと思います。退屈な内容が、タイトルから滲み出ているからです。

では、こう書き換えたらどうでしょう。

「年間300冊読んで気づいた。人生を変えた本は、たった3冊だった」

ちょっとだけ、読みたくなりませんか? 伝えたいのは同じ「読書のすすめ」ですが、見出しを変えただけで、一気に興味を惹かれます。

見出しは、言葉の玄関です。どれだけ中身が素晴らしくても、玄関で「ここはいいや」と帰られたら、その先は永遠に届きません。

逆に、見出し1つで同じ内容がまったく別の届き方をするとも言えます。

一方で、この書き換える力は、センスではなく筋トレで身につくとも思っています。

私はこれを「見出し書き換えゲーム」と呼んでいるのですが、ルールはひとつだけ。

退屈な1文を見つけたら、3通りに書き換える。実際にやってみます。

「営業成績が伸びた」

1「先月断られた会社から、指名でリピートが来た」
2「朝礼で名前を呼ばれた瞬間、手が震えた」
3「営業は数字じゃなくて、信頼の積立貯金だと思う」

1本目は、抽象を具体に落としました。

2本目は、結果を身体の反応に。3本目は、事実を再定義してみました。

同じ「営業成績が伸びた」なのに、刺さる相手がそれぞれ違うのがわかりますか?

1本目は営業マネージャーに刺さる。2本目は新人営業に刺さる。3本目は、営業という仕事そのものに迷っている人に刺さる。

見出しを書き換えるとは、「誰に届けるか」を選び直す行為ではないでしょうか。

■退屈な1文を3通りに書き換える

もうひとつ試してみます。

「子育ては大変だ」

1「ママがスマホを見てる。ぼくのことは見ていない」
2「寝かしつけに2時間。でも寝顔を見て、全部チャラになる不思議」
3「10年後、この大変さを『懐かしい』と言う自分がきっといる」

1本目は主語を親から子供に。2本目は大変さの中にある感情の反転を。3本目は時間軸を未来に飛ばしてみました。

どれも「子育ては大変だ」という同じ事実を語っています。

でも読む人の心の動き方がまるで違いますよね。

主語、感情、時間。この3つを動かすだけで、見出しは別の生き物になります。

ここの書き換えのパターンにはいくつかの「型」があります。

具体に落とす

「仕事がうまくいった」を「提案書を出した翌日、先方から電話が来た」に変える。

数字、固有名詞、五感。具体の素材を混ぜると、見出しに映像が宿ります。

抽象度を上げる

「仕事がうまくいった」を「準備は、運を引き寄せる唯一の方法だった」に変える。

個人の体験を、誰にでも当てはまる教訓に昇華させます。

主語を変える

自分目線を、相手目線に。大人の目線を、子供の目線に。勝者の目線を、敗者の目線に。同じ風景でも、立っている場所が変わるだけで、まったく別の物語が始まります。

時間を動かす

今の話を過去に戻す。未来に飛ばす。「3年前の自分がこれを聞いたら」「10年後に振り返ったとき」。時間を混ぜると、見出しに奥行きが生まれます。

■書き換えには「型」がある

型を知っておくと、書き換えの速度は上がります。

ただし、意識しすぎると機械的になってしまうので「これ、もっといい言い方ないかな」という感覚のまま手を動かすことを大事にしてください。

そして、先ほど伝えた「書き換えは最低3本」には、意味があります。

1本目は反射。頭に最初に浮かんだものをそのまま書く。

2本目は工夫。少しひねってみる。

3本目で初めて「発見」が起き、自分でも予想しなかった角度が出てくる。

この3本目にこそ、価値があると思っています。

電車の中吊り広告、ニュースアプリの見出し、SNSで流れてきた投稿。

「この見出し、自分ならどう書く?」と考える癖をつけてください。

写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

これを1カ月も続ければ、最初から「複数の角度」で物事が見えるようになっていき、言葉の引き出しが確実に変わります。

見出し1つで、人は読むか読まないかを決めます。

同じ事実を何通りの言葉で語れるか。

その引き出しの数が、あなたの言葉の射程距離です。

■寝る前3分の「1人反省会」

突然ですが、昨日あなたが発した言葉の中で「一番うまく言えた」と思う一言を、思い出してみてください。

……そう言われても、すぐには出てこないのではないでしょうか。

では、「あの言い方はまずかった」と思う一言はどうでしょうか?

こちらのほうが浮かびやすいかもしれません。

人は成功体験は忘れるのに、失敗体験はこびりつく。

それなのに、ほとんどの人は自分が発した言葉を振り返りません。

アスリートは試合映像を見返す。ミュージシャンは自分の演奏を録音して聴き直す。

プロの世界では「自分のアウトプットを検証する」のが当たり前なのに、なぜか「言葉」だけは、発しっぱなしで終わっている。

これが非常にもったいないと思っています。

なぜなら日常会話の中にこそ、言語化力を鍛える最良の素材が転がっているから。会議での一言、LINEの返信、部下への指示、子供への声かけ。

毎日何百もの言葉を発しているのに、ほぼ全員が使い捨てにしています。

私が毎晩やっている習慣があります。

それは「寝る前の3分間、1人で反省会をする」ということです。

大げさなものではありません。

今日の会話を思い出して「あの一言、もっとこう言えたな」と考えるだけ。

使うのはスマホのメモ帳1つで、時間は3分。

写真=iStock.com/Gerardo Huitrón
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Gerardo Huitrón

■「効いた一言」と「滑った一言」を拾う

まず、今日1日を頭の中で巻き戻します。

朝の挨拶、ランチの会話、午後の会議、帰り際のやりとり。

ぼんやりでいいので、場面を思い浮かべてください。

その中から「効いたな」と感じた自分の一言を拾います。

相手の表情が変わった瞬間、会話の空気が動いた瞬間。些細なもので構いません。「あっ、あのとき課長がちょっと笑ったな」くらいで十分です。

見つけたら、メモに書く。そして、なぜ効いたのかを1行で添えます。

・「新しい案件ですが、鈴木さんに任せたいと思ってます」
→名前を出して「任せたい」と言い切ったのが効いた。期待を言語化したことで、相手の顔が変わった。

次に「滑ったな」と感じた一言を拾います。

相手の反応が薄かった場面、微妙な沈黙が生まれた場面などです。

・「この件、早めにお願いします」
→「早め」が曖昧すぎた。相手の顔に「いつまでですか?」と書いてあった。

最後に、その「滑った一言」を書き換えます。

・「この件、早めにお願いします」
→「金曜の午前中までに初稿をいただけると、週明けの会議に間に合います」

「早め」を「金曜の午前中」に具体化して、「お願いします」を「間に合います」に変えた。主語が「私の要望」から「あなたの仕事が活きる場面」にすり替わっています。

ここまでで3分。

大事なのは「効いた一言」と「滑った一言」の両方を拾うことです。

失敗だけを見ると自己嫌悪になりますが、成功だけを見ると成長が止まります。

両方を並べて初めて、自分の言葉の癖が浮き上がってきます。

■滑った一言の8割は主語が「自分」

これを1カ月続けて、私はあることに気づきました。

それは「滑った」言葉には、ほぼ必ず共通点があるということです。

主語が「私」になっている。

つまり、自分の都合、自分の要望、自分の感情が起点になっているということ。

逆に「効いた」言葉は、主語が相手に寄っている。相手の状況、相手のメリット、相手の感情が起点になっています。

つまり、滑る言葉の大半は「自分が言いたいこと」を起点にしていて、効いた言葉は「相手が受け取りたいこと」を起点にしている。この構造が、反省会のメモを見返すだけで浮かび上がりました。滑った一言の8割は、主語が自分でした。

この事実を突きつけられると、翌日から言葉の組み立て方が変わります。

この「1人反省会」を続けるコツは、3分を超えないこと。

3分なら歯磨きの延長線上にあります。

メモも完璧な文章にする必要はありません。単語と矢印だけで十分。

■1人でやるから意味がある

もうひとつ、大事なことがあります。

それは、この反省会は、1人でやるから意味があるということです。

川岸宏司『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和出版)

他人に見せる前提で書くと、無意識に自分をよく見せたくなって「あのとき、ちゃんと言えた」と記憶を美化してしまうからです。

正直さが失われた瞬間、振り返りの価値はゼロになります。

スマホのメモ帳を開いて、誰にも見せない前提で、正直に振り返ってください。「あの一言、最悪だったな」と書ける環境こそが、言語化力を一番伸ばします。

今日の寝る前から、始めてみてください。

----------
川岸 宏司(かわぎし・こうじ)
株式会社DIL 共同創業者
読書と言語化が大好きな経営者。学歴なし・月収14万円から1冊の自己啓発書との出会いをきっかけに、本でビジネススキルを学ぶ。現在は、株式会社DILを含む複数の会社を経営し、各種SNS顧問・デザイン・書籍プロデュースの業務を担う。2020年開始のXでは読書術・言語化術を発信し、5年で10万フォロワーを突破。著書に『1%読書術』(KADOKAWA)、『耳を鍛えて4倍速読』(ダイヤモンド社)、『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和出版) がある。
----------

(株式会社DIL 共同創業者 川岸 宏司)