ニャンちゅう声優がALS告知直前に指摘された「肝臓と膵臓の間にあるべきでないもの」の存在

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体調が悪い時に一番不安なのが「原因がわからない」ことではないだろうか。

2019年3月、直前まで舞台で走り回っていたにもかかわらず突然大きく転び、歩くことが困難になった声優津久井教生さんは、その原因をつきとめるまでに半年の月日を要した。原因は指定難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患したことだった。

難病だということに衝撃を受けながらも、「理由がわかってよかった」と今をできるだけ笑顔でいられるように工夫して生きている。

その様子を、最初は手で、手が上がらなくなったら割り箸を口にくわえて一文字ずつ打ち込んで、それもできなくなったら視線入力で執筆し続けた60万字の原稿を大幅に加筆修正し、『ALSと笑顔で生きる。 声を失った声優の「工夫ファクトリー」』にまとめている。

「生きる力をもらった」「こちらが励まされた」「夫婦の姿に感動した」と多くの声が寄せられ、Amazonの闘病ランキングなどでも1位を獲得(2026年3月27日他)した本書から抜粋にてご紹介する第7回は、ALSと告知を受けた直前の話。

病名がわかりそうなときに新たに見つかった「障害」とは。

肝臓と膵臓の間にあるもの

2019年9月上旬のこと。名なしの権兵衛病を探るために検査入院をしていた時に、主治医の先生から「ちょっとお話があります」と妻と別室に呼び出されたことがありました。ちょうど造影剤を入れてMRIを撮った後だったので、病名について何かわかったのかなと思いました。

個室に入ると主治医は真面目な顔で話し始めました。「これが肺の下から、肝臓、膵臓の断面図になります」へえ、こんな感じになっているんだなあ、とだけ思いながらその断面図を見ていました。すると主治医の先生はこう続けたのです。

「この肝臓と膵臓の間に、本来あるべきでないものがあるのです」

「あるべきでないものがある」? どういうことなのか、一瞬わかりませんでした。「もう一度断面図を見てもらうと、ここからここまで塊があります。これは腫瘍です。それもかなり大きめで10センチ、握り拳大くらいあります。そこそこ大きい部類です、今まで何か違和感はありませんでしたか?」

違和感は全然ありませんでした。「全然、ありませんでした。こんなに大きければ何か違和感があるはずですよね?」こう答えると、医師は言います。

「いえ、腫瘍には色々なタイプがあって自覚がない方が多いとも言えます」

ではもしかしたらこの腫瘍が歩けなくなってきた原因なのでしょうか。すぐに「あっ、これが足の違和感の原因ですか?」と尋ねました。

しかし、「そう思って調べてみたのですが、今回の原因ではないようです」と言います。さらに医師は衝撃的なことを口にしました。「たしかに今回のことには関連していませんが、今後においては大きな問題と言えます。4センチ以上の腫瘍があると、どのような病気の治療に関しても弊害になりうるからです」

原因不明の腫瘍の問題点

原因不明の腫瘍があると、何が起こるかわからないため、治療や治験が受けられない可能性が高いということなのです。つまり、いまは病名を必死に探しているところだけれど、もし病名が判明しても腫瘍をどうにかしないと前に進めないことがわかったのでした。しかも、10センチを超える大きさだったのですから。

腫瘍の名前は「副腎骨髄脂肪腫」。この名前が告げられたのは、ALSの病名を告げられたのとほぼ同時期でした。幸いにも、脂肪と骨髄組織から構成される内分泌非活性の良性腫瘍であると考えられるとのこと。ただし、今後腹部内で自然破裂して出血する可能性があるので、手術して摘出するのが望ましいという話でした。

また、この大きさだと腹腔鏡手術はできず、開腹手術になると告げられました。握り拳大の腫瘍を摘出する手術なので、大掛かりなものかと思っていたのですが、泌尿器科の主治医の方や神経内科のALSの担当主治医の方の反応は意外なものでした。

手術後はお腹がスッキリしますよ

神経内科の主治医は「泌尿器科の執刀医は良い腕をしているから手術後はお腹がスッキリしますよ」とクールに私に告げました。もちろん開腹してみないと何ともいえないが、肝臓と膵臓と腸の間に少しだけくっついて綺麗にはまり込んでいるようだ。副腎とは完全に癒着しているので右側の副腎は摘出することになるが、片方取っても大丈夫。そう言われました。

主治医は手術の段取りについてこう説明してくれました。

「全身麻酔で眠っている間に腹部をみぞおちから脇腹まで横隔膜とあばら骨に沿って15センチ以上切って、腹膜をはがして腸をどけて腫瘍の状態をここで初めて確認します。このとき静脈に接していれば慎重に離して、その他の部分も腫瘍の状態を見ながら徹底的にはがします。癒着していたら出血に注意を払いながらはがします。他の臓器との関連で合併切除もありますので、専門のドクターにも当日手術に立ち会ってもらいます。予定時間は5時間くらいです」

5時間かかるこのレベルの手術が「ごく普通の手術」だそうです。外科医の方たちってすごぉ~~い!

ALS患者にとってのリスク

腫瘍の種類や手術についての説明はよくわかりました。次はリスクの説明です。この頃には私の病名がALSだと判明していました。この手術において、ALS患者であり、そして声優という仕事をしている私にどんなリスクがあるのか?

まずはALSゆえ、手術時に人工呼吸器をつけた後に、外せる状態に戻ってこられるか? という心配がありました。心肺機能をしっかりと調べて問題がない想定となっていますが、呼吸器系にも症状が出る疾患でもあるALSの場合、手術後に心肺機能が下がって人工呼吸器が外せなくなることがないとも言えないのです。

さらにこのとき、私にはALSの影響で歩行困難と右手の違和感の症状が出ていました。手術後2週間のベッド生活だと、現状以上の筋力低下が見込まれます。「人間の体的には大手術なので、リハビリに関してはご本人の頑張りと術後の傷口の経過をしっかりと見ていかなければなりません。できれば術後早めにリハビリを開始できるのが理想です」と言われました。

この手術でALSの病状進行が緩和される可能性も、早まる可能性もあります。いずれにせよ手術における体へのダメージは確実にあるので、若干進行するリスクがあるようです。

なにより気になるのが、「声優である私」にとってのリスクです。なるべく気をつけるが、手術で人工呼吸器を装着するときや外すときに、声帯が傷つく可能性があるということを聞きました。いずれにしても声帯を広げることにはなるので、若干の影響はあると想定できます。

「腹部をみぞおちから脇腹まで横隔膜とあばら骨に沿って15センチ以上切る」ということは、腹斜筋が切られるので、手術後は右側の腹筋がなくなります。左右の腹筋のバランスが悪くなることが見込まれますし、腹筋を使う発声に影響する可能性があります。そして極めつきは、開腹してみて腫瘍の悪性の部分が見つかる可能性もあることです。結構リスクがあるじゃないか、そう思いました。でも手術をしないと腫瘍の破裂の可能性があるため、ALSの治療や治験を受けることができないのです。

◇後編「ALS治療や声優としてのリスクが…ニャンちゅう声優が振り返る「腫瘍の切除手術」受けるか否かの決断」では手術のリスクにどのように向き合い、決断をしたのかをお伝えします。

【後編】ALS治療や声優としてのリスクが…ニャンちゅう声優が振り返る「腫瘍の切除手術」受けるか否かの決断