国債を買えば相続税が安くなるのか…政府・与野党で浮上する「個人向け国債」優遇策
日銀の追加利上げ観測が強まり、金利のある時代がいよいよ本格化しつつある。
金利が上がれば、一般にすでに発行されている債券の価格は下がる。そのため、「今買うより、もう少し金利が上がってから買った方がよい」と考える投資家もいるだろう。
ただし、今回注目したい「個人向け国債」は、通常、市場で売買される国債とは少し性質が違う。
個人向け国債は額面100円につき100円で購入し、償還時も100円が戻る。発行から原則1年が経過すれば中途換金も可能で、元本部分は額面100円につき100円で換金される。ただし、その際には直前2回分の利子相当額が差し引かれる。特に「変動10年」は半年ごとに適用利率が見直されるため、金利が上昇すれば、その後の受取利子が増える可能性もある。
そんな個人向け国債について、「持っていれば相続税が安くなる」という制度まで政策論として浮上している。
解説親の土地が「負動産」に…相続放棄は原則3カ月以内 知らないと背負う“いらない土地”の落とし穴
金融庁は8月31日に公表した2027年度税制改正要望に「国債に関する税制の検討」を盛り込んだ。要望では、国債を保有する人を多様化し、安定的な保有者層をつくるとともに、個人投資家の資産形成ニーズに対応する観点から、必要に応じて措置を検討するとしている。
ただし、対象となる税目も具体的な優遇内容も示されていない。現時点では、あくまで今後の検討課題である。
国民民主党が「国債NISA法案」を提出
一方、「国債と相続税」を結び付ける議論そのものは、すでに具体化している。
国民民主党は7月10日、いわゆる「国債NISA法案」を参議院に提出した。国債をNISAの対象に加えるとともに、NISA口座内で保有する国債について、相続税を非課税とする仕組みを設けることを検討する内容だ。
片山さつき財務相も、自民党内に国債をNISAの対象に加える案や、富裕層優遇とならない範囲で相続税を軽減してはどうかという意見があることを明らかにしている。
つまり、「国債を相続税で優遇する」という話は単なる思いつきではなく、現実の政策論として浮上しているのである。
現在、個人向け国債の利子には原則20.315%の税金がかかる。また、保有者が死亡すれば相続財産となる。現行制度には、個人向け国債だからという理由で相続税が非課税になる仕組みはない。
それが、仮にNISA口座内の国債などについて相続税の非課税措置が設けられれば、相続対策への影響は小さくない。
現預金や通常の証券口座で資産を持つ場合と比べて相続税負担に差が生じるなら、相続を意識する世代にとって国債の魅力は大きく高まるだろう。
国債を保有する投資家を広げたい国側の事情
では、なぜ今、国債への税優遇が議論されているのか。
背景には、国債を安定して保有する投資家を広げたいという国側の事情がある。日本銀行は2024年夏以降、長期国債の買い入れを段階的に減らしている。日銀自身も、銀行や個人など国内投資家による国債保有は少しずつ増えているものの、こうした調整には時間がかかると分析している。
財務省も個人による国債保有の拡大に動いている。2026年度の個人向け販売分は5.9兆円と、前年度当初計画から1.3兆円増やした。国債発行残高は2026年度末に約1239兆円に達する見込みだ。
金利上昇局面では、通常の債券なら価格下落が投資家の懸念材料となる。その点、個人向け国債、とりわけ変動10年は、金利上昇局面でも比較的保有しやすい商品設計になっている。
そこへさらにNISAや相続税の優遇を加え、個人の国債保有を後押ししようという議論が出ているのである。
高所得者の優遇にならないか
税理士として注目したいのは、そのために「相続税」という強い誘因を使うことが妥当か、という点だ。
優遇する金額を大きくすれば、金融資産を多く持つ人ほど恩恵を受けやすくなる。片山財務相自身も、多額の国債を対象とした場合には「高所得者の優遇」にならないかという論点を挙げている。
制度設計も重要である。優遇対象をNISA口座内の国債に限るのか、相続税の非課税額をどこまで認めるのか。誰を対象に、どの程度まで優遇するかによって、相続税対策としての意味も、税負担の公平性も大きく変わる。
もちろん、現時点で「国債を買えば相続税が安くなる」と決まったわけではない。金融庁の税制改正要望にも、相続税を非課税にするとは書かれていない。
したがって、「相続税対策になるらしい」と今から慌てて国債を購入する段階ではない。
しかし、本当に相続税の優遇まで実現すれば、個人向け国債は単なる安全性重視の運用商品から、「資産運用と相続対策を兼ねる商品」へと性格を変える可能性がある。
国債の安定的な買い手を増やすために、税制をどこまで使うのか。そして、その優遇をどこまでなら公平と考えるのか。
年末の税制改正大綱に向け、税理士としても注目したい議論である。
文/亀田敬亨 内外タイムス
