「くすっと笑えるけど考えさせられる研究」に贈られる2026年度イグ・ノーベル賞全10部門の研究内容まとめ、日本人は20年連続受賞

アメリカの科学ユーモア雑誌「Improbable Research」が主催するノーベル賞のパロディ「イグ・ノーベル賞」の第36回授賞式が日本時間の2026年9月4日2時に開催され、10部門の賞が「笑わせ、考えさせるような興味深い研究」に贈られました。
The 36th First Annual Ig Nobel Prize Ceremony - Improbable Research
https://improbable.com/the-36th-first-annual-ig-nobel-prize-ceremony/
2026年度イグノーベル賞からはヨーロッパで授賞式を開催するとの発表、「受賞者やゲストがアメリカに渡るのが安全でなくなったため」 - GIGAZINE

会場には「結果をその場でWikipediaに掲載する」ということで、ウィキメディアのボランティアがスタンバイしていました。

スイスでの開催とのことで、フランス語・ドイツ語・イタリア語・ロマンシュ語・英語の通訳も控えていました。

プレゼンターはすべて本家ノーベル賞受賞者で、2019年経済学賞を受賞したエステル・デュフロ氏、2019年経済学賞を受賞したアビジット・バナジー氏、2019年物理学賞を受賞したミシェル・マイヤー氏、2001年生理学賞を受賞したティム・ハント氏、1999年物理学賞を受賞したジェローム・フリードマン氏の5人。ただし、フリードマン氏は前年度と同じくリモートによる参加でした。

イグ・ノーベル賞では受賞者の演説が長くなると「もう飽きちゃった!疲れた!」と叫んで邪魔をするミス・スウィーティープーという少女が名物。しかし、2026年度はミス・スウィーティープーの代わりに巨大な3本のバナナが対応します。

受賞者のトロフィーは巨大なマッシュルームと足。なお、2026年のイグ・ノーベル賞授賞式のテーマは「Fungi(菌類)」でした。

さらに受賞者には「イグ・ノーベル賞を受賞した」と書かれた紙が1枚贈られます。さらに、賞金は10兆ジンバブエドル紙幣1枚。ただし、記事作成時点ではジンバブエドルは廃止されているため、金銭的な価値はありません。

◆生体力学賞:キスを「唇や口の動きを伴い、食物の受け渡しを伴わない、同種間での直接的な口対口の接触を含む非闘争的相互作用」と定義したことについて
生体力学賞は、英国のマチルダ・ブリンドル氏、スチュアート・ウェスト氏、アメリカのキャサリン・F・タルボット氏に贈られました。
A comparative approach to the evolution of kissing - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1090513825001370
ブリンドル氏らはそもそも「キス」とは何なのかを人間だけでなく動物にも適用できるように、大まかに「争いではない状況で、同じ種の個体同士が口と口を接触させ、口や唇を多少動かすもの。ただし食物の受け渡しは含まない」と定義し、霊長類を中心としたさまざまな動物の行動記録を比較した点が評価されました。

その結果、大型類人猿の共通祖先は約2150万年前にはすでにキスをしていた可能性が高く、現生人類だけでなくネアンデルタール人もキスをしていた可能性があると推定しています。ただし、「なぜキスが進化したのか」は依然として不明であるため、今後の研究課題とされています。
受賞者スピーチでは、古代の人類と研究者による熱烈なキスが行われました。

◆経済学賞:人は上流階級であるほど子ども用のお菓子を奪い取ったり、その他の非倫理的な行為に及んだりする可能性が高いという証拠を集めたことについて
経済学賞はアメリカのポール・ピフ氏、ダニエル・スタンカート氏、ダッチャー・ケルトナー氏、カナダのステファン・コテ氏、メキシコ出身のロドルフォ・メンドーサ=デントン氏に贈られました。
Higher social class predicts increased unethical behavior | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1118373109
研究チームは、社会的・経済的な地位と倫理的な行動に関係があるのかを、7つの実験や観察研究で調べました。例えば、実際の交差点や横断歩道で高級車に乗っている人ほど他の車や歩行者に道を譲らない傾向があるかを観察。また、「別の研究に参加する子どもたちのため」と説明されたキャンディーを参加者がどれだけ取るかなどを調査する実験などを行っています。

その結果、社会階級が高い参加者ほど非倫理的な行動を取る傾向がみられ、その一部は「強欲さを肯定的に評価する傾向」で説明できると研究チームは結論付けました。
受賞者はスピーチで研究内容を説明しましたが、時間をオーバーして3本のバナナから圧をかけられ、スピーチを強制終了させられました。

◆化学賞:胎生ゴキブリの乳たんぱくは、牛の乳たんぱくと比べて3倍以上のエネルギーを含んでいることの発見
化学賞はインドのサンチャリ・バネルジー氏、ニティシュ・サティヤナラヤナン氏、ジャンディヤム・スリカンス氏、フランス出身のフランソワ=グザヴィエ・ガラ氏、レオナール・シャヴァ氏、カナダのスティーブン・トーブ氏、アメリカのバーバラ・ステイ氏、インド出身のアメリカ人スブラマニアン・ラマスワミ氏ら11人に贈られました。
(IUCr) Structure of a heterogeneous, glycosylated, lipid-bound, in vivo-grown protein crystal at atomic resolution from the viviparous cockroach Diploptera punctata
https://journals.iucr.org/m/issues/2016/04/00/jt5013/index.html
Diploptera punctataというゴキブリは、一般的なゴキブリのように卵を外に産むのではなく、母親の体内で胚を育てます。成長した胚には母親からタンパク質や糖、脂質を豊富に含む液体が供給され、胚がこれを飲み込むと腸内で乳たんぱくの結晶が形成されます。
研究チームは胚の腸からこの結晶を取り出し、X線回折などを用いて1.2オングストロームという原子レベルの分解能で構造を解析しました。その結果、結晶にはタンパク質だけでなく糖や脂質も高密度に詰め込まれており、同じ質量の牛乳と比較すると3倍を超えるエネルギーを蓄えていると推定されました。研究チームは今回の研究で生体内で形成された不均一なタンパク質結晶を原子レベルで解析できたことから、同様の手法が従来解析が難しかった複雑な生体分子の構造研究にも応用できる可能性を示唆しています。

◆薬学賞:鼻のかみ方に関する気体動力学的研究
薬学賞を受賞したのは日本の海野徳二氏と矢島洋氏が1977年に発表した「鼻のかみ方-擤鼻(こうび)の気体動力学的研究-」です。
鼻のかみ方
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka1947/80/1/80_1_11/_article/-char/ja
研究チームは「上手な鼻のかみ方」を客観的に明らかにするため、14歳~48歳の男性15人を対象に、鼻呼吸や鼻をかんだ際の呼気速度、呼気量、時間を測定するとともに、耳への影響を調べるため外耳道内の圧力変化も記録しました。被験者には普段通りに鼻をかんでもらい、片方ずつかむ場合と両方同時にかむ場合などを比較しています。

実験の結果、左右の鼻では空気の通りやすさにかなり差があり、通りやすい側を押さえて片方ずつかむことで、通りにくい側にも強い気流を発生させられることが分かりました。また、呼気速度が速いほど鼻腔内の分泌物を排出しやすいとして、研究チームは「基本的に片方ずつ」「かなり強く」「直前に少し息を吸い、できるだけ長く」鼻をかむ方法を推奨しています。
さらに強く鼻をかむと耳管を通じて外耳道の圧力が変化することも確認されましたが、研究チームは、これによって中耳に感染が起きることはまれだと考察しています。さらに、こうした長く強い呼気には鼻だけでなく下気道の分泌物の排出を助ける作用も期待できると結論付けています。
なお、海野氏は2022年に亡くなったため、授賞式には旭川医科大学の耳鼻科専門医で海野氏に師事した高原幹教授が出席し、代理でスピーチを行いました。

バナナが近づいてきたので「Thank you very much!」でスピーチを締める高原教授。

◆生物学賞:さまざまな温度や時間帯に、さまざまなヘビのさまざまな部位を繰り返し優しく踏むことで何が誘発されて何が誘発されないのかを解明しようとしたことについて
ブラジルのジョアン・ミゲル・アルベス=ヌネス氏、アドリアノ・フェローネ氏、セルマ・マリア・アルメイダ=サントス氏、カルロス・ロベルト・デ・メデイロス氏、イヴァン・サジマ氏、オタヴィオ・アウグスト・ヴオロ・マルケス氏が生物学賞を受賞しました。
RETRACTED ARTICLE: Study of defensive behavior of a venomous snake as a new approach to understand snakebite | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-024-59416-6
毒ヘビが人間をかむかどうかがどんな条件によって決まるのかを確かめるため、研究チームはブラジルに生息する毒ヘビを75匹用意し、防護用ブーツを履いた実験者に足をヘビの近くに置かせたり、頭や胴体や尾を軽く踏んだりして、ヘビが足にかみつく確率を調べました。
その結果、特に若く小さな個体、とりわけ若い雌はかみつきやすく、頭部を踏まれた場合は胴体や尾を踏まれた場合よりかみつく確率が高いことが判明しました。さらにこうした行動データはサンパウロ州の実際のヘビ咬傷データとも強く関連していたことから、研究チームは「ヘビにかまれる危険性は大きさや性別、気温、時間帯、接触の仕方といった状況によって大きく変わる」と結論付けています。また、毒ヘビの行動を研究することでヘビ咬傷が起こりやすい地域や条件を予測し、抗毒素の優先配備など予防策に役立てられるとしています。

帰り際、受賞者からプレゼンターにヘビのおもちゃが配られました。

◆物理学賞:飛散しない小便器を設計するための理論的および実験的な試みに対して
物理学賞は、アメリカのランディ・ハード氏、タッド・トラスコット氏、中国出身のパン・ジャオ氏、カナダのカヴィーシャン・スライラジャ氏に贈られました。
Splash-free urinals for global sustainability and accessibility: Design through physics and differential equations | PNAS Nexus | Oxford Academic
https://academic.oup.com/pnasnexus/article/4/4/pgaf087/8098745
研究チームは液体の流れが壁面に衝突する角度に注目し、一定以下の浅い角度で当たれば液滴として跳ね返らず、表面に沿って流れやすくなることを理論と実験の両方で確認しました。そして、身長の異なる利用者でも尿が壁面におよそ30度の浅い角度で当たるよう、オウムガイの殻のような曲面を持つ「Nautilus」という小便器を設計しました。実験では、Nautilusは一般的な小便器と比べて飛び散りを1.4%程度まで抑えられたと報告されています。
物理学的に最もおしっこが跳ね返りにくい小便器が設計される - GIGAZINE

受賞者らは尿を連想させる黄色いレインコートの下に、研究内容を説明する図がプリントされたTシャツを着ていました。

研究で示された尿の跳ね返りを示す方程式もプリントされていましたが、あまりにも字が小さすぎて読めないレベル。受賞者は「このシャツの文字が小さすぎると主張する人もいますが、フォントのサイズで人を判断すべきではないと思います」とコメントしました。

◆技術賞:蚊の口吻を高解像度3Dプリンティングノズルとして利用する先駆的な技術、ネクロプリンティングと呼ばれる手法
技術賞はジャスティン・ピューマ氏、ジェン・ヤン氏、エバン・ジョンストン氏、ジャン・ズーシン氏、ラン・シャオイー氏、リンジー・ジャン氏、ホウ・ホンユー氏、ホー・ズーシン氏、アリ・アフィフィ氏、ミーガン・クレイトン氏、リー・ジエンユー氏、ツァオ・チャンホン氏に贈られました。
3D necroprinting: Leveraging biotic material as the nozzle for 3D printing | Science Advances
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adw9953
研究内容は、死んだ生物の体の一部を機械部品として再利用する「ネクロボティクス」の発想を3Dプリンターに応用したものです。
蚊の口器を3Dプリンター用の極細ノズルに再利用することに成功、移植用臓器の製造に期待 - GIGAZINE

作製した3Dプリンターでは約20マイクロメートル幅の線を印刷でき、市販の極細金属ノズルよりさらに細かな造形に成功。また、ハニカム構造やカエデの葉の形を印刷したほか、がん細胞や赤血球を含む微細な足場構造も作製できました。研究チームは蚊の口吻そのものを「天然の超精密ノズル」として工学部品に転用できるとしています。

ここで、2000年のイグ・ノーベル心理学賞を受賞したデイヴィッド・ダニング氏とジャスティン・クルーガー氏の研究が紹介されました。この研究結果は「ダニング=クルーガー効果」として知られています。
「無能な人だけが自分を過大評価する」は間違い、本当は平均的な人でも自分を過大評価する - GIGAZINE

「『未熟と不注意:過大な自己評価へと導く自分自身の無能力を認めることが、どれだけ困難であるか』に対して」というテーマが表示された直後、会場のスライドには今回イグ・ノーベル賞の授賞式がスイスで開催された遠因となったドナルド・トランプ大統領の顔が大きく映し出されました。

◆嗅覚賞:親にとって赤ちゃんは素晴らしい匂いがするが、10代の若者はそうではない証拠を示したことについて
ドイツのイロナ・クロイ氏、トーマス・フンメル氏、ポーランドのトマシュ・フラツコヴィアク氏、ドイツとポーランドの研究機関に所属していたアグニェシュカ・ソロコフスカ氏が嗅覚賞を受賞しました。
Babies Smell Wonderful to Their Parents, Teenagers Do Not: an Exploratory Questionnaire Study on Children’s Age and Personal Odor Ratings in a Polish Sample - PMC
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5574933/
ポーランドの235人の親に、自分の子ども367人の体臭がどの程度心地よいかをアンケートで評価してもらいました。その結果、子どもが幼いほど親はその体臭を心地よいと評価し、年齢が上がるにつれて評価が低下する傾向が確認されました。研究チームは、乳幼児の匂いを心地よく感じることが親子の結びつきや養育行動を促し、子どもが成長して自立に近づくにつれてその役割が弱くなる可能性を指摘しています。

◆平和賞:私たちは嫌いな相手に容赦ない友人を高く評価する
平和賞はアメリカのジェイミー・アローナ・クレムス氏、レベッカ・ハーネル=ピーターズ氏、ローレオン・メリー氏、ダニエル・スナイサー氏とキーラ・ウィリアムズ氏に贈られました。
Sometimes we want vicious friends: People have nuanced preferences for how they want their friends to behave toward them versus others - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090513823000211
人は「親切で信頼できる人と友達になりたい」と考えますが、研究チームは「その友人が誰に対して親切なのか」も重要なのではないかと考えました。そこで、アメリカとインドの計1183人を対象に6つの研究を行い、自分自身、知らない人、自分の敵などに対して、理想の友人にどのように振る舞ってほしいかを調べました。
その結果、自分に対しては親切で信頼できる友人が好まれ、知らない人に対しても基本的には親切な人物が好まれました。しかし、相手が「自分の敵」になると、友人にはその人物に親切にするよりも、場合によっては意地悪に振る舞ってほしいと考える傾向が確認されました。つまり人は無条件に「善良な友人」を求めるのではなく、「自分には親切だが、自分の敵には味方しない友人」を望みがちだというわけです。

平和賞受賞者によるスピーチの後、2027年のイグ・ノーベル賞がベルギーで開催されることがオランダ語で発表されました。

◆土壌科学賞:25カ国以上で1000枚の全く同じ下着を埋め、2ヶ月後に掘り出したことについて
スイスのフランツ・ベンダー氏、アトラント・ビエリ氏、ピア・ヴィヴィアニ氏と、オランダのマルセル・ファン・デル・ハイデン氏に土壌科学賞が贈られました。
Soil health assessment using buried cotton underpants with the help of 1000 citizen scientists - Bender - PLANTS, PEOPLE, PLANET - Wiley Online Library
https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ppp3.70259
研究チームは土の中に綿100%のパンツを埋め、「どれだけ分解されたか」で土壌中の生物活動を測定しました。市民科学者約1000人が参加し、同じ種類の綿製パンツを土に埋め、30日後と60日後に掘り出しました。また、パンツと同時にティーバッグも埋め、土壌サンプルや温度、湿度などのデータも収集しています。
「2000枚のパンツをスイス各地の地面に埋める壮大な実験」で明らかになったこととは? - GIGAZINE

実験の結果、個人の庭では分解が速く、芝生では土壌生物の活動が比較的低いことが分かりました。綿を食べて分解する微生物などが活発な土ほどパンツが大きく分解されるため、その残り具合を土壌の健康状態の指標にできると研究チームは主張しました。研究チームはこれを「Underpants Index」として、従来のティーバッグを使った測定法と同様に、一般の人にも直感的に理解しやすい土壌評価法として利用できるとしています。

研究内容を歌で説明する受賞者ら。

その後、大量のパンツが会場の参加者に向けて投げ込まれました。

さらに受賞者からプレゼンターに綿のパンツが贈られました。

なお、イグ・ノーベル賞の授賞式はYouTubeとニコニコ動画で公開されており、以下から視聴可能です。
The 36th First Annual Ig Nobel Ceremony (2026) FULL SHOW - YouTube
イグ・ノーベル賞2026 授賞式 生中継【翻訳字幕付き】 - 2026/9/4(金) 2:00開始 - ニコニコ生放送
