投資などで資産形成し、妻(左)とともに早期退職を実現した男性(千葉県内で)=田中秀敏撮影

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 NISA(少額投資非課税制度)の普及や株高を背景に、若年層を中心に個人の投資熱が高まっている。

 NISAによる投資額も急増し、資産を増やして早期退職する「FIRE」と呼ばれる生き方も注目を集める。一方で、「NISA貧乏」という言葉も生まれるなど過度にのめり込む人も出ており、専門家は「投資への傾倒はリスクが大きい」と警鐘を鳴らす。(広瀬航太郎)

ゆっくりランチ

 朝、長女の支度を手伝って学校に送り出したら、配信する動画を制作。昼からゆっくりランチをした後、読書を楽しむ--。

 千葉県在住の男性(36)は、妻(37)とともに「FIRE」生活を送る。小学2年の長女(7)の育児をしながら、平日でも卓球やカフェ巡りなど趣味の時間を存分に楽しむ。

 仕事と育児の両立に難しさを感じていた7年前、夫婦で本格的に資産運用を始めた。株式投資などで得た資産額が5000万円を超えた2021年末、6年勤めた大手企業を退職した。

 ただ、人と接する機会が減り、孤独を感じるようになったため、同じ境遇の人たちとコミュニティーをつくり、一緒に登山やマージャンを楽しむ。また、投資の損失に備え、動画配信などで月に数十万円の収入を得ることも怠らない。

 男性は「個人事業の形で仕事を続けているが、会社勤務の時とは時間の余裕は全然違う。娘の成長を毎日、間近で見られるのは何物にも代えがたい」と話す。

若年層が意欲的

 個人の投資熱の高まりは、投資で得た利益が無期限で非課税となる24年の「新NISA」のスタートが要因の一つだ。

 25年末時点のNISAの買い付け額は累計71兆円と、23年の2倍に急増。特に若年層が意欲的で、金融庁によると、25年末に20歳代の26%、30歳代の38%がNISA口座を所有し、買い付け額も20歳代は23年比の3倍超に、30歳代も4倍近くになった。

 投資に関する講座を運営する「ファイナンシャルアカデミー」(東京)では、昨年の新規受講者数が20年と比べて3割増えた。14年の受講者は男性が9割を占めたが、現在は女性が6割となり、広報部の江口成美さん(37)は「性別を問わず、物価高が進んだことで将来への不安を肌で感じる若い世代が増えているのだろう」と話す。

「今は我慢」

 生活費を切り詰めて投資に回す「NISA貧乏」という言葉も生まれた。3月の衆院財務金融委員会でも取り上げられ、片山財務相が「ショックを受けた」と述べるなど注目を集めた。

 東京都練馬区の男性会社員(32)も、月40万円近くをNISAなどの投資に回す一方、食事を1日1食に減らすなど生活費を5万円以内に抑えている。「インフレの時代では、貯蓄に回しても資産の価値は目減りしていってしまう。今は我慢して集中的に投資し、資産形成後に旅行などの余暇にお金を使いたい」と話す。

 元日本銀行職員のエコノミスト河田皓史さん(38)は、コロナ禍以降は株高が続いているため、近年投資を始めた人はほとんど成功体験しか味わっていないことを指摘。「投資はあくまでリスクを伴うもの。傾倒すればインフレや増税などで大きな損失を被る恐れがあることは、常に頭に入れておくべきだ」と注意喚起する。

「絶対もうかる」詐欺相次ぐ…SNSで勧誘「まず疑って」

 個人の投資が盛んになる中、SNSの広告やダイレクトメッセージ(DM)で「絶対にもうかる」などと持ちかけ、投資名目で金をだまし取る「SNS型投資詐欺」の被害が相次いでいる。

 警察庁の発表によると、今年上半期の特殊詐欺被害約1816億2000万円(暫定値)のうち、SNS型投資詐欺が最多の約797億9000万円を占めた。国民生活センターは「SNSで勧誘を受けた場合はまず疑い、安易に投資資金を振り込むことは控えてほしい」と注意喚起している。

 ◆FIRE=英語の「Financial Independence」(経済的自立)と「Retire Early」(早期退職)の頭文字を組み合わせた言葉。退職後、資産運用などの副収入で生活費をまかなう例が多い。1992年、米国の投資家らが提唱したとされる。