娘を女として見ていたのか--「頭がおかしくなりそうだった」と慎太さんは語る

写真拡大

【前後編の後編/前編を読む】誕生日の夜、恋人が消えた。口座の100万円、祖父の形見の時計もない…「完全に騙された」 女性を信じられなくなった僕が、それでも結婚を決めた相手とは

 梶慎太さん(49歳・仮名)には、交際していた女性に騙され、およそ100万円と祖父の形見の懐中時計を失った過去がある。女性不信に陥った彼を励ましたのが職場の2歳上の先輩・紘絵さんだった。慎太さんに好意を抱いていた紘絵さんは、婚約を解消し、結婚。娘と息子にも恵まれた家庭には、慎太さんの幼なじみでバツイチの雄二さんも出入りするように。実の子と会えなくなっていた雄二さんに、慎太さんの子どもたちはよく懐いた。

 ***

【写真を見る】「夫が19歳女子大生と外泊報道」で離婚した女優、離婚の際「僕の財産は全部捧げる」と財産贈与した歌手など【「熟年離婚」した芸能人11人】

 慎太さんにとって、家庭はいつでも最優先すべき大事なものだった。だが、実際にはその後、彼は仕事が忙しくなり、それにともなってつきあいも増えていき、なかなか両立するのがむずかしくなっていった。

娘を女として見ていたのか--「頭がおかしくなりそうだった」と慎太さんは語る

「たまたま大口の商談をまとめることが続いて、急に幹部たちに重用されるようになってしまった。僕自身は全然、望んでいないのに。週末もつきあえと言われ、ゴルフやらなんやらと出かけることが多くなった。練習しろと言われたけど、ゴルフなんかやる時間はないから放っておいたら、下手なのがかえっていいと言われ始めて」

 つまりは人となりが気に入られたのだろう。「上にとって扱いやすい人間なんだと思う。しかも僕自身がそうしようと思っているわけではないから、上にとってはかわいげがあるというか。それは紘絵の分析ですが」と彼は仏頂面になった。

 その分、紘絵さんに負担を強いているわけで、いくら彼女が同じ社内で状況を理解しているとは言え、そのままでいいとは思えなかった。

引きこもった娘

 特に娘が小学校4年生のときに始まった不登校は、夫婦の悩みの種となった。

「なんだか様子が変なの。あんなに学校が好きな子が行きたくないって言うのよ」

 紘絵さんのそんな報告で、慎太さんは娘がすでに3日も学校へ行っていないことを知った。もっと早く言えよと思わず声を荒らげたという。

「娘は自分の部屋にこもって鍵をかけている。『怒らないから出ておいで。とにかく話をしよう。学校へ行かなくてもいい』と声をかけたけど、完全無視。いったい何があったのか、翌日には僕が学校へ行って先生たちに会いました。担任が言うには、3ヶ月ほど前、娘が慕っていた他クラスの先生が急に亡くなった。その話は僕も知っていました。娘はショックを受けていたようでしたが、『先生は空から見てるよね』と、前を向こうとしていたんです。ただ、担任によれば、どうやらそのころから少し前とは違うような気がする、と。その後、娘が仲よくしていた子たちに聞くと、『確かにそれ以降、少し沈みがちだったけど、目立って落ち込んでいるとは思えなかった。急に来なくなって心配してる』と。いじめとかそういうことではないようでした」

 紘絵さんは、「あの子は小さいときからませてたよね。私、なんとなくわかるわ、あの子の気持ち」とつぶやいた。紘絵さん自身も、かなり大人びた子どもだったらしい。ただ、彼女は「どうせ大人は私の気持ちなんかわかってくれない」と最初から諦めの気持ちがあった。しかも「それほど繊細ではない」から、目の前の楽しいことに気持ちを切り替えることもできた。だが「娘は、私の100倍も繊細だと思う。賢くて繊細だから、他人にはわからないつらさがあるのかも」ということだった。

雄二さんとの会話で…

 不登校が3週間ほど続いたとき、紘絵さんが雄二さんを呼んだ。慎太さんは、雄二さんに助けを求める気持ちがなかったことに気づいた。

「雄二は確かに幼なじみで親友だけど、僕は子どもたちが雄二に懐くのを、心の底ではよく思ってなかったんですよね。たぶん嫉妬だと思う。オレを差し置いて、雄二が父親面するのは嫌だった。父親面なんかしてないんですが、オレより他人の男に懐くなよという気持ちがあったんじゃないかと思う」

 雄二さんはすぐにやってきた。ドアの外から声をかけると娘はドアを開けた。それから2時間ほどたち、娘が出てきて、「心配させてごめん」と言った。紘絵さんは、「いいから。みんなでごはん食べよう」と盛り上げた。

「何を話したんだと雄二に聞いたら、『特に。オレが子どもたちに会えないつらさを聞いてもらった』と。娘はじっと聞いて、『ゆうじ、さみしいね』と言ってくれたのだそう。そこで雄二は『きみに話してもらえないパパとママもつらいぞ』と諭した。娘はハッとしたようだったそうです。そこで他クラスの先生への思いを一気に吐き出した。人が亡くなるという経験をしてなかったから、娘は命とは何なのかについて、必死で考えていたらしい。雄二は『考えることはいいことだよ。そういうときは本を読むといい。でもパパとママにとって最大の幸せは、きみが元気でいることなんだ』と言ってくれた」

10歳であんな複雑な感情が

 翌日の夜、娘はこれまでのことを話してくれた。慎太さんも紘絵さんも先を急がせることなく、黙って聞いた。仕事が忙しいからって、きみのことを軽く考えていたわけではないと慎太さんは言った。紘絵さんも、言いたいことがあったら何でも言っていいんだから、あなたたちより大切なものはないんだからと娘の目を見た。

「10歳であんな複雑な感情を抱くんだなと驚きました。僕なんか生きることについて考えたのは高校生になってからですよ。紘絵の言うとおり、娘は利口すぎるし繊細すぎる。気をつけなければと思いました」

 その後、娘は雄二さんに薦められる本を次々に読んだようだ。人生訓が詰まった本ではなく、夏目漱石や芥川龍之介、あるいはユーモア小説とか動物記とか冒険記とか。さまざまなものを薦めてくれたようで、娘は視界が開けたというようなことを言ったという。

 娘の高校受験を挟んだ2年間、慎太さんは単身赴任を余儀なくされた。そのころには娘はすっかり落ち着いて日常生活を楽しんでいたが、それでも心配だった慎太さんは週末は必ず自宅に戻った。

「息子も思春期を迎えていましたから。でも息子はろくに勉強もせず、サッカーに夢中。受験、大丈夫なのかと聞いても『なるようにしかならないよ』とヘラヘラしているだけ。こいつは何があっても生き抜いていくタイプだなと思っていました。紘絵は、あの子はあなたに似てるから大丈夫って」

 単身赴任を無事に終え、家庭にも変わりがないことを確認して、慎太さんはホッとしたという。娘はその後、動物の研究をしたいと大学の獣医学部に入学した。

「パパ。私、結婚するから」

 そして、今回の慎太さんにとっての大問題とは--。

「今年の春、娘は大学2年生になりました。毎日忙しく、実験だなんだと夜遅くなることも増えた。そしてゴールデンウィークのある日突然、『パパ。私、結婚するから』と言いだした。びっくりしましたよ。学校はどうするんだと言うと、もちろん卒業はするけど、その前に結婚したいのと。いったいどこの誰なんだという話になりますよね。でも娘は言わないんです。ついてはこの家を出て、彼と一緒に住むからって。ちょっと待て、きちんと話しなさいと言ったんですが、娘は黙って部屋に引き揚げていきました」

 そして翌日、夫婦が仕事に行っている間に娘は身の回りのものを持って出て行ってしまった。夕方、帰宅した紘絵さんが、「今は何も言わないで。私も20歳になったのだから、私を信じて少し時間をください」という娘の書き置きを見つけた。

 慎太さんも間もなく帰宅し、置き手紙を見てため息をついていると、雄二さんが突然やってきた。

「話がある、と。『うちに娘ちゃんが来ている』と言うんですよ。何がなんだかわからなかったんですが、彼は申し訳ないと土下座した。つまり、雄二と娘はつきあっていたんです。彼は僕の幼なじみですよ。頭がおかしくなりそうだった。あんなにかわいがっていたのに、おまえはオレの娘を女として見ていたのかと思わず胸ぐらをつかみました。すると彼は『見てない。いや、見てなかった。つい先日まで』というんですよ」

さらに悪いことに…

 雄二さんははっきり言わなかったが、どうやら娘が雄二さんのことが好きで、その気持ちの行き場がなくなり、全身で猛アタックをしかけてきたらしい。それでも「関係をもったのはオレの弱さだ」と雄二さんは土下座しつづけた。

 しかもさらに聞いていくと、雄二さんは実は離婚していなかった。妻とは別居状態が続いているが、子どものためにもと離婚届は出さずにいた。しかも別居してから妻とは、なんとなく関係が戻り、その後、子どもも生まれたのだという。かっこ悪くて言えなかったと雄二さんは言うが、そのために娘は彼を独身だと思い込んでいたのだ。

「ふざけるなと僕が殴りかかると、紘絵が止めに入りました。そこへ娘が飛び込んできて、『やめて。雄二は病気なんだから』って。それも嘘なんじゃないかと僕は言ったけど、実際、彼は大病を患っていて、余命宣告までされてしまったと。それを娘に話したら、娘が『私が最後までめんどうを見る』と言いだしたようです。それで結婚ということになった」

 慎太さんと紘絵さんは顔を見合わせた。雄二さんが離婚していないことを娘は知らない。ここで言っていいものかどうか、ふたりは目で相談し、首を振り合った。雄二さんは、娘にも土下座した。ともかく今日は自宅に泊まってほしい、結婚なんていわないでほしい。僕はきみと結婚するつもりはない。病気は医者と相談してちゃんと治療をするからと。

「娘は雄二の目線にしゃがんで、『だって雄二、私を抱いたじゃない。愛してるんでしょ、私のこと』と肩を揺すった。もうね……、聞いていてたまらないですよ、娘ですよ、自分の娘が自分の親友にすがってるなんて」

嗚咽する娘、どう声をかけたらいいか

 目を真っ赤にしながらそう言うと、慎太さんはうつむいた。それについては謝る。だけどおじさんは、若い子の誘惑に勝てなかった。それだけなんだ、愛じゃないと雄二さんは言った。自分が悪者になるしかないと悟ったのだろう。

「愛というのは、きみのパパとママがきみを思う気持ちだよ。それを愛というんだ。オレは若い子とちょっと楽しみたかっただけ。ごめん。こういう男ばかりじゃないからね、もっといい男はたくさんいるから」

 雄二さんはそう言って去って行った。その日、息子はサッカーの合宿でいなかったのが不幸中の幸いだった。3人になった家の中は静まりかえり、娘の嗚咽だけが響いていた。

人生最初の失恋を親の前で経験した娘には同情するしかなかった。ただ、娘が生き死にを考えているのではないかと、それだけが怖くて。どう声をかけたらいいかわからなかったんですが、しばらくして顔を上げた娘は『私はあきらめないから』と。妙に思いつめた表情だったから、それはそれで怖かったですね」

「真実」を言うしかない…“私、不倫したってこと?”

 夫婦は、やはり真実を娘に言うしかないと話し合った。成人した大人なのだし、娘が正しい判断をしてくれると信じていると前置きして話そうと。

「話しましたよ。すると娘はさすがにショックを受けたようでした。『私、不倫したってこと?』と。知らなかったのだからしかたがない。オレたちも知らなかったんだ、離婚してなかったことを。そう言ったら娘は『ぶっ殺してやる』とすごい形相になった。僕はあわあわしていたんですが、紘絵が静かに、でもドスの効いた声で『そういうことは言うものじゃない。そしてそういう行為にも及んではいけない。あなたなら冷静に考えられるでしょう』と言ったんです。すごい声でした。地の底なのか天空からなのかわからないけど、心に染み入るような声で、しかも有無を言わせない口調だった。威厳がありました」

 娘もそれを感じ取ったのだろう。何も言い返さず黙り込んだ。しばらくたって、娘は「わかった」と言った。何をわかったの、私たちはあなたを信じてるよ。それでいいのねと紘絵さんが言うと、娘は「うん」と紘絵さんにハグをした。「ちょっと思考停止にする」と娘ははっきりと言った。それについては考えないという意思表示だから、大丈夫だと思うと紘絵さんはホッとしたようだったが、慎太さんは気もそぞろだった。

改めて雄二さんと話をすると

 翌朝、娘は晴れやかな顔で朝食をとっていた。「無理するなよ、いつでも泣いていいんだから」と慎太さんが言うと、「私、そんなに子どもじゃないから」と娘はツンとした。いつもの態度に慎太さんもようやく胸をなで下ろした。

 その後、彼は雄二さんと話した。病気になった雄二さんのめんどうを妻は見る気がないらしい。

「しばらくはひとりで仕事をしながら通院できるし、いざとなっても病院に入るだけだからと彼は言いました。申し訳ない。ひたすらその言葉を繰り返すので、離婚していなかったことを娘に言わなかったのはハラが立つが、娘も大人だからおまえとどうこうなったことはしかたがなかったと思うことにすると伝えました」

 病状だけは知らせてほしいと彼は雄二さんに伝えた。「だってオレたち、親友だろ」と言うと雄二さんは号泣した。慎太さんは妻と娘には内緒のまま、ときどき連絡をとっている。

「娘を傷つけたと思うと雄二が憎いこともある。でも子どものころから彼はいつも僕を、いろいろな場面で助けてくれた。憎みきれないんですよ。僕自身、どうやって心を整理したらいいかわからない。だからまだ会えないんだけど、彼の病気を考えると何とか支えになってやりたい気もする。一方で、娘の傷が完全に癒えたわけではないだろうから、それも心配なんですけどね」

 意図せず不倫をしてしまった娘の若さゆえの潔癖さを考えると、まだまだ安心はできないと慎太さんは言う。何も知らない息子は、来春の大学受験に向けてようやく本腰を入れて勉強を始めたところだそうだ。

「いつか笑い話になるといいね。紘絵とはいつもそう言っています」

 そうなるかどうかは娘の胆力にかかっているのかもしれないけど、自分たちは信じることしかできないから。そう言った慎太さん、親心があふれかえった表情だった。

 ***

 娘を傷つけた男への怒りと、幼いころから助けられてきた親友への思いの間で、慎太さんは心を整理できずにいる。記事前編では、慎太さんが紘絵さんと出会い、雄二さんが家族と親しくなっていくまでを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部