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 ◇セ・リーグ 阪神3-1巨人(2026年8月30日 甲子園)

 9回表、阪神の選手交代を告げるアナウンス「ピッチャー工藤、ライト森下」が流れると、甲子園に割れんばかりの大歓声がわき上がった。工藤泰成は4日間連投、森下翔太は前夜の死球負傷で先発を外れていた。ともに出場はないかもしれないと考えていた阪神ファンの喜びの声だった。

 「ファンの方もわかっている通り」と監督・藤川球児は言った。「この巨人3連戦は特別なもの、その重要性をわかっているでしょうから」

 4連投とはいえ藤川は「球数もある。16球、9球、13球……」と疲労度は計算していた。それに若きクローザーに向けての大歓声も狙いだったのだろう。その後押しが選手たちを奮いたたせてくれる。応援を味方につける用兵だったと言える。

 「オレは背中で声を聞いていた。スタンドにいる観客を意識して指揮を執っていたよ」と名将・西本幸雄に聞いたのを思いだす。かつて阪急、近鉄を球団創設初の優勝に導いた監督である。ともに若手を鍛え、育て上げて栄冠を勝ち取った。阪急では長池徳士や福本豊、加藤秀司……近鉄では佐々木恭介、栗橋茂、羽田耕二……らである。

 「まだ実績もなく、経験も浅い選手たちだった。だからファンの後押しが必要と思った。それを引き出すよう腐心していた」

 さて、工藤は安打と2四球で2死満塁とされ、適時打で1点を失った。なお2死満塁と一打同点、長打逆転のピンチである。途中、何度もスタンドから「がんばれ、がんばれ、くどう!」のコールがわき上がっていた。「あと1人!」も「あと1球!」も何度も聞いた。奮いたった工藤は最後の打者を三振にとり、再び大歓声を浴びたのだった。

 工藤も育成出身でまだプロ2年目だ。クローザーで起用されたのも今月からである。歓声を味方にする西本流の起用法が必要なのだろう。

 天王山とみられていた巨人3連戦に3連勝。それも村上頌樹中9日、大竹耕太郎中13日、才木浩人中15日と先発投手を十分休ませて調整させ、3人とも勝利投手となった。先発起用は狙い通りに奏功したのである。

 これで巨人戦7連勝である。それは何と1937(昭和12)年秋の7戦全勝以来、89年ぶりという歴史的勝利だった。

 今のプロ野球ができて2年目だった。タイガースは前年苦杯をなめた巨人のエース沢村栄治打倒に甲子園で秘密訓練を行った。速球対策に投手を数メートル前から投げさせた。

 当時は春秋2季制だった。公式戦中断の夏の非公式試合で沢村を初めてKOすると<引き上げるバスは大変な騒ぎとなった>と初代主将・松木謙治郎が『タイガースの生いたち』(恒文社)に記している。球団専務・冨樫興一はバスを止め、ビールの木を買い込み、歌まで飛びだした。宿舎では全員に金一封が配られたとある。

 草分け当時の「打倒巨人」の熱き心が伝わってくるようだ。そして、その血は今も引き継がれている。  =敬称略=

   (編集委員)