スタバやGapが注力するEGCとは? 共感を呼ぶ「従業員の投稿」施策

記事のポイント
ギャップはクリエイタープログラムを従業員にも開放し、アフィリエイトリンクの共有でコミッションを得られる仕組みを導入した。
スターバックスやステープルズでは、従業員のリアルなコンテンツが新たな層へのリーチやブランド認識の変化を促し、EGC投資が加速している。
クリエイター業界で自動化や産業化が進み、リアルさが薄れるなか、現場を熟知する従業員クリエイターが持続的な優位性をもたらしている。
7月末、アパレル大手のギャップ(Gap Inc.)は、オールドネイビー(Old Navy)、ギャップ、アスレタ(Athleta)、バナナ・リパブリック(Banana Republic)の各ブランドで働く従業員に対し、自社のクリエイタープログラムを開放すると発表した。
従業員は、パーソナライズされたアフィリエイトリンクをソーシャルメディアで共有することで、コミッションを得る機会を与えられる。
これは、スターバックス(Starbucks)の「グリーンエプロン・クリエイターズ(Green Apron Creators)」のように公式に認められた従業員クリエイタープログラムというよりは、むしろギャップの既存プログラムの延長線上にあるものだ。こうしたプログラムがいかに急速に勢いを増しているかを示すサインである。
「意識は完全に反転した」と、インフルエンサーマーケティングエージェンシーのリンキア(Linqia)でチーフストラテジーオフィサーを務めるキース・ベンデス氏は語った。
解雇から一転、経営陣が注目するEGC
5年前は、勤務中にコンテンツを制作したことでクリエイターが解雇されることもあった。トニー・ピロセノを覚えているだろうか。彼は2020年、勤務先である塗料大手シャーウィン・ウィリアムズ(Sherwin-Williams)の店舗で塗料を調合する動画で埋め尽くされたTikTokチャンネルがバズった大学生だ。
同社は「財産や施設の浪費」を含む「重大な不正行為」を理由に、彼を解雇したと報じられている。ピロセノは解雇される前、若い層にリーチするためにTikTokを活用することをシャーウィン・ウィリアムズに提案していた。
それは過去の話だ。いまや経営陣は、従業員生成コンテンツ(employee-generated content:EGC)に正式に注目している。ソーシャルメディア管理企業のスプラウトソーシャル(Sprout Social)による6月のソーシャルメディア動向レポートによると、消費者の40%がEGCを通じて商品やサービスを頻繁に発見していると述べている(Z世代の消費者では61%)。
この数字に、事務用品小売大手のステープルズ(Staples)で働きながら撮影したASMR風のTikTok動画が爆発的にバズったケイデン・ローランド(オブリビオン)のような人物を重ね合わせれば、CEOが勤務中に従業員のスマホ使用を認めることに前向きになった理由は明らかだ。
「ケイデンのコンテンツを初めて見たとき、我々の率直な反応は純粋な興奮だった」と、ステープルズのCMOを務めるボブ・シャーウィン氏は語る。
「それが際立っていたのは、完全に本物だったからだ。作り込まれたブランドの演出ではなく、ひとりの本物の従業員が、ステープルズに対する情熱や個性、視点を共有していた」。
本稿執筆時点で、ローランドはTikTokで60万人近いフォロワーと1760万件のいいねを獲得しており、その動画の多くは、彼女がいまも働くステープルズで一貫して撮影されている。
ステープルズは、ローランドのバズが同小売チェーンにどれだけの認知やビジネスをもたらしたかについて具体的な指標を明らかにしなかったが、彼女のおかげでステープルズは新たなオーディエンスにリーチし、認識を変えることができ、さらに「顧客からの投稿数の増加」を促したと述べた。
彼女のコンテンツに対して追加の報酬があるかを問われると、シャーウィン氏は、ステープルズは個人の報酬の詳細を非公開にしていると答えた。
「彼女はステープルズを本当に活気づけた」と、エコー・デジタルメディア(Ecko Digital Media)でブランド責任者を務めるミーガン・バスケス氏は語る。
「ステープルズは、同じようにステープルズに配慮と関心を示していたこの従業員に対して、高いレベルの配慮と価値を示したのだ」。
EGCに投資する2つの方法
スターバックスは、従業員クリエイターを支援するための特別なインフラを構築している企業の明確な一例だ。
同社は、グリーンエプロン・クリエイターズプログラムの拡張として2026年のカンヌライオンズ(Cannes Lions)で発表された、新たなTikTokクリエイターネットワークの試験運用についてはコメントを避けたものの、これはギャップのような企業が行っていることの一歩先を行くものだ。
グリーンエプロン・クリエイターズプログラム(バリスタが身につけるエプロンの色にちなんで名づけられた)は、クリエイター向けテクノロジープラットフォームのブランドネットワークス(Brand Networks)の支援を受けて2024年に立ち上げられた。
同プログラムは従業員に対し、ブリーフ、編集ツール、法務クリアランス、複数プラットフォームでの投稿支援といった、従来型のクリエイターツールを提供している。
だが、従業員を組み込んだほかのクリエイタープログラムとは異なり、これは完全に独立したエコシステムだ。このプログラムにどのような報酬体系や投稿要件、ガイドラインが適用されるのかは不明だが、これによりスターバックスは、一般の人々向けではなく、より自社の従業員向けにプログラムを最適化することができる。
スターバックスが従業員に特化したクリエイティブプログラムを構築したのは、自社の従業員がいかに独自のモチベーションを持っているかを認識したからだ。ブランドネットワークスによると、彼らは同規模のチェーンのほかの従業員の3倍の頻度で投稿しているという。
拡張されたプログラムは、その数字をさらに伸ばすことをめざしている。このTikTokクリエイターネットワークは、審査を通過した従業員(どのように選別されるのかは不明)に企画概要を共有し、選ばれた一部のクリエイターに対しては、プラットフォーム上で生み出された広告収益を通じて報酬を支払う。
ギャップのマーケティング・シェアードサービス担当シニアバイスプレジデントであるデイモン・バーガー氏はDigidayに対し、従業員を自社のクリエイタープログラムに含めることは「自然なステップ」だったと語った。
同氏によれば、このプログラムは2025年の立ち上げ以降、3万件近いユニークな投稿を生み出し、1億5400万人にリーチしているという。
ギャップの従業員は、ほかのクリエイターと同じようにプログラムに応募する必要があり、18歳以上で、少なくとも1つのソーシャルメディアアカウントで500人以上のフォロワーを持っていなければならない。受け入れられると、ブランドコンテンツ、アフィリエイトリンク、ソーシャル共有ツール、そしてコンテンツを制作するための無料商品にアクセスできるようになる。
彼らがギャップの従業員であるとはいえ、バーガー氏は、このクリエイタープログラムはあくまで任意であり、通常の職務とは完全に切り離されていると即座に明言する。従業員はアフィリエイトコミッションを得られる可能性があるが、そのためにどのような基準を満たす必要があるのかは明らかではない。
コンテンツ制作が従業員としての職務にどう干渉しうるのかを問われると、バーガー氏は、このプラットフォームは「柔軟性と個人の裁量」を軸に設計されており、従業員は「定められたノルマや業績指標を満たすことを求められるのではなく、自分にとって意味のある機会を選ぶ」ことができると述べた。
希薄化するリアルさへの応答
この議論はタイムリーなものだ。クリエイターは、リアルであることによって大きくなった。その後、業界は彼らを取り巻く形で産業化し、自動化と断片化が忍び寄った。
そもそもクリエイターをブランドにとって価値あるものにしていた要素が、消えはじめたのだ。従業員クリエイター制度は、そうした希薄化への対応策といえるだろう。
「それは、いまマーケティングで得られるもっとも持続的な優位性だ」と、グリン(GRIN)でグロース担当バイスプレジデントを務めるベン・ザワッキ氏は語った。
「実際にメニューをすべて試し、何が本当に美味しいのかについて意見を持っているスターバックスの従業員は、ブランドが買えるほぼどんな推薦よりも説得力がある」。
[原文:Why brands like Gap Inc. and Staples are inviting their employees to be creators]
Alyssa Mercante(翻訳、編集:藏西隆介)
