その写真を手に取った瞬間、田村さんの表情は固まったといいます。写真の中央に、体を斜めに向け鋭い視線をカメラに向ける男性の顔には見覚えのある大きなほくろがあり、どう見ても父親の若い頃にしか見えなかったといいます。

「パンチパーマに紫の刺繍入りコスチューム……。最初は、そっくりさんの写真だと思っていたのですが、見れば見るほど父親なんです。まさか当時合成写真なんかを作るはずもありませんし」

◆母の沈黙と、ついに語られた過去

 動揺を抱えたまま階下に降りた田村さんは、母に写真を突きつけました。

「母親はテレビで韓国ドラマに夢中だったのですが、テレビと母親の間に割り込み『これ、父さんだよね?』言ったんです」

 母は一瞬で顔色を変え、「知らないわよ、どこかで拾ってきたんじゃない?」と慌てた様子で否定しました。

 しかし田村さんは引き下がりません。

「でも、このほくろ。間違いないよ」と、田村さんは真剣な眼差しで母親をにらんだそうです。すると、母親は観念したように深いため息をつき、「実はね……」と口を開き始めました。

 父親は若い頃、地元で名を馳せた暴走族の総長だったというのです。しかし、ある日厳格な祖父に見つかってしまい、勘当寸前まで叱責されたというのです。

「あなたと一緒で、お父さんも祖父さんのことを尊敬していたし、とても厳しい家庭だったから、祖父さんが絶対だったのよ」と、母親は、話してくれたそうです。

 その後、父は3ヶ月で足を洗い、予備校に通い直して大学進学を目指したのでした。

◆武勇伝から研究者、そして父へ

「母さんだって、そんな話を知ったのは結婚してだいぶ経ってからだったのよ。ある日ポロっと武勇伝みたいに話してくれてね。私も驚いたわ」と母親は微笑んで話してくれたそうです。

 そんな父親は、大学卒業後、物理学の研究者として大手企業に就職しました。真面目な性格で、常に理知的で誠実な人だったといいます。田村さんはそのギャップに、ただ驚くばかりでした。

「正直、信じられませんでした。でも、あの厳しさや責任感は、そういう過去を経たから生まれたんではないかと思っています」

 遺品から見つかった一枚の写真は、父の知られざる顔を映していました。しかしそれは驚きだけでなく、父の人間的な深さを改めて感じさせるものだったそうです。

<TEXT/八木正規>

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◆■父が青春を過ごした時代、暴走族は4万人いた