もちろんそれは、万能性を捨てるという話でもない。左右のSBを経験し、異なる役割をこなしてきたことは、むしろ中央でプレーする際にも武器になる。複数のポジションを知る27歳が、その経験を持ったまま「本職」に立ち返る。パレスでの挑戦には、そんな側面もある。

 冨安自身はさらに、自分を「本来の意味でのディフェンダー」と表現した。「常に集中し、味方に声をかけ、毎試合クリーンシートを達成したい」。派手な言葉ではないが、そこには冨安が新天地で何をしたいのかが端的に表われている。

 もちろん、最大の課題がコンディションであることは変わらない。本人も「皆さんも知っているように、ここ数年は怪我に苦しんできた」と認める。プレミアリーグを「世界最高で、一番競争が激しく、一番難しいリーグ」と知り尽くしたうえでパレスを選んだ。
 
 だからこそ、この移籍は単なるプレミア復帰ではないのだろう。

 アーセナルを離れた時には、次にいつ試合へ戻れるのかさえ見えなかった。それから約1年──。リハビリを重ね、アヤックスで実戦に戻り、トライアルから契約を掴んだ。そして27歳でもう一度、世界で最も厳しい舞台へ飛び込む。

「このクラブで何かを勝ち取るために来ました」

 戻ってきたことがゴールではない。冨安健洋の新しい挑戦は、ここから始まる。

文●田嶋コウスケ

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