市場はこんなに絶好調なのにNISAで大損…世帯年収1200万円の安泰黒字家計が2年で120万円溶かした"犯人"

■まさか…2年で120万円もダウン
「NISAで運用額が120万円も減ってしまいました」
そう、肩を落としてご相談に来られたのは、茨城県在住の星野春男さん(仮名・45歳)、真理子さん(仮名・43歳)ご夫妻。ともに会社員の二馬力世帯。奥さんは長女を5年前の38歳時に出産して以降、3年前に長男、1年前に次男が誕生し、春男さんとともに3人の子供を育てています。
世帯月収は手取りで60万円、ボーナスは合算して年270万円で、額面の年収は1200万円を超えます。貯蓄額も相談当初に1000万円ありました。後述する家計収支にもこれといった乱れもなく黒字という、一見、健全で「貯まり続ける家計」です。ところが、落とし穴がありました。
「2024年の1月、新NISAのスタート時から、マネーに詳しい上司に勧められてNISAを続けています。家計の黒字額と貯蓄の一部を使って、『成長投資枠』と『つみたて投資枠』に月20万円ほど積み立ててきました。上司は『毎月積み立てていれば勝手に増えていくよ』と言っていましたが、蓋を開けてみたら乱高下が激しく毎月のように肝を冷やしています。評価額も増えるどころか、2年経った今、積み立てた総額480万円に対し、現在の資産合計額は360万円ほどに激減しています。なぜこうなってしまうのでしょうか?」(春男さん)
NISAでここまで損失を出すケースは、少数派ではありますがときどき耳にします。彼らに共通するのは、知人の話をきっかけに何となく投資を始め、何を保有しているのか自分でも十分に把握できていないという方、あるいは把握はできていても、その商品がどういうものかを理解せずに購入している方です。
春男さんは、後者のタイプでした。
「とりあえずSNSのインフルエンサーや投資系YouTuberが“爆上がりする”と高評価をつけていた商品を中心に買いました」と、春男さん。
ポートフォリオを見せてもらうと、春男さんが「成長投資枠」で保有していたのは、SNSで話題の成長株(個別銘柄)や、値上がりランキング上位の投資信託、「これから伸びる」と言われたテーマ型ファンドなど、いわゆる値動きの大きい商品ばかり。コストとしてかかる信託報酬をきちんとチェックして商品を選んだこともないそうで、調べたら、やはり手数料の高い商品もかなり含まれていました。
売買のタイミングも、「これがいい」と言われれば即買い、下がれば怖くなって売るというように、NISA口座の中で売買を繰り返していました。結果、狼狽売りも重なり、トータルで約120万円以上もの損失を出してしまったのです。
■商品を選ぶときに見るべき「数字」とは
春男さんはなぜ、高評価とされている商品を買って、損をしたのでしょうか。
SNSやYouTubeでは、誰もが知っているオーソドックスな商品を勧めても注目されません。だからこそ「半導体関連で」「AI銘柄で」といった、耳目を集めやすい情報が発信されやすい。
「今買うべき商品トップ5」といったランキングも、発信者の立場によって内容がまったく異なります。個別株で成果を出している発信者は個別株を勧めますし、株主優待に強い発信者は優待銘柄を勧める。それは、その人の資産規模や投資スタイルがあってこそ成立している話であり、誰にでも当てはまるわけではありません。
そこを見極めずに手を出してしまったのが、大きな敗因でしょう。投資をするときは、ランキングの順位や「いいね!」の数より、商品の投資対象や信託報酬や純資産総額といった数字を冷静に見ていくことが大切です。
■NISAで買ってはいけない商品
NISAは、運用益に税金がかからない制度です。裏を返せば、増えなければ意味がありません。個別株やテーマ型のアクティブファンドは、伸びる時は伸びますが、絶対に伸びるという保証はなく、企業が不祥事などを起こせば、それだけで大きく値を下げることもあります。
そうしたリスクの高い商品を買うのは絶対いけないというわけではありませんが、それは損益通算ができる特定口座で行うべきです。損益通算とは、同じ年に発生した利益から損失を差し引き、税金の負担を軽くできる制度。
NISAにはこの損益通算という概念がなく、損をした際に他の利益と相殺することができません。増えるかどうか分からない商品を、非課税のメリットが生きない形で持つのは非効率です。

■「コア」と「サテライト」の比率は?
星野さんご夫妻にはこうした話を一通りした上で、資産形成の中心となる「コア」と、興味や楽しみで持つ「サテライト」という考え方もお伝えしました。簡単にいえば、堅実に成長していく商品と、ハイリスクな攻めの商品という違いです。
コアは、eMAXIS Slimシリーズのようなインデックスファンドで固める。オーソドックスなインデックスは、多少の値動きはあっても、長期で見れば増えていく可能性が高い商品だからです。
サテライトで個別株やアクティブファンドを持ちたいのであれば、資産全体の1〜2割程度にとどめるといいでしょう。例えば運用資産が500万円なら、コアに400万〜450万円、サテライトに50万〜100万円という配分です。ただし、無理にサテライトを持つ必要はなく、コア100%でも問題ありません。星野さんご夫妻はサテライトを積極的に持ちたかったわけではなく、周囲の情報に振り回された結果、気づけば値動きの大きい商品ばかりを抱えてしまっていた状態でした。
そこで私は、「保有商品を棚卸しし、プラスになっているものは利益を確定してコアのインデックスファンドへ資金を移す」という形でコア中心の運用に切り替える提案をしました。堅実に教育費と老後資金を貯めたかった星野さんご夫妻は、「もう危険なものには手を出したくない」と、決断されました。
保有商品の棚卸しと並行して、家計の見直しも行いました。
■どう月3万5000円の支出削減をさせたのか
星野家の月の支出は合計49万円。手取り月収60万円なので、しっかりその中に収まっていますが、日用品代4万円、被服費3万5000円、娯楽費5万円は切り詰められる余地があるように感じました。
日用品代は無計画な購入を見直して4万円から2万5000円へ、被服費も3万5000円から2万5000円へ削減。娯楽費1万円抑え、合計で月3万5000円の支出削減に成功しました。支出合計は49万円から45万5000円となり、収支差額は月14万5000円で黒字額が拡大しました。
あわせて、生活防衛資金の確認も行いました。月の支出額45万円をもとに、会社員の共働き世帯であれば生活費の6カ月〜12カ月分、約270万〜540万円を目安に、普通預金などすぐに引き出せる形で確保しておくことをお勧めしています。相談時点の貯蓄額は1000万円あり、この生活防衛資金を確保したうえで、残りを教育資金や老後資金の準備に回していく方針を確認しました。
家計改善によって生まれた月14万5000円の黒字は、そのまま夫婦のNISA口座に。「つみたて投資枠」は1人当たり月10万円が上限ですが、夫婦2人分であれば合計20万円まで拠出できるため、14万5000円という金額も無理なく収まります。内訳はすべてコアであるインデックスファンドに集中させ、値動きの大きいサテライト商品は組み込みません。

■インデックス投資をコアに据えて時間を味方に
一方、ボーナスや現在の貯蓄については、今後、夫婦それぞれのiDeCoに回す資金としました。お子さんが3人とも未就学ということもあり、教育費のピークまでにはまだ時間があります。目先の値動きに一喜一憂せず、長期でコツコツ積み立てていく方針に納得していただけました。そうすれば2年で120万円損した分は、徐々に取り返せるはずです。
方針転換から半年、まだ大きな利益が出ているわけではありませんが、以前のような「怖くて売ってしまう」不安な状態ではなく、「こうやって増えていくんだな」と実感しながら、腰を据えて資産形成に取り組めるようになったといいます。
NISAは、やり方次第で結果が大きく変わります。「NISAをやっているのに増えない」という悩みの多くは、制度そのものではなく、選んでいる商品に原因があるように思います。そもそも、「NISAで儲かる・儲からない」という言い方自体、実は正確ではありません。儲かるかどうかは制度の問題ではなく、商品選びと運用の仕方次第だからです。
派手な値上がり銘柄や耳あたりのいい情報に振り回されるより、オーソドックスなインデックス投資をコアに据えて、時間を味方につける。地味に見えるかもしれませんが、それが結局は一番の近道になります。
■完全お任せの「ロボアド投資」はコストと手軽さのバランスを
最近はいわゆるロボアドバイザーに商品選びからリバランスまで“お任せ”してNISAをしている方も少なくありません。聞けば、星野家も一部の資金でこれをやっていました。確かに「ロボアド投資」はラクチンですが、手数料が年1%を超えるようなものも多く、割高です。REIT(不動産投資信託)や債券も一部組み入れ、手軽に分散投資できるメリットはあるかもしれませんが、自分でeMAXIS Slimシリーズなどを積み立てたほうがコストをぐっと抑えられるので、私はおすすめしていません。
手数料の差は長期になるほど効いてきますから、ロボアドに任せきりにするより、自分で商品を選んで積み立てるほうが、結果的にロボアドの成績を上回ることも十分にあり得ます。どうしても気になるなら、1万円ずつ、ロボアドとインデックス投資で同時に積み立て投資をスタートさせて比較検討するのも手でしょう。
ロボアドは投資先の選定や資産配分の調整を自動で行ってくれるので、「何を選べばいいか分からない」「時間がない」という方に、投資を始める一歩としてはよいサービスかもしれません。
ただ、完全にお任せにしてしまうと割高ですし、逆に、マメにチェックして頻繁に売買するのも悪手です。最初の商品選びは自分でしっかり行い、あとは基本的にほったらかしで長期保有する。買った後のケアより、買う前が肝心なのです。
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横山 光昭(よこやま・みつあき)
家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。
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桜田 容子ライター
明治学院大学法学部を卒業後、男性向け週刊誌、女性向け週刊誌などで取材執筆活動を続け、気付けばライター歴十数年目に突入。にもかかわらず、外見は全然ライターっぽく見られない。趣味はエアロビとロックンロールと花見など。
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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭、ライター 桜田 容子)
