記事のポイント
クリエイターはW杯で、広告の拡散役から「放送そのもの」へと存在感を高めた。
施策の成否は起用人数ではなく、独自のアクセスや個人の物語、エンゲージメントの質が左右した。
クリエイターの本質的な強みは、大会中の予測不能な出来事にブランドが素早く対応できる柔軟性にある。


サッカー・ワールドカップ北中米大会が幕を閉じ、お決まりのマーケティング分析記事の時期がやってきた。今回、その焦点は予想どおりクリエイターに定まった。クリエイターは今大会、放送局にとっても広告主にとっても、ファンダムをつなぐ主要なパイプ役のひとつだった。

彼らがそれをどう成し遂げたのかは、多くの示唆に富む。というのも、マーケターにとってワールドカップの本質はサッカーそのものではないからだ。それは、マーケティングの未来を占う試金石なのである。

そのテストで明らかになったことは、以下のとおりだ。

課題はクリエイターを大規模に管理すること



それが、今大会最大規模のクリエイター施策から見えてくる本当の論点だ。日用品大手のユニリーバ(Unilever)は、120以上の市場、35以上のブランドにまたがって、5万人のクリエイターと協働した

この数字はクリエイターがブランド成長に及ぼす影響力を裏付けているが、これほどの規模を実現するのはマーケティング上の判断ではなく、インフラの問題である。

これほどの規模のクリエイターネットワークを、人手とスプレッドシートでブリーフィングし、審査し、契約し、効果測定できる人間の組織など存在しない。ユニリーバの答えは、「関係性」を除くすべてを自動化することだった。

いまやAIが、発掘、審査、ブランドセーフティのスクリーニング、そしてブリーフィングを担い、自社製品をすでに好意的に語っている人々をインターネット上でくまなく探し出している。その結果、ユニリーバのクリエイターネットワークは1万人から約30万人にまで拡大した。

だが、その規模は諸刃の剣でもある。ワークフローを自動化すると、クリエイターは承認を得るための最速ルートは、指示書に厳密に従うことだと学ぶ。

指示書に合わないものは、フラグが立てられたり、遅延したり、却下されたりする。同じ仕組みが、コンプライアンス上の悪夢を高速かつ大量に処理することにもなっている。

クリエイターは、訓練を受けたマーケターでも規制の専門家でもない。彼らは台本のない主張をリアルタイムで発している。そして、スキャンダルを引き起こすには、そのうちのたったひとつで十分なのだ。

質(とアクセス)は、量そのものに勝る



たしかに、30万人のクリエイターというのは、プレスリリースには映える数字だ。だが、あなたはたった1つの投稿でバズったことがあるだろうか。

マーケターは、ここにあるニュアンスを心に留めておく価値がある。クリエイターをリーチのための手段として扱えば、得られるのはインプレッションレベルの成果だ。

しかし、彼らをブランドが持っていないスキルを頼りにする真のパートナーシップとして扱えば、パフォーマンスは自然と向上する。

たとえば、ヴォジーニャの愛称で親しまれるようになった、ジョジマール・ジアスだ。彼は、カーボベルデにとって史上初のワールドカップの試合となったスペイン戦で、ゴールマウスでの活躍によってヒーローとなった。

ソーシャル分析企業のスプラウトソーシャル(Sprout Social)によれば、彼のインスタグラムのフォロワーは大会期間中に5万人から2760万人へと急増し、世界でもっともフォロワーの多いゴールキーパーとなった。

だが、彼のフォロワー数は、ここではもっとも興味を引かない数字である。

重要なのは、40%というエンゲージメント率であり、これは同等のクリエイターの平均である2.07%の20倍近くにあたる。この急増によって、彼の最近の投稿は、報じられるところでは5630万ドル(約84億円)のアーンドメディア価値に相当するものとなった。

「ワールドカップは、ピッチ上のドラマだけにとどまるものではない。それは、文化、サッカー、そしてこの競技のなかにある多様性を祝う祭典なのだ」と、グローバルなクリエイターエージェンシーHYDPの創業者であるトーマス・マークランド氏は語った。

「勝利を収めたブランドは、試合のチケットやVIP体験だけにとどまらないものを軸にキャンペーンを組み立てた。TikTokの『クリエイター特派員(Creator Correspondents)』は、ファンの疑問に答え、その秘密を明かすことで、新規・既存双方のファンを大会へと引き込んだ。ナイキ(Nike)は、草の根のサッカーを称えるべく、ストリートフットボールのシリーズ『Toma』を主要な試合に合わせて展開した。そしておそらく最大の見どころは、ナイキによるトラヴィス・スコットモデルのファントム(Phantom)ブーツのローンチであり、アイ・ショー・スピード、チャニング・テイタム、ディラン・ペイジ、プラークボーイマックスと組んで、全員がハーランドの扮装でノルウェー戦に足を運んだのだ」。

要するに、こうした瞬間を決定づけるのは、イベントそのものであることはめったにない。それは、イベントと並走する個人の物語なのだ。

コンゴ出身のファンであるルムンバ・ベアは、ただ全試合を通じて彫像のように立ち尽くしていただけで、国民的な誇りの象徴となった。スプラウトソーシャルによれば、彼はインスタグラムにピン留めした3つの投稿を合わせて、5億回を超えるエンゲージメントを積み上げている。

彼は、インスタグラムで1280万回、TikTokで1250万回、Facebookで287万回と各プラットフォームを横断して2800万回の再生を集め、フォロワー数は20万人近く増加した。

未来の放送のためのゲームプラン



スポーツはいまや、競技そのものだけでなく、ファッション、舞台裏のドラマ、選手たちの個性など、あらゆる理由で注目を集め、フィードのハイライトからpodcastの要約まで、さまざまな方法で楽しまれている。

しかし、そうした要素を取り除いて考えてみると、スポーツは根本的には共有体験であることに変わりはない。クリエイターは、まさにその共有体験をもっとも明確に体現した存在といえるだろう。

納得できないという人もいるだろう。国際サッカー連盟(FIFA)の「クリエイター特派員」プログラムでは、主にTikTokのクリエイター30人に、公認メディアに匹敵するアクセス権が与えられ、ピッチサイド、公開練習、スタジアムのトンネル、ミックスゾーンなど、あらゆる場所へのアクセスが可能になった。

そして、アイ・ショー・スピードはさらに一歩進んだ。FIFA、FOXスポーツ(Fox Sports)、YouTubeとの契約により、彼は公式の試合映像フィードを使用する権利を手にし、そこに彼のいつもの混沌としたリアクション実況を重ねたのである。

数字がそのアクセス権を正当化しており、ポルトガルの開幕戦の彼の配信は920万人の視聴者を集め、Foxが放送した同試合の視聴者数を上回ったと報じられている。

「クリエイターが、放送の周辺に位置する『増幅レイヤー』から、事実上『放送そのもの』へと変わった初めてのワールドカップだった」と、MKTGスポーツ・プラス・エンターテイメント(MKTG Sports+Entertainment)のシニアバイスプレジデントであるアマー・シン氏は語った。

「観客の半数は、実際のリプレイを見る前に、ストリーマーのリアクションを通じて大きな瞬間を体験している」。

これは、放送局がやり方を間違えたという意味ではまったくない。増えつつあるある種のファン層が、ただ違う見方をしたいと望んでいる、ということなのだ。

「これは『クリエイターのワールドカップ』だった。ご存じのとおり、YouTubeは25人のクリエイターを送り込んだのだから」と、ホエラー(Whalar)の共同CEOであるエマ・ハーマン氏は語った。

「彼らのストリーミング視聴数は、従来型のメディア企業のすべてを上回った。しかも、彼らは独自の解説やストーリーテリング、日々の出来事への反応など、素晴らしい方法でそれを実現している。人々が追いかけ、楽しんでいるのはまさにそれであり、それこそが今回のワールドカップの物語だった。それは基本的に、クリエイター主導の放送だったのだ」。

アクセスは、いまなおリーチに勝る



マーケターは、30万人、5万人、あるいは今月の業界誌の発表数など、どれだけのクリエイターと協業したかを自慢したがる。だが、クリエイターの単純な数は、リターンがその数に見合って伸びないのであれば、虚栄の指標にすぎない。

そのもっとも明快な例のひとつが、ビール大手のミケロブ・ウルトラ(Michelob Ultra)だ。クリエイターIQ(CreatorIQ)の分析によれば、同社は最初の3週間だけで、947件の投稿にわたってわずか346人のクリエイターと協働した。これは、より多額を投じた企業が動かしていた規模のごく一部にすぎない。

それでもなお、1150万ドル(約17億円)のアーンドメディア価値を、さらにその上に重ねた有料増幅による2億5300万インプレッションを引き出した。その差を生んだのは、予算でも物量でもなかった。それは、たったひとつの関係、メッシだった。

これは、マーケターが頭を悩ませるトレードオフである。クリエイターを広く網にかければ、インプレッションレベルの成果は得られる。というのも、それは基本的に、メディアプランを買うのと同じやり方でリーチを買っているにすぎないからだ。

一方で、うまく配置されたたったひとつのアクセスポイントは、それに紐づく人物がその瞬間にとって本当に重要でありさえすれば、そのすべてを上回りうる。ミケロブに必要だったのは規模ではない。必要だったのは、ふさわしい名前だったのだ。

ここで本当に問われるスキルは、「明確さ」である。ノット・ユア・マザーズ(Not Your Mother's)のCMOは、クリエイターを試合に連れて行くことを軸に組み立てた同社のマイアミでのポップアップが、そもそも本格的なROI狙いの施策では決してなかったと率直に語った。

それは「会話」を狙った施策だった。というのも、ファンであろうとなかろうと、誰もがワールドカップの話をしているからだ。こ

れは、ブランドに売り込みをかけるクリエイターにとって有益な知見である。一部のクライアントが買っているのは、UGCと文化的なプレゼンスであって、パフォーマンス指標ではない。自分がどちらを提示しているのかを、きちんと把握しておくことだ。

もっとも賢いプレイヤーはバズを目標にしない



グローバルイベントにおけるクリエイター戦略の価値は、爆発的な拡散力にあるのではなく、固定的なメディア買い付けでは決して得られない「柔軟性」にこそある。

VMLライブ(VML Live)のグローバル・チーフ・クライアント・オフィサーであるチャーリー・ウェイド氏は、大会の序盤にDigidayに対してこの点を明快に語った。

すなわち、クリエイター戦略は、数カ月前に計画されたデジタル買い付けにはとうてい真似できないかたちで、ブランドが大会期間を通じて関連性を保ち続けることを可能にする、と。

ワールドカップが実際にはじまってしまえば、その列車はもう駅を出てしまっている。従来型のメディアプランは、キックオフの前に固定されてしまう。それは、衝撃的な結果にも、突如ブレイクした選手にも、大会3週目に爆発的に広がった瞬間にも反応できない。だが、クリエイターにはそれができる。

これこそが、6週間にわたる大会においてクリエイターを起用する現実的な論拠である。彼らがより「本物らしい」からでも、より安価だからでもない。

大会がすでに進行中で、なおかつプランを変更しなければならなくなったとき、ブランドに残された唯一の手段がクリエイターなのだ。

[原文:Five Things the World Cup Taught Marketers About Creators]

Seb Joseph and Alyssa Mercante(翻訳、編集:藏西隆介)