(※写真はイメージです/PIXTA)

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親と子が離れて暮らすことが一般的になり、「遠くに住む高齢の親の様子」がわからない方も増えています。少し前に会ったときは元気でも、気づいたら手遅れになっている可能性も考えられます。「子どもに心配をかけたくない」という思いから本当の状況を隠してしまう親もいるようですが、逆にそれが子の後悔を大きくしてしまうこともあるようです。83歳父と55歳息子の事例をもとに、CFPの山粼裕佳子氏が老後に向けて必要な備えについて解説します。

一人になった年金暮らしの父に、15年間「月5万円」の仕送りを続ける息子

ミノルさん(仮名・55歳)は、都内で働く会社員です。パート勤めの妻・エミコさん(仮名・50歳)と2人で暮らしており、子どもはいません。世帯年収は1,100万円です。

住まいは、駅近にある中古マンション。25年前、結婚を機に通勤に便利な好立地に購入しました。住宅ローンはすでに完済しており、生活には余裕があります。

こうしたなか、ただひとつ、ミノルさんが気がかりなことがあります。それが、実家で暮らす父・カズオさん(仮名・83歳)のことです。

ミノルさんが物心ついたときから、両親は小さな中華食堂を営んでいました。地元では炒飯が美味しいと評判で、長い間二人三脚で頑張っていましたが、15年前に母・ミドリさん(仮名)が亡くなったことをきっかけに、店を畳むことに。

それ以降、カズオさんは年金暮らしとなりましたが、自営業だったことから年金は老齢基礎年金の7万円と、若いころ知人の勧めで入った個人年金3万円の計10万円のみ。

ミドリさんが健在だったころは2人の年金と店の売上で人並みの生活ができていましたが、カズオさん一人になると心許ない状況です。

そこでミノルさんはこの15年間、毎月5万円の仕送りをしてきました。

「仕送り、もういらないよ」父が放った“意外なひと言”に覚えた胸騒ぎ

こうしたなか、最近少し驚いたニュースがありました。電話口のカズオさんによると、3万円の個人年金が85歳で終了し、その後は月7万円の基礎年金のみになるというのです。

「親父の個人年金は、あと2年か。仕送り額を増やしてやらないと」と考えていると、カズオさんは言いました。

「……来月から、仕送りはもういらないよ」
「えっ、なんで?」
「……」

聞き返しても、明確な答えは返ってきません。ミノルさんは、胸騒ぎをおぼえました。

というのも、ミノルさんが実家に顔を出すのは年に1回の正月のみ。ミノルさんは車を持っておらず、電車を乗り継いで3時間かけて実家に通っていたのですが、「お前も忙しいだろ、無理するな」というカズオさんの言葉に甘え、ここ数年は帰省が後回しになっていたのです。

不自然な返答に違和感をおぼえたミノルさんは、様子を直接たしかめようと、その週末、予定を変更して実家に戻ることにしました。

タンスも鏡台も食器棚もない…実家で目撃した〈衝撃的な光景〉

玄関を開けると、すぐに家の様子がこれまでと違うことに気がつきました。整理整頓されすぎているというより、明らかに物が少ないのです。

もともと綺麗好きでしたが、それでも違和感があります。カズオさんのいる奥の居間兼食堂に足を踏み入れると、亡き母が嫁入り道具として持ってきたタンスや鏡台などの家具がすっかりなくなっており、食堂にあった大きな食器棚も見当たりません。「おう、どうした。珍しいな」と気丈に振る舞うカズオさんに、ミノルさんは言いました。

「親父、いったいどうしたんだ? なんにもないじゃないか」

カズオさんはしばらく黙っていましたが、観念したように口を開きました。

「実はな、お前に心配かけたくなくて黙ってたんだが、俺もう長くないんだ。……来月、入院することになってな。入院といっても緩和ケアだ。余命は長くて半年くらいといわれてる」

なんと、カズオさんは自身の最期を見据え、密かに「終活」で身辺整理を進めていたというのです。

「そんな……なんでいってくれなかったんだよ」

まさかの事実に、ミノルさんは言葉を失いました。

父の余命を知り、息子は「最後の親孝行」をすることに

「もっと頻繁に様子を見に来ていれば、親父の変化に気づけたのに……」

ミノルさんは後悔しています。毎月仕送りを続けることで、「これが親孝行になっている」と、どこかで安心してしまっていたのです。カズオさんが病気や余命について誰にも相談せずに一人で終活を進めていたと思うと、胸が痛みます。

告白を受け、ミノルさんは父との時間を最優先にすることに。それから、週末はカズオさんとできるだけ多くの時間を共有しました。

同時に、事務的な手続きやお金回りの整理もミノルさんが引き継ぎました。カズオさんの預貯金や有価証券、生命保険の有無などを確認していると、ミノルさんが送っていた仕送りの大半はそのまま貯金されていたことが判明。息子を想い、父は倹約生活を続けていたのでしょう。

入院後の医療費についても調べた結果、「高額療養費制度」が利用できるかもしれないこともわかりました。

余命宣告と看取り…「最後の親孝行」が自身の老後を考えるキッカケに

それから7ヵ月後。カズオさんは、ミノルさん夫婦が見守るなか、静かに息を引き取りました。最後の数ヵ月は多くの時間を父と共有でき、穏やかでいい時間が過ごせたそうです。

そうはいっても、ミノルさんのなかにまったく後悔がないわけではありません。心のどこかに「もう少し早く気がついていれば……」という思いが消えません。

しかし、カズオさんの看取りをきっかけに、ミノルさんは自身の老後について真剣に考えるようになりました。あと数年で定年を迎え、人生の第2章がスタートするミノルさん。自分たち夫婦の老後設計を本格的に見直す必要性を感じています。

【CFPの助言】「あのとき気づいていれば…」老後の後悔を減らす2つの備え

カズオさんの看取りを経て、自身の老後の課題が具体的に見えてきたミノルさん。ここからは、ミノルさんのように定年を控えた世代へ向けて、老後の後悔を減らすための2つのポイントを解説します。

1.「仕送り資金」を老後の資金へシフト

一見すると資金に余裕があるように見える家計でも、子どもがいない世帯では教育費がない分可処分所得が多くなりやすく、現役時代の生活水準のまま老後生活にシフトしてしまうことがあります。

定年後の世帯収入と、新たなライフプランに基づく支出を予測して、詳細なキャッシュフロー表を作成してみましょう。数字で可視化することで安心感を得られます。

ミノルさんの場合、これまで仕送りしてきた5万円を旅行や趣味などに使うのか、あるいは将来のために運用するのかなどの検討もできます。

2.医療・介護リスクへの備えを夫婦で進める

子どもがいない夫婦の場合、将来どちらかが倒れた際や介護が必要になったときのために、サポート体制を早めに作っておくことが重要です。具体的には、どのような医療や介護を望むのか夫婦で共有し、資産を「見える化」しておきましょう。口座情報や保険加入状況を一覧にして、お互いが把握できるようにしておくことが大切です。

また、どちらかが一人になったあとの生活費や認知症リスクに備えて、必要であれば後見制度の活用も視野に入れるとよいでしょう。

経済的な支援だけでなく、時間を共有する大切さを知ったからこそ、自分たちの最期についてもリアリティを持って向き合えるようになったミノルさん。まずは夫婦で「これらの暮らしとお金」について話し合い、必要な対策を洗い出すことにしたそうです。

山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®