お金、こんなに持っていても意味なかったな…通帳残高1億円の66歳男性。真夏に死の淵で激変した人生観。1年後、再会した元同僚が「振り幅」に驚愕したワケ【FPの助言】
老後の不安に備えて、ひたすら倹約と貯蓄に励む人は少なくありません。しかし、目標額を達成し、いざセカンドライフを迎えたとき、新たな悩みに直面するケースも。本記事では、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が、吉田幸助さん(仮名)の事例とともにお金の「貯め方」以上に重要な「使い方」について解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
倹約家で真面目な人生、気づけば貯蓄は1億円超え
現在、66歳の吉田幸助さん(仮名)は、大学卒業後に中堅企業に就職し、定年まで真面目に働きました。両親はすでに他界していますが、吉田さんは現在も生まれ育った実家で暮らしています。これまで、いい縁に恵まれる機会がなく、ずっと独身です。
実家でずっと暮らしていることから住居費がかからず、これといった趣味もなかったため、給与やボーナスのほとんどを使うことなく貯蓄に回していたそうです。
60歳で定年を迎えたあとも、雇用延長で63歳まで勤務。その後は、ほかの仕事に就くこともなく過ごしていました。退職時の資産は、これまでの貯蓄と退職金を合わせて約1億円。年金を受け取るまでの63歳からの2年間は、貯蓄を取り崩して生活費に充てていましたが、もともと倹約家だったこともあり、大きく資産を取り崩すことはありませんでした。
健康づくりを兼ねて、毎朝のランニングだけは欠かさず続けていた吉田さん。ただ、それ以外に特別な運動をするわけでもなく、日中は読書や映画鑑賞などを静かに楽しむ日々だったといいます。
そんなある朝のことです。いつもどおりランニングに出かけましたが、その日は朝から強い日差しが照りつけ、気温はすでに30度超え。走っている途中で急に気分が悪くなり、吉田さんはそのまま路上で倒れ込んでしまったのです。
幸いにも数分後、倒れている吉田さんに通行人が気付き、救急搬送されました。医師によれば「もう少し発見が遅れていたら、命も危なかった」というほど危険な状態だったそうです。
増え続ける単身高齢男性と、熱中症という身近なリスク
年々未婚の人が増えています。厚生労働省の「令和7年度版厚生労働白書」では、1990年に5.57%だった50歳男性の未婚率は、2020年には28.25%と約5倍となっています。将来の推測としては、2040年には30.43%に達するとされています。
また総務省消防庁が調査した「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」によると、累計搬送者数は10万510人と、平成20年以降で最多となりました。なかでも65歳以上の高齢者は57.1%を占め、発生場所は「住居(38.1%)」に次いで「道路(19.7%)」が多くなっています。救急搬送された人の63.1%は軽症で、外来診療のみで帰宅できていますが、117人が亡くなっているようで、高齢者の熱中症対策は非常に深刻な課題です。
吉田さんも今回の救急搬送で、3日間の入院を余儀なくされました。そして、病室で意識が戻ったとき、つくづくいままでの人生を後悔したと振り返ります。
「これまで老後のためにと無駄遣いもせず、貯蓄をしていました。ですが、今回のことで、もし自分が死んでしまったら、こんなに持っているお金は、なんの意味もなくなってしまう。これからは自分のために使うことや生活環境を変えよう」
死の淵をさまよったことで、吉田さんは強くそう決意し、今後の資産の「使い方」について当事務所へ相談に来られました。
FPからの提案と、1年後の驚くべき
吉田さんからこれまでの経緯やご心境を詳しくお聞きしたうえで、筆者はまず「シルバー人材センターへの登録」を提案しました。当時の吉田さんは、社会や人との関わりがほとんどない状態でした。「お金を稼ぐため」ではなく、「人と接するため」に、週3日ほどのんびり働いてみてはとお話ししたところ、吉田さんも納得されました。
同時に、今後のお金の使い方に安心感を持ってもらうため、キャッシュフロー表を作成しました。「もし年間300万円ずつ取り崩していったら、何歳のときに資産がなくなるのか」を可視化したのです。実際には、吉田さんは年間約200万円の年金を受け取っているため、300万円も取り崩す事態にはならないでしょう。しかし、将来に漠然と抱えている不安は、具体的な数字や表でシミュレーションを行うことで払拭できます。視覚的に「これだけ使っても大丈夫だ」と理解することで、必要以上の節約をしなくなるケースは多いです。
アドバイス後、吉田さんはすぐにシルバー人材センターで働きはじめました。それと並行して、趣味を見つけるべく、さまざまな教室を見学して回ったそうです。
そのなかで特に気に入ったのが、絵画教室と料理教室でした。いまでは、シルバー人材センターで知り合った仲間とたまにランチへ行ったり、趣味の教室で出会った人を自宅に招いたりしていると、嬉しそうに報告してくれました。
熱中症で倒れた際、お見舞いに来てくれた元同僚と1年ぶりに再会したときのこと。会社員時代は真面目で口数が少なかった吉田さんが、明るく社交的になっている姿を見て、元同僚は「その振り幅に驚きを隠せなかった」と笑っていたそうです。
〈参考〉
厚生労働省:令和7年版厚生労働白書「図1-3-4 50歳児の未婚率の推移」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/25/backdata/01-01-03-04.html
総務省消防庁:令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況
https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r7/heatstroke_nenpou_r7.pdf
吉野 裕一
FP事務所MoneySmith
代表

