困りごとに直面したとき、どうすれば心を軽くできるのでしょうか。今回話を聞いたのは、53歳でスペインへ渡り、その後ジョージア、タイと暮らしてきたRitaさん(50代)。日本にいた頃は「自分のことは自分で解決するもの」と思っていたそうですが、海外での暮らしを通じて、「人に頼る力」も少しずつ身につけていったといいます。詳しく伺いました。

海外の人との距離感に驚き

最初に驚いたのは、人との距離感でした。スペインでもジョージアでもタイでも、スーパーや公共施設で店員さんや職員さんから自然に声をかけられることがよくあります。

【写真】海外のスーパーでは気軽に声を掛けられる

売場で商品を見比べていると、「こっちの方が人気よ」と店員さんが教えてくれたり、「なにを探しているの?」と声をかけてくれることもありました。ある日、殺虫剤売場でどれを買うべきか悩んでいたときには、近くを通った人が「こっちの方がよく効くよ」と教えてくれたことも。また、スーパーでは高い棚の商品が届かずに困っている年配のお客さんから、「それ取ってもらえる?」と声をかけられたこともあります。

日本にいた頃は、知らない人と会話をする機会はそれほど多くありませんでした。でも海外では、「ちょっと聞く」「ちょっと頼る」がとても自然だと感じています。

「できません」のハードルが低い

海外生活で感じたもうひとつの違いは、「できない」と言うことへのハードルの低さです。

日本にいた頃の私は、少しオーバーかもしれませんが、約束したことは相当の理由がない限りは守らなければならない、と思っていました。体調が悪くても、疲れていても、気が進まなくても、とにかくその予定をこなす。そんな癖があったように思います。

ところが海外では、「今日は行けない」「また今度ね」と言うことがとても自然です。理由を細かく説明しなくても、「そうなんだ、じゃあまたね」で終わることも少なくありません。雨が降っているから今日はやめる。疲れたから明日にする。そんな柔軟な考え方が生活に溶け込んでいました。

最初は驚きましたが、その姿を見ているうちに、私自身も少しずつ変わっていきました。以前なら、「今日もできなかった」と落ち込んでいた場面でも、「今日はここまでがんばった」「続きは明日」と思えるようになったのです。

約束を守るのは大切なことですが、体調の悪いときまで“ちゃんとしなきゃ”と縛られていた気持ちが、少しずつラクになっていきました。

私自身も、すぐ人に聞くようになった

海外生活を始めたばかりの頃は、なんでも自分で解決しようとしていました。

商品が見つからない。駅の乗り換えがわからない。役所の手続きが理解できない。そんなときも、まずはスマートフォンで解決策を探す日々。でもある日、ふと思いました。「みんなに聞かれているように、私もだれかに聞いてみる?」

それからは、探し物があればスタッフの方に尋ねる。手続きがわからなければ受付の人に相談する。そんなちょっとした勇気で、物事が驚くほど早く解決することが多くなりました。

もちろん言葉が完璧に通じるわけではありません。でも身振り手振りや翻訳アプリを使えば、意外となんとかなるもの。その経験を何度も重ねました。

今はたとえひとりでいても、「自分ひとりで抱え込まなくてもいいもの」と思っています。

だれかに聞くだけでも、心が軽くなる

聞いたからといって必ず解決するわけではありません。聞いてもわからないことはあります。手続きが進まないこともあります。それでも、一度相談すると不思議と気持ちが軽くなります。「できることはやった」そう思えるからです。

以前は、ひとりで悩み続けていました。モヤモヤを抱え込み、「どうしよう」を何日も繰り返していました。でも今は、早々に聞くことで、「聞いてみてダメなら仕方がない」ときり替えられるようになりました。たったこれだけでも、心の負担は随分違うと感じています。

海外生活で知った「だれかに頼ること」

海外生活をきっかけに、私は「だれかに頼ること」も生きる知恵のひとつだと思うようになりました。
なんでもひとりで抱え込むのではなく、わからなければ聞く。困ったときには相談する。そんな選択肢が、しっかり定着してきました。

そして不思議なことに、人を頼ることで会話が生まれることもあります。「どこから来たの?」「ここにはどれくら滞在してるの?」そんななにげないやりとりが、その日の思い出になることもあります。

以前の私は、「人に迷惑をかけないこと」が大切だと思っていました。でも海外生活を通じて、「人を頼ること」もまた、人とつながる方法なのだと知りました。ひとりでがんばり続けるだけでは見えなかった景色を、海外生活が教えてくれたのです。