記事のポイント
2026年W杯は、メッシのフレグランスブランドやアックスなどのメンズビューティーブランドにとって巨大な販促機会となっている。
アックスは公式スポンサーとして限定商品やインフルエンサー施策を展開し、若年男性の「セントマキシング」需要の取り込みを狙う。
レジェンド選手が築いたメンズグルーミング文化を背景に、ブランド各社は数十億人規模の視聴者を抱えるW杯の熱狂を活用している。


リオネル・メッシがカンザスシティのアローヘッド・スタジアムで現地時間の6月16日、自身6回目、そしておそらく最後となるワールドカップに登場した。

4年前、この生けるサッカーの伝説はアルゼンチン代表を率い、2022年のカタールでのワールドカップで優勝に導いた。そしていま、アルゼンチンは北米を舞台に開催される2026年大会で、この国際サッカートーナメントの初戦をアルジェリアと戦った。38歳になったメッシは、いまなお南米のこの代表チームにおいて誰もが認めるスターである。

メッシ旋風に乗るフレグランス商戦



メッシは、カンザスのアルタ・ビューティー(Ulta Beauty)店舗にも登場する予定だ。といっても、ちょっと変わった形で。

6月12日、このサッカースターの名を冠したフレグランスブランドが、「メッシ・エリクサー(Messi Elixir)」フレグランスの発売を記念したプレゼント企画を開催する。選ばれた来場者は、メッシのフレグランスグッズを手に入れたり、サイン入りのメッシのユニフォームが当たる抽選に応募したりできる。

「メッシ以上に有名で、エネルギッシュで、人を惹きつける人物はいない」と語るのは、フレグランス流通企業のシェラルヴェン(Sheralven)でブランド・小売戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるクリスティン・ブラウ氏だ。シェラルヴェンは2024年、最初のメッシのフレグランスをJCペニー(JCPenney)で発売した。

2026年のワールドカップを目前に控え、同ブランドは4月に「メッシ・エリクサー・パルファム・インテンス(Messi Elixir Parfum Intense)」を発売し、アルタ・ビューティーへと販路を広げた。

「彼はインスタグラムだけでも5億人のフォロワーを抱えている。だから我々は、これを活用しないのは極めて愚かなことだと考えた」。

4年に一度開催されるワールドカップは、世界最大級のスポーツイベントのひとつであり、世界中のサッカー選手やファンに、自国のチームが栄冠を勝ち取る瞬間を目にする一生に一度の機会を与える。そして世界中から数十億人の視聴者が観戦するなか、ブランドにとっても、自社製品をサッカーがかき立てる情熱や忠誠心と結びつけることのできる、またとない機会となっている。

カタール大会から4年、その対象にはいまや、サッカーの力を使って進化するメンズビューティーの消費者層にリーチしようとするグルーミングブランドも含まれている。

「ワールドカップは、1カ月のあいだに50回分のスーパーボウルが一気に押し寄せるようなものだ」と、シェラルヴェンのプレジデント兼CEOを務めるスティーブン・コス氏は語る。

ユニリーバとアックスの大規模戦略



この熱狂に加わろうとしているのが、ユニリーバ(Unilever)だ。このパーソナルケア・ビューティー大手は、2026年に初めて男子FIFAワールドカップの公式パーソナルケアスポンサーを務める。同社は、ドクター・スクワッチ(Dr. Squatch)やダヴ(Dove)といった傘下ブランドを通じて、大会に合わせた限定商品やマーケティングキャンペーンを展開する。

英国では「リンクス(Lynx)」の名で知られるユニリーバ傘下ブランドのアックス(Axe)にとって、この大会は「セントマキシング(scentmaxxing)」トレンドに乗ろうとする若い男性ファンとつながる好機だ。

このフレグランス・グルーミングブランドは、ワールドカップのトロフィーをかたどったパッケージで、トレンドの「マシュマロ・スモーク(Marshmallow Smoke)」を含む3種類の限定の香りを発売する。さらにメキシコにインフルエンサー向けのスペースを設け、現地のコンテンツクリエイターが大会期間を通じて撮影できるようにする。

「我々はブランドを文化のなかに根づかせる必要がある。常に考えているのは、いかにしてもっとも関連性の高い形で、しかも大規模にオーディエンスを引き込むかということだ」と、アックス/リンクスのグローバルブランドディレクターを務めるキャロライン・グレゴリー氏は語る。

「我々は大規模なグローバルブランドであり、ワールドカップは、ほかの多くの手段では実現できない規模でそれを可能にしてくれる」。

ファンをさらに引き込むため、アックスは、ワールドカップ出場選手の人気コレクションステッカーアルバムを手がけるイタリア企業のパニーニ(Panini)と提携し、限定の香りを再現した、スクラッチ&スニフステッカー(こすると香るステッカー)を制作した。アックスは、フレグランスファンがステッカーに注ぐのと同じ収集熱を、このワールドカップ限定の香りにも向けてくれることを期待している。

「我々はこれをFOMO(取り残されることへの不安)と呼んでいる。若い子たちが自分のバスルームの棚に置きたくなるようなデザインを手に入れる、そんな感覚だ」と、グレゴリー氏は語る。

中小ブランドのゲリラ的アプローチ



ワールドカップという喧騒のなかで存在感を示すうえで、すべてのブランドが多国籍企業や世界的に有名なアスリートの後ろ盾を持っているわけではない。

オーストラリアのヘアスタイリストであるジョーイ・スカンディッツォ氏とアーロン・チャン氏は、ワールドカップの熱狂を利用して自分たちのメンズヘアスタイリングブランド「キングス・ドメイン・メルボルン(Kings Domain Melbourne)」を米国市場で立ち上げるにあたり、いわゆる「ゲリラマーケティング」と呼ぶ手法を採用している。

このオーストラリア発のブランドは、大会開幕からの3日間、ニューヨークでポップアップのスタイリングセッションを開催する。来場者は、アルゼンチンのフリアン・アルバレスやノルウェーのマルティン・ウーデゴールといった、トッププレイヤーにインスパイアされたヘアスタイルから選ぶことができる。

スカンディッツォ氏とチャン氏は2022年、若い男性が高品質なヘアスタイリング製品に求める期待に応えるべく、カールクリームやボリュームアップパウダーといった製品を引っさげて、オーストラリアで初めてブランドを立ち上げた。

「男性消費者はいまや目が肥えている。彼らは賢い買い手であり、ふさわしいものを求め、ブランドの一員になりたいと考えている」と、スカンディッツォ氏は語る。

「彼らは、女性が何年も何年も前からやってきたことを追いかけているのだ」。

サッカースターが築いたメンズ美容の素地



世界的なサッカースターたちは、メンズグルーミングを取り巻くこうした壁を打ち破る手助けをしてきた。

イングランドのデビッド・ベッカムは2000年に頭を丸めて世界的な熱狂を巻き起こし、ブラジルのロナウド・ナザーリオは、額に巨大なソウルパッチ(口ひげの一種)のようなものを乗せたような髪型で2002年のワールドカップに現れ、大きな話題となった。なお、ブラジルはそのまま優勝し、ロナウドは大会得点王に輝いている。

こうした選手たちが引退したいまでも、その象徴的なイメージ、そして彼らのヘアスタイルは、世代を超えたファンにとって彼らを色あせない存在として記憶に留めている。

「うちの子どもたちはベッカムが誰なのかを知っている。ベッカムが活躍していた頃には、まだ生まれてもいなかったのに。ベッカムはヘアスタイルで象徴的な存在だった。ワールドカップのたびに、彼は新しい髪型をしていた」と、スカンディッツォ氏は語る。

「サッカーは世界共通の競技だ。世界の舞台であり、世界でもっとも視聴されているスポーツだ。だからこそ、その影響力はこれほど強いのだと思う」。

FIFAによると、2022年のカタール大会は、大会を通じて32チームの試合を観戦した50億人のファンを集め、フランスとアルゼンチンの決勝戦では過去最多となる15億人の視聴者を記録した。2026年大会は、3カ国にまたがって48チームが競い合う拡大方式となり、さらに多くの視線を集める態勢が整っている。

大会を覆う政治的緊張と変わらぬ集客力



一方で、2026年のワールドカップは、世界中の選手、関係者、ファンが米国に到着する際にトランプ大統領の厳格な国境政策に直面しており、すでに物議を醸している。

ソマリア人審判のオマール・アブドゥルカディル・アルタン氏は、大会を前にマイアミ国際空港に到着した際、米国への入国を拒否された。数十人のモロッコ人チケット保有者は入国ビザを拒否され、イラクのスター選手アイメン・フセインは、シカゴ・オヘア国際空港で数時間にわたって尋問のために拘束された。カナダ、メキシコ、米国が共同で開催を担うものの、大半の試合は米国で行われる。

こうした緊張は、大会がはじまろうとしているいまも解消されていない。ワールドカップは、その歴史を通じて地政学的な論争と無縁だったことはない。しかし、どの大会でもたしかなことがひとつある。ファンは必ず観戦する、ということだ。

「ワールドカップをめぐっては少々ざわついたところもあるが、いったん米国ではじまれば、とてつもなく盛り上がると思う。すでにあらゆる広告が目につきはじめているし、さまざまな動きが起こりはじめている。米国はこれを大舞台の中心に据え、見事に成功させたいと思っているのだ」と、スカンディッツォ氏は語る。

[原文:The men's grooming opportunity at the World Cup]

Emily Jensen(翻訳、編集:藏西隆介)

Image via Messi Elixir