選手を背番号で呼び、専門用語も使わない それでも本田圭佑のサッカー解説が面白すぎるワケ
オランダ戦を解説
日本時間の6月15日、アメリカ・ダラススタジアムにてワールドカップ北中米大会の日本とオランダの一戦が行われた。日本代表は強豪のオランダを相手に二度のビハインドを許しながらも、終了間際の劇的なゴールなどもあり、2対2の引き分けという結果に持ち込み、勝ち点1を獲得した。【ラリー遠田/お笑い評論家】
***
【写真】「ぴちぴちボディライン」…代表ユニフォーム姿が話題の影山優佳
この試合を扱ったNHKの中継番組で大きな注目を集めていたのが、解説を担当した本田圭佑である。かつて日本代表の一員としてワールドカップを戦い、日本人初となる3大会連続ゴールを決めた伝説的なアスリートだ。そんな彼は解説者としてもレジェンド級の存在感を示している。2022年大会でもABEMAの中継で解説を務め、数多くの名言を残してきた本田が、今大会でも持ち味を生かしていた。

多くの人にとって驚きだったのは、本田が事前に選手のデータや大会の細かいルールなどをほとんど下調べしていないように思われたことだ。オランダの選手を名前ではなく背番号で「22番」などと呼んだりしていたし、今大会から新たに設けられたハイドレーションブレイク(休憩タイム)の際にも「これ、何すか?」と素朴な疑問を口にしていた。日本中が注目する世紀の一戦の解説という大役を務める上で、最低限知っておくべき情報すら入れていないというのは、普通なら不勉強だと批判されても仕方がないところだ。
しかし、そのような意味で彼を批判する人はほとんどいなかった。なぜなら、試合そのものに対しては常に状況を的確に判断して、鋭いコメントをしていたからだ。
オランダの攻撃の中心がガクポであることを瞬時に見抜き、「1にガクポ、2にガクポ、3にガクポ」と独特の表現で警戒を呼びかけた。相手の様子を見てオランダの右サイドに攻略の余地があると判断すると、「ここがゆるい」と声をあげた。日本が失点した場面で相手選手の接触を見つけると、「押してるやん! ファールや!」と視聴者に代わって力強く抗議した。解説席にいながら、まるで自分が日本代表の一員であるかのように試合に入り込んでいた。
本田の解説が面白いのは、事前に集めた知識を披露することよりも、目の前で起きている現象を読み取ることに全神経を集中させているからだ。一般的な解説者は、選手の特徴や成績、監督の戦術的な傾向などを把握した上で、そのデータに基づいて試合で起きていることをわかりやすく説明しようとする。それに対して本田は、いまピッチ上のどこに危険があり、どこに勝機があるのかを、その場で発見して言語化していく。
「リアルな思考」の再現
視聴者が本田から受け取っているのは、整理された分析結果ではない。一流選手が試合をどう見て、何に違和感を覚え、どの瞬間に危険を察知するのかという「リアルな思考」の再現なのだ。
選手の名前を知らなくても、その選手が試合を支配していることはわかる。細かなデータを覚えていなくても、守備陣のポジションや動きを見れば攻略すべき場所は見えてくる。本田は自分自身の経験に基づいて、ピッチ上でいま何が起こっていて、どうすればいいのかを本能的に判断して、それを言葉にしている。そこにほかの解説者にはない生々しさがある。
しかも、本田は難しい専門用語を使わないので、その言葉はサッカー初心者にもわかりやすい。ガクポの動きが良いことを説明するのに「11番、めっちゃウザい」と言う。オランダ代表の身長が高いことを説明するときに「オランダはとにかくデカい。トイレも便器が高い」とわかりやすい具体例を出す。
誰にでもわかる言葉でサッカーの奥深さや面白さを表現してくれる。その上、得点シーンなどでは視聴者と一緒に感情をあらわにして興奮してみせる。サッカー中継の解説者としてこれほどふさわしい存在はいない。
本田は優等生的に情報を整理して届けるタイプの解説者ではない。試合という出来事の中に自ら飛び込み、一流選手の目線で勝負の分岐点を見つけ出し、視聴者と一緒に驚き、怒り、叫ぶ。彼が解説席にいると、中継そのものが1つのドラマになる。
彼がオランダ戦で改めて見せつけたのは、サッカーを見る目だけではなく、どんな場所に置かれても多くの人を魅了してしまう圧倒的なスター性なのだ。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
