マーク・ジェイコブス 新ラインが示す「飽和市場で埋没しない方法」

記事のポイント
マーク・ジェイコブス・ビューティーは、人気フレグランス「デイジー」を軸に5年ぶりの再始動を図っている。
新ラインでは、白黒ミニマル路線から一転し、3Dモチーフを使った大胆なパッケージへ転換した。
コティは再建計画の一環として、既存人気商品と新処方を融合したブランド復活に賭けている。
マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)が2013年に初めて自身のビューティーブランドを立ち上げてから、ビューティー業界は大きく変化した。トレンドの発信地はYouTubeからTikTokへと移り、クリームチークは消費者のメイクポーチの定番となり、フレグランスはカラーメイクを抜いて業界でもっともダイナミックなカテゴリーとなった。
再始動するマーク・ジェイコブス・ビューティー
だが5年後、マーク・ジェイコブス・ビューティー(Marc Jacobs Beauty)が帰ってきた。この伝説的なファッションデザイナーのメイクアップへの復帰は、5月28日にマーク・ジェイコブスのオンラインストアで始動し、続いて6月1日に化粧品専門店セフォラ(Sephora)のオンラインストア「Sephora.com」でも展開される。
カラフルなアイライナー、アイシャドウ、リップスティック、ブラッシュなどをそろえた新コレクションは、9月に北米・英国・オーストラリアのセフォラの店頭に並ぶ。
「楽しい時間を過ごすこと、化粧品を買い物する楽しみ、メイクをするという儀式、そうした状況で得られる喜び、それが大切だと思う。喜びや楽しさは非常に重要だと思う。特に日々のなかには、遊び心や喜びとは無縁のことがあまりにも多いのだから」とジェイコブスは語る。
中心に据えた香り「デイジー」
そして、新生マーク・ジェイコブス・ビューティーの中心に据えられたのは、おなじみの人気フレグランス「デイジー(Daisy)」だ。
マーク・ジェイコブスのフレグランス「デイジー」は、2007年の発売以来、ビューティー大手のコティ(Coty)のポートフォリオを支える柱であり、すでに数多くのフランカー(派生商品)を生み出してきた。そしていま、このデザイナーが満を持して挑むビューティーへの復帰において、共通したテーマとなっている。
「フレグランスも、ビューティーも、洋服も、アクセサリーも、プロセスはほとんど同じだ。私はいつも『見当もつかない。何をしたいのかわからない』というところからはじめる」とジェイコブスは語る。
「(ビューティーの開発では)デイジーを手がけはじめたときのことを思い返した。当時の私は、デイジーの背後にあるべき物語について抽象的なイメージを抱いていた。そして最終的に、ボトルの上部のキャップとして、とても大きなデイジーをあしらうことになった。それは私にとって『なるほど、これは筋が通っている。これはまるで(ファッションの)ショーをやるようなものだ。このシンボル、この素材、この色、それらが一体となって、ひとつの精神を映し出す』という感覚だった。そして、それこそが私がビューティーの仕事に持ち込んだもの、つまりあの種の発想に立ち返ることだった」。
新しいマーク・ジェイコブスのメイクアップラインを、すでに確立されたフレグランス部門と結びつけるため、マーク・ジェイコブス・ビューティー2.0のパッケージ全体には3Dのデイジーモチーフがあしらわれている。ぽってりとした黄色いブラッシュスティックの上部や、シルバーメタリックのパウダーブロンザーのコンパクトにもそれが見られる。デイジーオイルもまた、肌を整える成分として処方全体に配合されている。
大胆さへ振り切ったパッケージ
現代アーティストのジェフ・クーンズのバルーンアートを思わせるこの3Dモチーフは、ごつめのリップスティックの上の赤いハートや、マスカラのチューブの紫の星といった形でも登場する。これは、洗練された白黒のコンパクトがセフォラの陳列棚に溶け込んでいた、当初のマーク・ジェイコブス・ビューティーのパッケージからの大きな転換だ。いまのビューティー市場では、目立つことがいっそう不可欠になっている。
「(当初の)パッケージは黒くシンプルであるべきだと、たしかに私は感じていた。そのほうが、洗練されたビューティー製品のパッケージのあり方にずっと沿っていたからだ。つまり、よく知られたものを自分なりに表現するようなものだった」とジェイコブスは語る。
「私は(コティから)別の方向性を後押しされた。あのときの会話はこんな感じだったと記憶している。『我々はあの世界に収まりたくない。あの世界に居座りたくない。もっと破壊的で、違うことをやりたいのだ』と」。
コティがより大胆なルックスを後押しするのには理由がある。ブランドが目立つために自己主張をしなければならないほど、ビューティー市場は飽和しているからだ。
「多くのことが変わった。我々が最初にパッケージを手がけたころと、いまパッケージを手がけているあいだに、ペニスの形をしたリップスティックまで登場した」とジェイコブスは語る。2023年、メイクアップアーティストのイサマヤ・フレンチは、シルバーの金属製ペニスに収められた95ドル(約1万4250円)のリップスティックを発売した。もっとも、そのブランドはその後、男根型のケースを従来のチューブに切り替えている。
コティ再建の切り札となるマーク・ジェイコブス
遊び心あふれるパッケージとは裏腹に、マーク・ジェイコブス・ビューティーに懸かるコティの賭け金は大きい。コティは2001年からマーク・ジェイコブスのフレグランスを手がけてきたが、メイクアップラインのライセンスをLVMHから取得したのは2023年になってからだ。
2026年2月、暫定CEOのマーカス・ストローベル氏は、同ビューティー大手の最近の業績を「期待外れ」と評した。2026年5月、コティは2026会計年度第3四半期の純収益が1%減の12.8億ドル(約1920億円)になったと発表した。
マーク・ジェイコブスのファッションライン自体も移行期にある。2026年5月には、LVMHが同ブランドをWHPグローバル(WHP Global)に売却し、ジェイコブスはクリエイティブディレクターとして残留することが発表された。
コティは、同社を成長軌道に戻すための再建計画「コティ・キュレーテッド(Coty Curated)」を発表した。この計画には、ポートフォリオの見直し、たとえば、コティが2025年12月、ヘアケア大手のウエラ(Wella)の残り25.8%の株式を、投資ファンドのKKRに7.5億ドル(約1125億円)で売却したことや、すでに盤石なフレグランスのポートフォリオへの投資が含まれる。そこには、カイリー・ジェンナーのフレグランスラインや、バーバリー(Burberry)のようなデザイナーブランドのライセンスなどが含まれる。
「デイジー頼み」だけではない新ライン戦略
マーク・ジェイコブス2.0は、多くのビューティーブランドと似た戦略をとっている。既存の看板商品(ヒーロープロダクト)に頼って消費者を呼び戻すというものだ。ビューティーブランドのバス&ボディ・ワークス(Bath&Body Works)、MAC、グロッシアー(Glossier)も、ここ数カ月、既存の象徴的存在や看板商品に改めて焦点を当てようとしてきた。
だが、マーク・ジェイコブス・ビューティーは、デイジーの人気に頼りつつも、まったく新しい製品ラインアップを消費者に紹介し、それに飛びついてくれることを期待しなければならない。
こうした新製品は、2016年ごろのビューティーブームで人気を博したカラフルな発色と、パフォーマンスや持続性を求めるいまのニーズとを融合させることを狙っている。
メイクアップアーティストのトーマス・デ・クルイヴァーは、2026年2月に開かれたマーク・ジェイコブスの2026年春ランウェイショーでこれらの製品を使い、その予告編を披露した。モデルたちは大胆なベリー系のリップや、パステルブルーのアイシャドウをまとっていた。
「我々は異なるカテゴリーの製品を組み合わせている。だからテクスチャーに関しても、本当に楽しく、ルールにとらわれない」と、マーク・ジェイコブス ビューティーのグローバルマーケティングディレクターであるジュリー・パルミエリ氏は語る。
「発色とパフォーマンスに優れた製品であっても、非常に快適なつけ心地で、スキンケア成分も配合されている。これらすべてが、我々にとって、マーク・ジェイコブス独自のDNAの本当の拠り所となる『処方のマニフェスト』なのだ」。
マーク・ジェイコブス・ビューティーの再来は、消費者の高い期待のなか、セフォラの店頭に並ぶことになる。第1弾のラインにあったジェルアイペン「ハイライナー(Highliner)」や特大サイズのブロンザーをいまも覚えているファンもいる。カラフルなアイライナーやパウダーブロンザーは新ラインで復活したが、ファンがかつての第1弾のオリジナルのように気に入るかどうかは、まだわからない。
「すべては、ある一定の働きをし、ある一定のインパクトをもたらす優れた製品であることを意図して作られていると思う。だが、それを決めるのは我々ではなく、消費者だ。何がうまくいっていて、何がうまくいっていないかを決めるのは、本当に顧客次第なのだ」とジェイコブスは語る。
[原文:Marc Jacobs looks to the Daisy fragrance empire in the relaunch of his makeup line]
Emily Jensen(翻訳、編集:藏西隆介)
