「売れない時代」を乗り越え、なぜ ライブコマース は再び成長軌道に乗ったのか

Firework Japan株式会社でGlobal Revenue Operationを統括する瀧澤優作氏による全4回の寄稿シリーズ。本稿では、その第2回として、ライブコマースの歴史を紐解く。
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Firework Japan株式会社の瀧澤優作です。前回の記事では、TikTok Shopの米国における先行事例と、日本市場で予想される「共存の可能性」について解説いたしました。今回は、その考察の前提となる「ライブコマースの歴史」に焦点を当て、その進化の軌跡と、B2Cマーケターが今取るべき戦略について深掘りします。
瀧澤 優作/Firework Japan株式会社 慶應大学在学中にシリコンバレーへ留学し、2017年、創業3カ月のFireworkに7人目のメンバーとして参画。2021年よりFireworkの日本事業立ち上げを指揮。2024年までカントリーマネージャーとして、統合型動画ソリューション「Firework」の日本市場立ち上げを推進。現在はFireworkのGlobal Revenue Operationを統括。
1.日本の歴史:コロナ禍による「非対面販売」への転換
日本のライブコマースは「2つの波」を経て再調整していますが、背景には独自の消費構造があります。ライブコマースの起源は、現代のデジタルプラットフォームに限定されず、1990年代の米国におけるテレビショッピングチャンネルの進化にさかのぼります。米国QVCは1986年11月に放送を開始し、現在のライブコマースが用いるタイムセールや限定販売といった衝動買いを誘発する手法の原型を確立しました。日本においても、QVCジャパンが2000年に設立され、2001年に放送を開始するなど、ライブ販売の基盤は古くから存在しています。ライブコマースの二度の波日本におけるライブコマースの本格的な普及は、二度の波に分けられます。 第一波(2015年頃〜): この時期にライブコマースは導入され始めましたが、中国のような絶大な人気と定着には至りませんでした。 第二波(2020年/コロナ禍): ライブコマースが再注目されたもっとも明確な理由は、新型コロナウイルスのパンデミックです。アパレルを含む実店舗を持つブランドが営業を停止せざるを得なくなり、販売チャネルが一気にオンラインに集中しました。この時、従来のECサイトで提供されてきた写真やテキストによる情報だけでは、店舗での顧客体験(商品の質感や使用感など)を提供しきれないという課題が顕在化し、ライブ配信や動画がオンライン上でも注目され始めました。
市場規模の急成長と日本独自の課題日本のライブコマース市場は、この第二波を経て急速に拡大しました。市場規模は2020年の約140億円から2023年には約3000億円へと、3年間で約20倍に成長しています。しかし、日本の消費行動には独自の特性があり、中国や米国と同じ手法では普及しませんでした。成長の背景には日本特有の購買行動があり、中国や米国のように「価格や勢い」だけで一気に普及したわけではありません。むしろ、日本では「信頼できる情報」と「丁寧な比較検討」が重視されるため、ライブコマースも独自の進化を遂げる必要がありました。 信頼性重視の購買行動: 日本の消費者は、販売商品に対する懐疑的な感情を持つ人が多く、サイトやレビューが豊富で、信頼できる情報源からの紹介がないと商品を購入しません。 慎重な検討プロセス: 全体の約6割が商品購入を悩むと回答しており、衝動買いや即時購入につながる人が少ないという傾向があります。このため、日本企業が成功を収めるためには、中国モデルのような価格競争ではなく、商品の専門的な知識や、対面接客文化の延長線上にある「高付加価値な体験」を提供する戦略を採ることが重要となっています。2.事業者の動向:価値の転換とプラットフォームの進化
コロナ禍を経て、ライブコマースに取り組む事業者の戦略と、プラットフォームの勢力図にも変化が生じました。短期売上からの脱却とLTV重視へパンデミック時に短期的な売上を重視して参入したアパレル系の一部の事業者は、プロモーション費用増加や利益率の圧迫から、その後撤退する傾向が見られました。一方で、化粧品や家電といった高粗利で、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)向上を重視するハイブランドやエンタープライズ企業は、ライブコマースの取り組みを継続しています。日本では、ライブコマースの価値が「短期的な爆発的売上」から、既存顧客に対して「濃い顧客体験」を提供する施策へと転換しました。 例えば、あるコスメメーカーでは、コンバージョンよりも「商品制作の背景」を視聴者に届けることを優先し、双方向のコミュニケーションを重視することで、長期的なブランドファンとの関係性を深めることに注力しています。 具体的な施策例として、UNIQLOの「LIVE STATION」では、「身長表示」で着用イメージを具体的に伝えたり、動画と商品ページを連動させたりと、購入検討の機会を創出する戦略をとっています。TikTok Shopの台頭とクリエイター経済近年、特に注目すべきは、TikTok Shopのグローバルでの急速な拡大です。TikTok Shopは2021年に東南アジアやイギリスで開始され、2025年までに15以上の市場にサービスを拡大しています。東南アジアでは2年間で市場シェアが急拡大し、巨大な流通総額(GMV)を達成しています。海外でのTikTok Shopの成功は、その「発見型コマース」の特性にあります。 ライブ配信の重要性: TikTok Shopにおいて、ライブ配信は主要な売上ドライバーであり、ライブ配信経由の販売が流通総額の大部分を占める傾向があります(例:日本のローンチ初期には流通の約7割がライブ経由)。 インフルエンサーの活用: TikTok Shopの売上の半分以上はインフルエンサー経由から作られるケースがほとんどであり、クリエイターが商品を紹介し、視聴者の購入に応じて成果報酬が発生するアフィリエイトプログラムが大きな役割を果たしています。 「本物らしさ」への回帰: 編集された美しい映像よりも、リアルタイムでインタラクティブな「オーセンティシティ(本物らしさ)」が極めて重要です。ブランドの創業者や「中の人」が顔出しで出演することが、信頼獲得につながる重要な要素です。現在、TikTok Shopは美容(パーソナルケア)、レディースファッションを中心に、衝動買いしやすい低価格帯(目安1万円以下)の商品と非常に相性が良いと分析されています。日本のTikTok ShopのGMVも、2025年10月には約22.1億円に達し、美容カテゴリーが21%の成長を牽引しています。3. 未来と進化:「AI時代の信頼性」と「ユニファイドコマース」
この章では、AI時代におけるライブコマースの価値と、次の購買体験がどのように形作られるのかを整理します。特に消費者の情報接触量が激増する現在、ライブならではの「生の信頼」が再評価されつつあります。ライブコマースの未来は、技術革新と消費者行動の変化によって大きく進化していきます。コンテンツ過多時代における「ライブ」の価値今後、AIによる生成コンテンツが増加していくと予想される中で、消費者の間では、信頼性や本物らしさに対する需要がさらに高まります。 信頼性の向上: 編集されない「生」の情報を提供するライブ配信は、スポーツ中継のように価値が上昇し、SNSのみならず企業のウェブサイトにも波及すると考えられています。 インタラクティブ性の追求: 視聴者がその場で質問し、回答を得られる双方向の体験は、顧客満足度を高める重要な要素です。中国では既に、AIアバターによるライブコマースも活用されており、効率化と体験の融合が進んでいます。生成AIは、台本作成や背景デザインの自動生成、さらにはブランドイメージに合わせたデジタルヒューマンKOLの活用も広げていますが、まだ試行錯誤の段階です。
動画を基盤とした「ネクストジェネレーション」な購買体験ライブコマースの進化の最先端は、中国市場に明確に現れています。中国の大手プラットフォームのアプリ体験は、ほぼ動画セントリックなUI/UXで構成されており、類似商品をクリックするとそのまま別の動画フィードに「滑らかに遷移」するなど、従来のECの枠組みを超える「ネクストジェネレーション」な体験設計が実装されています。たとえば、商品をタップすると、その商品を扱うライブ配信へシームレスに遷移するなど、動画を中心に据えた設計が標準化し始めています。未来の購買体験は、SNS、ECサイト、実店舗といったあらゆる接点を横断して一貫した購買体験を提供する「ユニファイドコマース(Unified Commerce)」が前提となりつつあります。マーケターの皆様にとって重要なのは、TikTok Shopのような新規チャネルで得られた動画コンテンツを「動画資産」として捉え、これを自社ECサイト、Amazon、広告、実店舗など他チャネルでの二次活用を意識することです。ライブコマースは単発の売上を追うだけでなく、ブランド体験の向上とファンとの関係性強化に貢献する、デジタル・ブランド・エクスペリエンスの一環として位置づけられるべきでしょう。
