楽天の「無人配送ロボット」都心で本格稼働開始
「楽天無人配送」の配送ロボット(筆者撮影)
赤い小型ロボットが歩道を速歩きの速度で進む。横断歩道に差し掛かると一時停止し、信号を確認して歩行者と同じように横断する。楽天グループが11月6日に東京都内で開始した無人配送サービス「楽天無人配送」の風景だ。
配送先はオフィスや公園など62箇所
展開エリアは東京都中央区の晴海地区。東京オリンピックの選手村が転用された「晴海フラッグ」など高層マンションが立ち並び、住民1万4000戸超の大規模な商圏を抱える地域だ。
内部の大半は保管庫になっており、スーパーや牛丼屋の店員が商品を詰め込む(筆者撮影)
楽天無人配送はスマートフォンの専用サイトから注文すると、自動配送ロボットが指定の場所まで商品を届けるサービスとなっている。スターバックスコーヒー、スーパーマーケット文化堂、吉野家の3店舗と提携し、温かい料理や生鮮食品を含む5300品以上を取り扱う。配送先はマンションやオフィス、公園など62カ所の指定された場所となっている。
横断歩道では一時停止。遠隔操作者が目視で確認したうえで渡る仕様となっている(筆者撮影)
利用者は専用サイトで最短30分後から最長6日先までの配達時間を15分単位で指定できる。ロボットが到着すると自動音声電話とSMSで通知され、暗証番号を入力して商品を受け取る。配送料は100円(税込み)に設定されている。
受け取り時はSMSで通知される暗証番号が必要となるため、第三者に商品を盗まれることはない(筆者撮影)
8月下旬から実施していたテストサービスでは、「商品が早く欲しいときに便利」「ロボットに愛着を感じた」といった利用者の声が寄せられているという。
法改正を活かした完全無人配送
本サービスの特徴は、人による随行なしでの完全無人配送にある。楽天は2019年から実証実験を続けてきた。2022年11月から2023年12月にかけてはつくば市で1年以上にわたり、毎日の配送サービスを実施。3000戸を対象に、実際の住民への配送実績を重ねてきた。
今回は実証実験ではなく「サービス」として展開する。これまでの実証実験では監視者が随行していたが、今回は完全に無人で運行する。「多くの実証実験を重ねて安全性を確認してきました。今回はその経験を活かし、本格的な商用サービスとして、より多くのお客様の日常生活をサポートしていきたい」と楽天グループの牛嶋裕之無人ソリューション事業部ヴァイスジェネラルマネージャーは意気込む。
楽天グループ 無人ソリューション事業部 ヴァイスジェネラルマネージャーの牛嶋裕之氏(筆者撮影)
背景には、道路交通法の改正がある。2023年4月の改正で、「遠隔操作型小型車」という新しい車両区分が設けられ、一定の安全基準を満たせば公道での走行が可能となった。
楽天は業界団体の一般社団法人ロボットデリバリー協会の安全基準に基づく審査に合格。月島警察署への届出を経て、公道での無人走行を実現した。
使用するロボットはアメリカ・Cartken社製で、歩行者と同じ交通ルールに従って走行する。前後左右に設置されたカメラで周囲の状況を監視しながら、安全な自動走行を実現している。
配送ロボットは歩行者の走行ルールに従って歩道を走行する(筆者撮影)
持続可能なサービスへの道のり
2024年4月からの労働時間上限規制により、物流業界では人手不足の深刻化が懸念されている。特に、ECサイトの利用拡大や即時配送ニーズの高まりにより、ラストワンマイルの配送需要は増加の一途をたどっている。2022年1月に設立されたロボットデリバリー協会には、すでに30社以上が参画。今後、さまざまな企業による無人配送サービスの展開も予想される。
課題は収益面での持続可能性だ。経済産業省の「物流効率化に向けた先進的な実証事業」による支援を受けており、今後の収益モデルの確立が求められる。無人配送ロボットの導入には、ロボット本体の調達やシステム構築、遠隔監視センターの運営など相応のコストがかかる。「まずはお客様に使っていただく段階から始めていきたい」と牛嶋氏は述べる。料金体系の見直しも検討するようだ。
そして、サービスを拡大していくうえで欠かせないのが利便性の向上だ。現在は62カ所の指定された場所での受け取りとなるが、より柔軟な配送先の設定が求められるだろう。技術面での開発も進む。三菱電機グループでは、ロボットとエレベーターを連携させるシステムの開発を進めており、今年8月から実証を開始している。天候や夜間の対応など、サービスの安定性を高めるための技術的な改良も継続的に行われている。
三菱電機グループでは配送ロボットとエレベーターの連携に取り組んでいる(筆者撮影)
「サービスエリアと提携店舗を順次拡大し、物流課題の解決に貢献していきたい」と牛嶋氏は展望を語る。つくばでの実証実験で得られた知見を活かし、都心での本格展開を成功させることができれば、自動配送ロボットは物流の新たな担い手として浸透しそうだ。
(石井 徹 : モバイル・ITライター)