高木竜馬さんと篠永紗也子さん

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 人生いろいろ、家族もいろいろ、幸福の形もいろいろ。近年、「結婚がゴールではない」という声も大きくなりつつあるとはいえ、ゴールインした二人には幸せになってほしいと思うのが人情というものだろう。

 そして、そのゴールに到達するまでには、十人十色のドラマがあるのは言うまでもない。目下、幸せに包まれているカップルにエールを送りつつ、出会いから現在までを根掘り葉掘り聞いてみる「令和の結婚事情レポート」。

 今回登場していただくのは、世界を股にかけて活躍するピアニストのお二人。共に国際的なコンクールで数々の優勝・入賞歴がある高木竜馬さん(31)と篠永紗也子さん(30)だ。

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最初はあいさつしても視線が合わず

 竜馬さんはピアノ界の神童で、中1の時に「題名のない音楽会」(テレビ朝日系)に出演。小学生だった紗也子さんは母と番組を見て、その演奏に「年が近いとは思っていなかった」。

高木竜馬さんと篠永紗也子さん

 2017年2月。オーストリアはウィーンへの留学を意識し始めた紗也子さんは、現地に留学中の竜馬さんのツイッターをフォロー。「ピティナ・ピアノコンペティション」優勝の副賞で、4月8〜11日にウィーンへ。共通の友人に招待された食事会で初対面を果たす。

 彼女の竜馬さんの第一印象は「コミュニケーション苦手?」。あいさつしても視線が合わなかったのだ。ホストファミリーが賞味期限切れに気付かずにくれたエビせんべいを、面白半分に渡して反応を探ると竜馬さんは案の定、口あんぐり。

 ただし竜馬さん、彼女に抱いたのは好感で「面白く、話していて楽しい人と出会いたい」と思っていた時期でもあった。彼女の茶目っ気に「心がときめいた」。以後、席を設けてくれた友人の助けを借り、彼女の帰国後も連絡を取るようになった。

電話越しに“正座”で告白

 紗也子さんもほんのり好意を感じる中、竜馬さんを特集したラジオ番組で、彼が弾くドビュッシー「水の反映」を聴き、「こんな演奏するんだ。すごい!」とさらにほれた。一方の竜馬さんは、5月に演奏会のため帰国する際に交際を申し込もうと計画。だが、直前の4月27日、ビデオ通話で彼女が「今日、私の山羊座は恋愛運100点らしいよ」と言ったせいで流れは変わる。

 竜馬さんは直接会って胸の内を伝えようと思っていたが「告白されるよりは」と判断。電話を置いて正座し、「付き合ってください」。音楽用語の「プレスト」並みの「急速な」展開に。

互いにコンクールをサポート

 住まいは離れていてもピアノ観は近い。18年の「エドヴァルド・グリーグ国際ピアノコンクール」ではラウンドごとに落ち込む竜馬さんを、彼女が日本から励ました。おかげでファイナルでは充実の演奏を終えた竜馬さん、舞台袖からすぐに日本へ電話して万感の思いを伝えた。結果は見事に優勝。21年、紗也子さんが「オー・ドゥ・フランス国際ピアノコンクール」に出た時は、彼がビデオ通話越しにオーケストラパートを歌って事前の練習をサポート。自他ともに認める「歌下手」をものともしない愛の側面支援で、彼女は2位に輝いた。

プロポーズは涙とともに

 二人が完全帰国した22年以降も、それぞれ各地で演奏会があり、竜馬さんは京都市立芸大での講師の仕事があったりですれ違う日も。

 とはいえ連絡は怠らず、スマホアプリの「マリオカートツアー」で本気の対戦を繰り返して愛を育んだ。昨年と今年、竜馬さんは地元・千葉市で開く「みんなのピアノフェスティバル」に紗也子さんをゲストで迎え、公の場で初共演した。

 彼を紹介された際、昔見た番組を思い出し、「あの竜馬君?」と驚いた紗也子さんの母から昨年末に「そろそろ」とアドバイスを受け、婚約指輪や結婚指輪を二人で事前に買いに行った。

 残るはプロポーズのみ。

 今年2月29日。4月から東京藝大での勤務が決まった紗也子さんへのお祝いの意味で熱海旅行へ。食事後、旅館の部屋で竜馬さんは極度の緊張状態にあったが、ケーキを運んでくれた外国人スタッフのたどたどしい「ダイジョウブ!」の言葉で一気にリラックス。「理想の家族が築けると思います」と泣きながら手紙を読んで求婚し、紗也子さんはその姿を笑って見つめた。

 竜馬さんは「外から帰ってくると信じられないくらいに落ち着く」と言う。理想の居場所となった新居で、今日も妙なる調べは響く。

「週刊新潮」2024年11月7日号 掲載