(写真: Graphs/PIXTA)

一般家庭を狙う強盗事件が各地で相次いで発生しています。「闇バイト」で集められた犯行グループが関与していると見られ、特殊詐欺で培ったノウハウを用いて強盗をしていることがうかがえます。

特徴の1つは役割分担をしながらの犯行です。報道によると、犯行グループには「指示役」、それを受けて強盗をするなどの「実行役」、奪い取ったお金や貴金属の「回収役」がいます。

指示役や実行役は秘匿性の高い「シグナル」などの通信アプリを使ってやりとりし、警察が捜査してもなかなか上位の指示役にはたどり着かない手口です。

闇バイトの募集が絶えないワケ

これまでのケースでは、闇バイトで集められた実行役は、指示役からの命令のままに行動します。イヤホン経由で「窓を壊せ」と指示されたら、そのとおりに家に侵入して「金庫を開けろ」と言われたらこじ開けようとします。さらにはキャッシュカードを奪い「暗証番号を聞き出すために暴行しろ」と言われれば実行します。犯行は稚拙で粗く、多くの証拠を現場に残すことになります。

詐欺においてもそうですが、実行役は逮捕されることが前提の「捨て駒」としての存在です。そのため実行犯の人手不足の状況が年中続き、SNSには闇バイトを募集する投稿が絶えません。

今回の強盗の実行犯とされる容疑者の多くは20代の若者であり、中には「バイト」の内容が強盗と知らされずに現場に行った者もいるということです。親御さんのなかには、自分の子供が魔の手にかからないか心配している方もいるかと思います。

実際、闇バイトの募集であると気づかずに応募する人がいます。一般的に「高額報酬」をうたいバイトを集めますが、筆者が取材をしたある女性は、1万5000円ほどの日給のアルバイトに応募して、犯罪行為だとは知らされずに仕事をさせられています。1回目の仕事ではわからずに、2回目に高齢女性から紙袋を受け取ったところで詐欺ではないか、と気づきますが、結果として詐欺に加担することになっています。

こうならないためにはどうすればよいのでしょうか。十数年にわたって、闇バイト募集に調査電話をかけて、リクルーター(詐欺の募集をする役)と話をしてきた筆者の経験から、解説できればと思います。

「ホワイト案件」といっても要注意

闇バイトとして募集されるものには、現金を直接に取りにいく「受け子」、キャッシュカードでお金を引き出す「出し子」、海外リゾートバイトなどといって、海外のアジトで詐欺の電話をかけさせる「かけ子」、銀行口座を新規で開設したり、スマホを契約してくれれば、報酬を払うというものもあります。

ただしSNSですぐに闇バイトとはわからないよう掲載していることも多くあります。なかには闇バイトへの注意を呼びかけて、「ホワイト案件」(詐欺ではない仕事募集)とうたう募集もあります。

闇バイト募集を見抜くには、「高額バイト」「高収入」「即日即金」「UD(受け子、出し子の隠語)」「運び」といった言葉を覚えておいてください。これらが書かれていたら、闇バイトの可能性があると思って立ち止まってください。これが見抜くための第1のポイントです。

しかし募集に興味をもってDM(ダイレクトメッセージ)を送り、連絡を取る方もいるかもしれません。第2のポイントとして、すぐに返事がきて秘匿性の高い通信アプリ(テレグラム、シグナル)にて「仕事の説明をしたい」と募集先から言われたら、闇バイトを疑ってください。なぜこのアプリを使うのかといえば、犯罪の指示の証拠を消すためです。一般の求人募集ではこうしたアプリは使いません。

リクルーターらは口がうまく、応募者をだますための話術に長けている人物だということです。これまで数えきれないリクルーターたちと話をしてきましたが、そのほとんどが特殊詐欺を長くやってきた人間であることがわかっています。

最初から威圧口調で話す人もいましたが、ほとんどの人は親切で思いやりを見せるように話をしてきます。その丁寧さから、犯罪にかかわる仕事だと気づかず話し続ける人もいます。

「大変だよね」「これまでお金で苦労してきたね」

最初に彼らが聞いてくるのは、私たちの個人情報です。仕事の面接と称して、名前、生年月日、年齢、居住地を聞いてきます。しかしそれだけではありません。続いて聞いてくるのが「借金はどのくらいあるのか」「いくら稼ぎたいのか」です。ほとんどの応募者が、お金に困って応募しているので、つい答えてしまいがちです。

もし借金があることを明かすと「大変だよね」「これまでお金で苦労してきたね」と同情するように優しく接してきます。そこで「うちの仕事では1回で5万円はもらえるから、すぐに借金は返せるよ」と言うわけです。

しかし考えてみてください。普通、仕事の面接で、いきなり「あなたの借金は?」などということを聞くことはないはずです。そうしたことを聞いてきたら、闇バイトの仕事であると思うことが必要です。これが第3のポイントです。

犯罪行為をさせる前には、必ず応募した人の身分証を写真に撮って送るように言ってきます。応募者の性格を含めて、すべての個人情報をつかみ、仕事と称して犯行に及ばせます。ここには「家族に危害を加える」などと脅して犯行に駆り立てる狙いもあります。

いずれにしても、応募先の人間は詐欺を長くしてきた人間なので、相手の心をつかむ術に長けています。それゆえに20代の若者などはその魔の手にはまってしまいがちです。安易にSNSの求人にDMを送らないことが大事になります。

グレーだと思われる仕事は断る

気をつけてほしいことに、一般の求人サイトの募集にも「配達、回収」や「携帯電話を契約する業務」のスタッフ募集のような求人を出しながら、実際には、詐欺などの犯罪に加担するように誘導するものもあります。求人サイトと一口にいっても、運営会社が利用者のことを第一に考えて、厳格に応募先の会社を調べてから求人を載せる場合と、ほとんど無審査のままに載せる求人サイトがあります。

過去にも、求人サイトの募集に応募して、闇バイトに加担したというケースもありますので、名の知られた求人サイトの募集だから、絶対に大丈夫ということはありませんので、相手をだますような行為をさせるグレーだと思われる仕事は断ることが必要です。

SNSを当たり前のように使う時代ですので、親御さんとしても心配なところだと思います。ネットは本人の関心のある情報ばかり表示されるようになっていますので、なかなか強盗や詐欺などの犯罪の手口や注意喚起を目にする機会がないかと思います。

そこで、家庭のなかで、どんな文言が闇バイトの募集では出てくるのか、その募集からどのようにして犯罪に誘導されてしまうのかを話し合う機会を持ってください。手口を知れば、立ち止まり、周りへの相談も容易にできるはずです。

特にSNS上には個人情報を知られて犯罪に巻き込まれる危険がつねに存在しています。身元がよくわからない相手とは、つながりを持たないようにすることも必要です。

「現金をプレゼントします」

取材した方のなかには、お金に困って「新規に銀行口座を開設すれば、資金を工面してあげられる」といった書き込みを見て、キャッシュカードを送ってしまい、それが詐欺に悪用されたケースもありました。このときは「現金をプレゼントします」というアカウントをフォローしたことがきっかけで募集を目にしています。

SNS上のあらゆるところに、犯罪グループの罠が潜んでいます。犯罪につながるようなワードを検索しない、危険そうなアカウントをフォローしないといった、きっかけをつくらない心がけも大事になります。

( 多田 文明 : 詐欺悪徳商法ジャーナリスト)