西武から6位指名を受けたエナジックスポーツの龍山暖【写真:長嶺真輝】

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夏の沖縄大会で話題沸騰、エナジックスポーツ・龍山暖捕手が西武から6位指名

「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が24日に行われ、ノーサイン野球を武器に今夏の沖縄大会で準優勝まで駆け上がり、「謎の高校」として話題を呼んだエナジックスポーツ(沖縄)の龍山暖捕手が、西武から6位指名を受けた。同校はまだ創部3年目で、龍山は1期生の一人。1年生15人のみから始まったチームが、最短期間で初のドラフト指名選手を生み出した。

「おおー!」。ドラフト会議の開始から約2時間。テレビ画面から「たつやまはるき」の名前がアナウンスされると、時間の経過と共に重みを増していた教室の雰囲気が一変した。爆発したように沸き起こった歓声と拍手に包まれる中、硬い表情がふっと解けた龍山は、横に座っていた新里哲弥前主将らと笑みを浮かべながらグータッチ。日が沈み、雨が降りしきる中、屋外の窓越しに見守っていた保護者の中には「超うれしい」と涙を流す人もいた。

 直後に始まった記者会見。龍山の目にも光るものがあった。「野球を始めた頃から夢だったプロ野球選手に選ばれて、ほっとしています。自分よりも他の人がもっと喜んでくれて、本当に応援されているんだなと思いました」。声を詰まらせ、駆け付けた両親への感謝も口にした。「小学校で野球を始めた頃から、送迎など金銭面でもいろいろ迷惑をかけてきたので、恩返しがしたいです」

 中学3年の時、沖縄高校野球界の名将で知られる神谷嘉宗監督に「新しい学校で、君たちが1期生になる。僕とやらないか」と勧誘を受けた。しかも、取り組んだのはノーサイン野球。「自分たちが一から歴史を作っていくという、他の高校では体験できないことに魅力を感じました」。チャレンジ精神に火が付いた。

 当初は連係に苦しんだが、寮生活で辛苦を共にし、練習で実践を積み重ねたことでノーサイン野球の完成度が少しずつ向上した。最高学年となった今年の沖縄県春季大会で興南と沖縄尚学という2強を倒して優勝。夏はあと一歩甲子園に届かなかったが、準優勝に輝いた。長いカタカナの校名、ノーサイン野球という個性に溢れた学校が突如現れ、その快進撃は沖縄だけにとどまらず、全国の高校野球ファンを驚かせた。

 龍山自身、以前から常々「自分がプロになれば、エナジックに入ってくれる選手も増えるし、それが学校に対する恩返しになると思います」と口にしていた。その思いが結実し、この日も「創部3年で、しかも1期生でプロ選手が誕生するというのは自分も聞いたことがないですし、そこは話題性があると思います。僕が指名されたことで、日本全国でエナジックという学校が有名になれば、とても嬉しいことです」と喜びを語った。

最大の武器は二塁送球1.8秒の強肩、そしてエナジック3年間で培った“力”

 最大の武器は、二塁送球タイムが世代屈指の1.8秒前後という肩の強さ。よく動画を見るという甲斐拓也(ソフトバンク)ばりの“キャノン”で、飛び出した走者を刺すこともある。50メートルを6.2秒で駆ける走力、高校通算19本塁打を放った打力も強みだ。そしてもう一つ、エナジックでの3年間で培った“力”がある。

「プロの試合を見ていても、帰塁の時に目を切っているランナーもいるので、『これ刺せるな』と感じる場面もあります。ノーサイン野球に取り組んだことで、相手の隙を探す習慣、気付くことのできる観察力を身に付けることができました。これは自分の一番大きな武器で、プロの世界でも生きてくると思います」

 送球時の足の運び方や打撃のミート力など荒削りな部分はあるが、「育成の面で非常に優れている球団」(龍山)というイメージを抱く西武で、“4拍子”にさらに磨きを掛ける決意だ。「1日でも早く1軍の試合に出場して、日本代表にも選ばれるような選手になっていきたいと思います」と夢も大きい。エナジックが掲げる「世界へ羽ばたくトップアスリートの育成」を体現すべく、新たなチャレンジへと足を踏み出す。

(長嶺 真輝 / Maki Nagamine)