「BASE BREAD こしあん」や即席麺などの新商品で売り上げ拡大を狙うベースフード。だが昨年に発生したカビパン騒動の影響は想定以上に尾を引いている(記者撮影)

「総菜パンやカップ麺、パンケーキなどの導入、自主回収からの回復について小売店の売り上げを見誤った。非常に反省しており、今後はないようにしていきたい」――。ベースフードの橋本舜社長は10月15日、2025年2月期中間決算説明会で冷静に振り返った。

1食(BASE BREADの場合2袋)で1日に必要な栄養素の3分の1がとれる「完全栄養食」としてパンやパスタなどを展開し、自社ECサイトや小売店で販売するベースフード。同社は中間決算の発表と同時に通期業績予想を下方修正した。

中間決算は売上高が前年同期比6%減の75億円、営業損益は4.7億円の赤字(同1.2億円の赤字)、当期純損益は5億円の赤字(同1.3億円の赤字)だった。厳しい進捗を受け、期初計画の売上高190億円を157億円(前期比5%増)、営業利益1.6億円を5100万円(前期は9億円の赤字)へ、いずれも下方修正した。

新商品の不調が下方修正の原因に

修正の主な要因は、コンビニ向けの新商品として今年5月に発売した総菜パン「BASE BREAD(ベースブレッド) ソーセージ」「同 ツナ」の不調だ。


ベースブレッドはチョコレート、メープル、シナモン、こしあんなどさまざまな種類を展開し、リニューアルを続けている(撮影:梅谷秀司)

ベースフードの旗艦商品は、賞味期限が1カ月程度と長いベースブレッド。小売店では、賞味期限の短い通常のパンと分けて並べられているケースが多い。これまで順調に配荷店舗数や売り上げを伸ばしてきた。

同社は今回初めて日配品に参入し、通期で販売する予定だった。だが、パンの棚は種類が豊富で入れ替わりが激しく、低価格品も多く存在する。ベースフードは栄養素を武器に高価格帯で勝負したが、値段相応のメリットが消費者には伝わらず、結局は終売に至った。

また、今上期には即席焼きそばやパンケーキミックスなどの新商品も発売したが、これらの小売店への導入も想定を下回った。

カビ騒動の影響もあった。同社は昨年10月、一部製品でカビが発生したため、ベースブレッド計76万4581袋を自主回収した。問題は小売店だ。スーパーやコンビニが導入するにあたり、どうしても「商品にカビが発生した会社」という印象がつきまとう。


より安全なパッケージへ変更し、パン生地も菌の付着や包装の破損が生じた場合でも、菌の増殖を抑制できるよう改善。信頼の回復に努めたが、小売店への導入は想定を下回った。

前下期はカビ騒動以降、商品の安全性の確保を優先し、商品のリニューアルや新商品の発売を控えた。その影響で主力の自社ECの定期購入者数は一時的に減少したものの、足元では回復している。

キャッシュは8月末時点で18.1億円へ増加

懸念されていたのは業績だけではない。とくに期初はキャッシュに対する懸念が生じていた。前2024年2月末時点のキャッシュは14.3億円で、2023年2月の22.9億円から8.6億円減少した。営業キャッシュフローも赤字が続いており、ただちに底を突くことはないが、対処が必要だった。

そこで今上期、ベースフードはメインバンクの三菱UFJ銀行から短期借入金4億円と長期借入金5億円を調達、キャッシュは第2四半期の8月末時点で18.1億円へと増加している。


短期借入金が9億円、1年以内に返済予定の長期借入金が1.6億円と計10.6億円を1年以内に返済する必要があるが、ひとまず足元のキャッシュへの懸念は拭われたといえそうだ。

橋本社長は「財務状況については心配をおかけしていた。長いスパンの計画も出した上で(銀行から)信用していただいて借入金を借りている。一過性のことで信頼が揺らぐことは少ないと考えている」と説明する。

関連して懸念が残るのは債務超過の可能性だ。第2四半期時点の純資産は3.9億円で自己資本比率は10%まで落ち込んだ。中間期決算は5億円の最終赤字で、現状のペースでは期末にも債務超過に転落するおそれがある。

この点について会社側は、第3四半期以降、営業黒字を積み上げて自己資本比率を引き上げる方針だ。今期は上場来初の黒字化を見込んでおり、下方修正後も黒字化の見通しは維持した。

これは広告費の削減余地があるからだ。ベースフードの需要期はダイエットへの関心が高まる夏前から夏場で同社の決算期の上期にあたる。

このタイミングで消費者にアプローチするため、第1四半期に10億円、第2四半期は8.5億円の広告宣伝費・販売促進費を使用した。この規模の会社としては大きな出費で、これが上期の営業赤字につながっている。


橋本社長は第2四半期について「営業利益は前四半期比で赤字幅が大幅に縮小し、通期の黒字化の蓋然性が高まった」と語った(撮影:梅谷秀司)

下期は広告費を大きく減らす算段だ。さらにパンの配合の改善や製造効率を底上げするなどで製造コストを下げる。人員の採用縮小や荷造運賃の低減にも努める。8月に商品の値上げも実施しており、通期の黒字化を死守する構えだ。

広告費の削減によって今期は黒字化できるかもしれないが、それで今後の成長を維持できるのか。

同社は新商品の発売やリニューアルを続ければ、1度商品を試した顧客が継続的に商品を購入してくれるとして、今後は広告宣伝に多く頼らずに利益成長できると見込んでいる。

だが、広告費を抑制し続ければブランド認知は低下し、新規顧客の獲得が減速するおそれもある。売り上げの拡大には一定の広告投資が必要だ。製造から営業、販促まで事業全体を見直し、適切な広告投資ができる水準まで立て直す必要があるだろう。

赤字決算、下方修正でもストップ高

なお、業績予想を下方修正したにもかかわらず、ベースフードの株価は翌日の10月16日にストップ高となった。これは補助金への期待のようだ。

ベースフードは農林水産省が運営し、スタートアップの大規模技術実証を支援する「中小企業イノベーション創出推進事業」に補助事業として採択されたと発表。来期以降、最大18.7億円の補助金が手に入る。これらを全粒粉物や玄米を高配合した完全栄養パンの技術開発に充てる予定だ。

交付時期や方法は未定だが、来期にこの額が獲得できるのであれば、財務的に大幅な改善が見込める。

その後も株高は続いている。パソコン周辺機器大手のバッファローを傘下に持つ、メルコホールディングスの牧寛之社長による大量保有が要因だ。同氏が16日にベースフード株を8.36%保有していることがわかり、買いが先行した。

牧氏は18日に2.17%、21日も1.71%買い増し、合計12.23%を保有。保有目的は「主要株主として長期安定保有します」としている。

赤字決算と下方修正でも株高と奇妙な展開となったベースフードだが、本業の立て直しが喫緊の課題だ。黒字化を達成し、営業体制の改善を進められるか。重要な勝負所を迎えている。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)